テラーノベル
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弁論大会で優位に立てば、頭が切れると思われる。学校の同級生からも一目置かれるかもしれない。何より、自分の意見を通せる。自分の正しさを、相手に納得させられる。
だから、勝ちたい。
そんな考えを持っていた僕は、ある人物を訪ねた。
その人は「言論勝負のプロ」。数々の議論を制してきたことで知られる、話題のインフルエンサーであり、論客でもある。
「弁論大会で勝つ方法を教えてください」
そう言うと、彼は僕の目をしばらく見つめた。
「弁論大会……? ……ああ、お芝居のことか」
少し間を置いて、彼は続ける。
「勝ちたいなら、脚本家に頼んで“自分が優位になる筋書き”を用意すればいい。引き分けが望ましいなら、その通りに用意すればいい」
僕は言葉を失った。
彼は笑いながら、さらに言った。
「相手の主張を正面から全部受け止められるのは、お芝居だけだよ」
「お芝居……ですか?」
僕が尋ねると、彼は肩をすくめた。
「相手の言葉を受けて返す。それができるのは筋書きがある場合だけ。
予測できる状況だから、不安になることも少ない」
「予想外のことは、人を疲弊させる。
知らないことは迷いを生む。だから自然と反応が強くなる」
彼は静かに続ける。
「弁論大会には、筋書きが必要なんだ。だからお芝居も議論ごっこも、娯楽として処理できる。前提を知らないのは、単に経験不足なだけさ」
僕はその日を境に、弁論大会への出場をやめた。
――やめた“ふり”をすることにした。