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涼ちゃんの手の傷は、数日で薄くなった。
でも、 若井の中の怒りは、消えていなかった。
僕は気付いている。
涼ちゃんも気付いている。
若井は表面上、いつも通り。
でも静かすぎる。
ある夜。
僕がぽつりと聞く。
「若井、何か考えてる?」
一瞬の沈黙。
そして低い声。
「……まぁね。大丈夫。証拠は揃ってる」
心臓が跳ねる。
一瞬、なんのことなのか分からなかった。
「証拠?」
若井はスマホを置く。
「脅しのメッセージ。 匿名アカウントの投稿。
涼ちゃんに接触した日時。全部記録した」
淡々と、 感情を乗せずに言う。
それが逆に怖い。
涼ちゃんがそっと言う。
「わ、若井、無茶はしないでね。」
若井は首を振る。
「無茶はしてないよ」
目がまっすぐ。
「ちゃんと正攻法でいく」
そんなまっすぐな若井を見て、僕は不安になる。
「ね、ねぇ、僕のことで、そこまで……」
若井の目が一瞬揺れる。
「……“僕のこと”じゃない。」
低い声。
「俺たちのことだよ」
その言葉で、胸が詰まった。
数日後。
事務所の法務担当が動いた。
名誉毀損、脅迫、業務妨害。
軽い気持ちでやっていい内容じゃない。
相手の職場にも連絡がいく。
事実確認。
調査。
SNSのログも残っている。
逃げられない。
ある日、僕の元に連絡が来る。
相手からの謝罪文。
震えた文章だった。
「出来心だった」
「嫉妬していた」
「成功が許せなかった」
その言葉を読んだ瞬間。
胸が少し痛む。
でも、 もう昔の自分じゃない。
涼ちゃんが隣で言う。
「どうする?」
僕は少し考える。
昔なら、何も言えなかった。
でも今は違う。
「ちゃんと責任取ってもらう」
声は震えていない。
若井が静かに頷く。
結果、 相手は職場で処分を受けた。
SNSも閉鎖。
接触禁止の合意書。
軽い冗談では済まなかった。
全部、自分の行動の結果。
夜、 三人で静かな部屋にいた。
僕がぽつり。
「終わったね」
涼ちゃんが微笑む。
「終わった」
若井は深く息を吐く。
「これでもう近付けない」
沈黙のあと。
僕が小さく言う。
「正直、少しだけ怖かった」
涼ちゃんが手を握る。
「うん」
「でも今は、あの頃と違うから」
僕は微笑みながら二人を見る。
あの中学時代。
一人だった。
誰にも言えなかった。
でも今は
「ずーっと隣にいるからね」
涼ちゃんが笑う。
若井が頷く。
「当たり前」
僕は少し泣きそうになる。
「……僕、ちゃんと前向けるかな」
若井が即答。
「もう向いてるよ」
涼ちゃんも言う。
「もう後ろ、見てないでしょ?」
その言葉で気付く。
本当だ。
あの日の自分は、もういない。
守られるだけじゃない。
一緒に立ってる。
若井がそっと言う。
「強くなったね。元貴」
僕は首を振る。
「ううん、強くなったんじゃないよ」
涼ちゃんが続ける。
「三人になったからだよ」
その言葉が、全部だった。
僕は二人を抱きしめる。
もう震えてない。
過去は消えない。
でも、 未来は選べる。
そして三人で選んだ。
逃げない未来を。