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…流石に、まずい。
命張って一番高い依頼を受けた結果が七百万の損益になるとは…今回は返済に充てる予定の手持ち金で何とか足りたが…お陰様で懐には食い繋げる程度の金しかねぇ。
L社の金融会社から連絡が来ないというのは良い事ではあるが、逆に言えば追加で借りる事が出来ないという事でもある。『ねじれ』なるものは大抵都市伝説〜都市疾病、もしくは都市悪夢辺り。何の準備もなしに出稼ぎに行って即死。なんて洒落にもならねぇ。
一級フィクサーとしての地位にあぐらかく気はサラサラない。その為最低限死にづらくする程度の準備が必要なのだが…
「結局、金無ぇっつう話になんだよな。」
「…何のはなし?」
「あぁ、ガキんチョ。いつも通り金が…何喰ってやがる。」
「23区の燻製肉《十と数余年間熟成!?最高級の苦痛と嗜好を貴方へ!!》。」
「23区って…ソレ人肉じゃあ…おい捨てんな。いくらだソレ。」
初日、その次の日くらいまでは縮こまって可愛げもあった少女は気付けば金食い虫のクソガキとなっており、借金まみれのこの事務所から更なる出費を生み出していた。ただでさえカツカツなこの事務所で、新たな穀潰しを飼う程の金は持ち合わせていない。
金、金、金。今すぐに、そしてローリスクに大金を稼げる方法…そんなモン…
「…あっ」
あるじゃないか。稼ぐ、と云うよりは回収が正しい表現であろうが、それでも危険性の無い、契約でがんじがらめにした工房こと『アセット工房』。奴が前回からどれだけの利益を上げているか、久しぶりに訪れてみるのも良いかもしれない。
この事務所を金もコネクションも無い形だけの事務所だと侮るでない。当事務所名義の傘下工房、アセット工房を抱え、工房長本人との”話し合い”により、その工房によって発生した利益は丸々回収が可能なのだ。
少なくとも、例の借金を返し終わるまでは。
「おい、クソガキ。」
「ガキじゃない。何?」
「L社の巣に用があるから、ウェルドと一緒に大人しくお留守番してろ。」
「やだ。一緒に行く。」
「あのなぁ…」
「…代表、アイツの所へ行くんですか?」
いつの間にかそこに居たウェルドが心底嫌そうな顔をする。俺だって良い気はしない。が、そうとも言ってられない状況なのはウェルドも理解していたのだろう。嫌々ながらも承諾ーー…
「なら自分は依頼受けに行くんで。その子連れて行ってあげて下さい。」
「おま……はぁ。行くなら都市伝説級までにしとけよ。」
「はい。」
コイツの妙に頑固な所は昔から変わりやしない。これ以上の問答に意味がないことを知っていた俺は、ガキを連れて足早に目的地へ向かった。
…L社の巣は白夜・黒昼事件によって案の定裏路地と同レベルまで荒んでおり、裏路地から巣間までに必要であったパスポート等の面倒な手続きをガン無視することができた。そこら中に放火の後や火事場泥棒を企むゴロツキ共が闊歩し、この調子ならいずれ指とも相対することとなるだろう。体力はまだまだあるだろうにヘバっているガキを引っ張り、例の金融会社へ足を向けた。
が、数多の怒号と血が舞い散る廃墟同然となったビルを横目に、もしかすれば踏み倒せるかも知れぬ借金のことを思い返しうなだれる少女を無視しガッツポーズをした。
…そこまでは良かった。のだが、その金融会社と併設されていた工房が跡形もなく崩れ去っている様を見た直後。…いや、その渦中で何やら一段大きく喚く人影を見た瞬間。俺は走り出した。
「すみません!!すみません!!!お、お金ならあるので!!ほらっ…ぁえ?」
典型的でみっともない命乞いを繰り返す彼女に、ジリジリと近寄るならず者共。ソイツ等の伸ばした手が鼻先に当たりそうとなったその瞬間、取り囲んでいた全員が縦に両断された。
「…知らん奴にホイホイ渡せる程度の額は持ってるらしいな。」
「…じ」
「あ?」
「ジェローム〜〜!!!遅いよ〜〜!!!」
返り血でベトベトに汚れたソイツが大袈裟に吠え立てる。先程までの縮こまってた奴は何処へやら、両手に掴まれた工具で俺をボコスカ叩いてくる。
そんなみっともないコイツが…コイツこそが例のアセット工房の工房長、ミハイルであった。工房長なんて立派な肩書こそ有れど、それに似合う威厳や立ち振舞いは持ち合わせて居なかったらしい。
「L社潰れて…12区の治安最悪なこと知ってたでしょ!?」
「そうだな。」
「私何回も死にかけてたのに!!!こんな可愛い子ちゃんが酷い目に遭って、可哀想だと――…
「思わねぇな。それより金出せ」
ミハイルが俺の顔面目掛けボルトでぶん殴って来る。こんな奴の何処が可愛いのか?
