「ダメだ。元いた場所に返してこい」
凄い剣幕で春翔は雪乃にそう言い放つ。
しかし雪乃は目を合わせない。
「ちゃんと面倒見るから」
そう言った雪乃の足元でポケモンフードやきのみを爆食いするのは、くさねこポケモンのニャオハ。
隣でイワンコもご飯を欲しそうに顔を近付ける。
しかしニャオハは取られまいと器用に前足で皿ごと自分の方へ引き寄せる。
「あのなぁ、お前は自分のことで手一杯だろ。世話なんかしてる暇あんのか?」
「全然大丈夫だし。別に初めてのポケモンじゃないんだからさ。何でそんなに反対するわけ?」
屈んでニャオハを撫でる雪乃は春翔を見上げる。
「そんなホイホイ拾ってこられても困るだろ」
「ホイホイ拾わないもん」
「じゃあ同じような境遇のポケモンがいたら無視して帰ってこれるのか?」
「…そんなん、その時にならないと分からないよ」
「ほれみろ。このままじゃウチがポケモン保育所みたいになっちまうぞ」
「…でもこの子は」
少し言い淀みながら、お風呂に入れて綺麗になったニャオハの体を撫でる。少し甘い香りがした。
「何だよ」
「…そんな言うけどさ」
雪乃はすくっと立ち上がり、フツフツと湧き上がる怒りの表情で春翔に詰め寄る。
「じゃあ何で私を拾ったの?」
「……、」
「同じような境遇じゃん。春翔も同じ事してるじゃん。何で私はダメなの?」
「………」
「そんな困るんだったら、拾わなきゃよかったじゃん!」
「はい、ストップ」
2人の間に割って入るように、秋斗が現れた。
「2人とも、喧嘩は程々にね。ご飯できたから、手を洗っておいで」
「ねぇ、お兄。お兄は反対?私ちゃんと面倒見るし、この子を一生守る覚悟あるよ」
秋斗は必死な顔をする雪乃の頭を撫でる。
「僕はいいと思うよ。家族が増えるのは嬉しいし、雪ちゃんなら大丈夫だって信じてるから」
優しく頭を撫でられながら、雪乃は春翔を睨みつけた。
お兄はこう言ってくれてるぞ。
お前はどうなんだ、と。
「…俺は反対だからな」
春翔はそう言い残し、洗面所の方へと行ってしまう。
どうしてそんなに反対するのだろう。
雪乃は拾われた自分の存在が否定されているような悲壮感に包まれていた。
「きっと春にも何か考えがあるんだよ。だからそんな悲しい顔しないで」
「……うん」
秋斗は雪乃の頭を撫でた後、イワンコにもご飯をあげる。
イワンコは嬉しそうにニャオハの隣でご飯を食べ、ニャオハは少し鬱陶しそうにイワンコを横目で見るのだった。
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