テラーノベル
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きっかけは、ほんの些細なことだった。
レコーディング終盤。
納得いかない歌詞。
納得いかない声。
「もう一回」
僕は何度も言った。
スタッフも帰り、スタジオには三人だけ。
若井が静かに言う。
「ちょっと元貴。休もう??
今日はここまででいいから」
「……よくない」
即答。
涼ちゃんが心配そうに覗き込む。
「元貴、顔色悪いよ」
「気のせい」
本当はずっと頭が重い。
胸の奥がざわざわする。
でも止まれない。
僕が止まったら、全部崩れる気がして。
マイクの前に立った瞬間。
視界がぐらりと揺れた。
次に感じたのは、腕に強い衝撃。
「元貴!」
若井の声。
床に倒れる直前、抱き止められた。
遠くで涼ちゃんの声が震えてる。
「救急車、ッ」
「……待って、意識はある」
若井の声が異様に落ち着いている。
その落ち着きが逆に怖い。
目を開けると、二人の顔。
こんなに焦った顔、初めて見た。
「……ごめん」
掠れた声。
涼ちゃんの目が潤む。
「ごめんじゃない」
若井が低く言う。
「また無理してたでしょ」
図星。
でも、認めたくない。
「……だって、僕がやらなきゃ」
その瞬間、若井の手が強くなる。
「一人で背負わないで。」
怒ってる。
でも怒鳴らない。
その静けさが怖い。
家に戻され、ベッドに寝かされる。
家に帰る前、病院に寄ると、
軽い過労と睡眠不足。
医者はそう言った。
でもそれ以上に、心だと分かってる。
涼ちゃんが隣に座る。
指がそっと僕の手を握る。
「寂しかった?」
その一言に、胸が止まる。
(……なんで分かるの。)
目を逸らす。
「別に」
強がる。
でも声が震えてる。
若井が反対側に座る。
「最近、寂しいって言わなくなったでしょ」
言われて気付く。
確かに、弱音吐いてない。
「……二人に心配かけたくなかった」
涼ちゃんが小さく笑う。
「それ、僕がこの前言ったことと同じだよ。」
……あ、 同じことしてる。
僕はぎゅっとシーツを握る。
「だって……」
喉が詰まる。
「僕が崩れたら、終わっちゃうかもって、」
本音が零れる。
言いたくなかった言葉。
でも止まらない。
「フロントマンなのに、僕、全然強くない」
涙が落ちる。
「寂しいし、不安だし、置いてかれるのも、怖い」
言ってしまった。
静かになる部屋。
終わった、と思った。
幻滅されたかも。
でも、若井が額に触れる。
「やっと言った」
優しい声。
涼ちゃんがもう片方から抱きつく。
「元貴は強いのに、強がりすぎ。
僕たちもいるんだよ」
その言葉で、何かがほどける。
「俺たちは離れないから。」
若井が言う。
「俺たちは三人」
涼ちゃんが頷く。
「元貴が倒れたら、僕たちが代わる。」
そんなこと、考えたことなかった。
僕が中心。
僕がバンドを支える。
そう思い込んでた。
そんな時に若井がそっと言う。
「もっと俺たちを頼って」
涼ちゃんも続ける。
「もっと甘えていいんだよ」
涙が止まらない。
悔しい。
でも、安心する。
僕は二人の服を掴む。
「……じゃあ、、ずっと、ずっとそばにいて。」
珍しく素直な声。
若井がベッドに上がる。
涼ちゃんも潜り込む。
また三人で、挟む形。
「今日は俺たちが守る」
「うん」
涼ちゃんが僕の胸に耳を当てる。
「ちゃんと生きてる音」
その言葉に、胸がじわっと熱くなる。
「怖かった」
涼ちゃんが小さく言う。
「いなくなるかと思った」
若井も静かに。
「本気で焦った」
僕は二人を抱き返す。
「ごめん」
「謝らない」 「謝らなくていい」
同時。
涙で視界が滲む。
こんなに弱くても。
こんなに情けなくても。
二人は離れない。
それが分かった。
それだけで、十分だった。
眠りに落ちる前。
若井の声がする。
「次からは、俺たちにも半分ちょうだい」
涼ちゃんも笑う。
「三等分ね」
僕は小さく笑う。
「……うんっ、」
初めて思った。
支えられるのも、悪くない。
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