身体施工等を受けていないミハイルの一撃は余りにも軽く、避けもどかす必要もなかった。この一週間近くマトモに飯も食えなかったのだろう。振りかぶった勢いで一回転、そのまま倒れ込む。
その滑稽なザマを傍から見れば『可哀想』『哀れ』なんて言葉も浮かぶのだろうが、俺…引いては俺等◯◯事務所2人は違う。
ここまでコイツに当たりが強いのには、当然それ相応の理由があった。
アセット工房、工房長ミハイル。
オールラウンダーに武器を取り扱い、癖こそ強いが高品質で安い素晴らしい工房。初めの頃はヴェルドと共に足繁く通った物だ。
そうして…何度も何度も足を運び初め1年の経った頃。その工房長様が一つの提案をしてきたんだ。
「ねね。そこのお二人さん。」
「「…?」」
「最近ウチの工房も経営が厳しくて…少し前に常連さん事務所が2つも潰れてから中々利益が出ないんだよね。」
「そりゃあ…まずいな。俺等も此処が潰れられるのは困る。」
「でしょ!?だから…お願い!!ウチの工房、そっちの事務所傘下に入れて!!下さい!!!
ほらっ、要望とあれば真っ先に武器も作るし、製作そのものにお金は取らないから!!どうか!!!」
「…だ、そうですよ。どうします代表。」
「う〜む…まぁいつも世話になってる訳だし…いいかもな。」
「本当!?!?……こほん。傘下として働くからには、絶対に損させないから。期待しててね!!」
そうして契約書を交わして一週間後。調子に乗って様々な武器製作依頼を取り続けた結果、頭の禁忌に抵触した武器を作り上げやがった。使用、販売こそされなかったが故に即刻爪による処刑こそ行われなかったが、A社から直々に三十億眼もの罰金が科された。
そうして当然、傘下組織が負ったその借金は上の責任でもあり…
「ごめん。」
「死ね。」
「代表、コイツバラして売っ払いましょう。」
「ごめんって!!!」
…といった訳で、この事務所の抱える三十億千二百万眼もの借金はほぼ全てコイツのせいなのだ。元より借金など縁もなかった当事務所。多少の依頼失敗によって損益が発生したことこそあれど、その全ては他の成功報酬によってプラマイ0となっていた。積み重なっていく実績。ほぼ同時の一級フィクサーへの昇給。それによって積み上がる資産。
その全てをブチ壊したコイツに、どう優しくしろというのか。
うつ伏せでくたばるソイツを見下ろす。
…それでも、この期に及んで工房の利益がどうのと殺さず放っているのは、コイツの工房武器に命を救われた場面が少なからず存在した為だった。 良き客として、良き店として。良好な関係が築けていたのは事実なのだ。
「はぁ…で、前からいくら稼いだ?巣ん中だとしてもこの有様だ。一定の需要くらいはあるだろ。 」
「け、結局お金ぇ…?」
「早くしろ。」
未だ倒れ込むソイツに腰掛け、話を続ける。
百万。その程度は余裕があると想定すると、次の依頼は都市疾病か都市伝説を1,2件…
「…なに、してるの?」
話の途中で、一人の少女が割って入る。
服装はボロボロで、手の内の硝子片で形作られた刀にはべったりと血肉がこびり付いている。その背後を見れば、数多のゴロツキによる死骸の山が出来上がっていた。
…完全に忘れていた。
「じ、ジェローム?助けてくれるよね?」
「あ〜…あれだ、元仲間との感動の再会中だ。」
「仲間…お姉さんは、仲間なの?」
「は、はい…。」
「…じゃあそんな事しちゃダメでしょ!ほらじぇろーむ、どけ!!」
その椅子から俺を押し退け、ガキンチョはミハイルに手を伸ばす。
「大丈夫ですか?ほらっ、このお肉食べます?」
「…食べる。けど、いいの?」
「もちろん!…辛かったでしょ?もう大丈夫だよ。」
「う、うううぅぅぅうう……」
「…その肉って…さっき喰ってた23区の…」
「ジェロームぅ!!!この子なんていうの!!!」
「その…私に名前とかは…」
「…そっか。じゃあ…天使みたいだから…ミシェルちゃん!ありがとうね。」
「!…うんっ!」
「あー…盛り上がってるとこ悪いんだが、ソイツはそこに置いてって…」
「は?じぇろーむ、怒るよ?」
「………はあ…」
そうして、金だけ回収する筈だった今回の予定は、金食い虫をもう一匹増やす結果となった。
二百五十万眼。これがミハイルが巣の中で稼いだ額。数万数十万はゴロツキに指の構成員へ渡してしまったらしいが、それでも十分だ。
この金を他の依頼への準備費とすれば、いずれこの事務所も借金を返し切り、和気あいあいとする事務所へ…
「…や、ヴェルド。久しぶりだね。」
「…チッ」
「ひえっ」
…なれるだろうか?
俺以上に期限の悪いヴェルドを横目に、俺は次の依頼を探し始めたのだった。
〇〇事務所 借金額:三十億千二百万 眼
コメント
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うわっめっちゃ熱い話じゃん!!🔥🔥(震え) ジェロームのツンデレっぷりと借金の元凶ミハイルへの冷たい態度…でも実は命救われてるから♡♡♡ないっていう複雑な関係性がエモすぎる😭💕 そしてミシェルちゃんの天然無邪気パワーで空気ぶった斬るシーン、めちゃくちゃ好き!笑 ヴェルドからの「チッ」で爆笑したw この事務所、これからどうなるんだろう…続きめっちゃ気になる!!