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その日の夕方、ママは久しぶりの女子会で外出中。お風呂も寝かしつけも、今日はパパである颯斗の担当だった。
「よしっ。じゃあパパとお風呂いくぞ〜〜!!」
テンション高めに手を叩く颯斗に、子供は「やだ〜ママがいい〜〜」と軽くぐずりつつも、タオルをぎゅっと抱えて歩き出す。
(内心ほっとしつつ)「ほら見て、パパ今日ヒヨコのバスボム買ってきたんだよ〜!」となんとかテンションを繋ぎとめる作戦開始。
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服を脱がせるまでは順調。
でも、シャンプーが目に入っただの、お湯の温度がちょっと熱いだの、泡が鼻についただの――もう、バスルームは大混乱。
「いやごめんごめんごめんごめん、ほら…目つぶって、よーし……ほら流すよ……ってちょっ、動かないで!うわ泡ついたぁ〜〜!!」
バスタブの中ではヒヨコのバスボムがぷかぷか浮いてるけど、颯斗の頭の中はすでにパンパン。
「ママって……すごいな……」
思わずぽつりと呟く。
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「あっ!ちょっと、タオル!どこいった!? 走らない走らないってば〜〜〜!!」
びしょ濡れで廊下を全力疾走する娘。
後ろを追いかける颯斗。
ようやくタオルでくるんで抱きしめると、子供の体がほんのりあったかくて、しっかり湯冷めしてないことにちょっと安心する。
「はい、着替え〜。パンツこっちね。そっちはママのだから。なんでブラ持ってんの!!」
ひとしきり騒動の末、なんとかパジャマまで到着。
ドライヤーも済ませ、ミルクを飲ませて、お布団にごろん。
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「……ねぇパパ、ママに早く会いたいねぇ」
「……そだね。パパも会いたい。今度はママと一緒にお風呂入ろっか」
そう言って頭をなでているうちに、子供のまぶたがゆっくり閉じていく。
颯斗はその寝顔をじっと見つめて、静かにため息。
「……俺、今日、頑張ったよね」
静かな部屋にポツンと呟いて、スマホを取り出す。
LINEを開いて、ママに写真付きで報告。
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📷 写真:「タオルぐるぐる巻きで寝落ち寸前の子供」
メッセージ:「ミッション完了。早く帰ってきて……まじで……」
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ふふ、ってママが笑ってくれる顔が、もう颯斗の頭の中に浮かんでる。
あ〜〜明日は全力でママに甘えよう。
そんな夜でした
夜も更けた頃。
玄関のドアが静かに開いて、ママがそっと帰ってきた。
「……ただいま〜……」
靴を脱いで、そーっとリビングに入ると、ふわっとお風呂上がりの匂いが漂う。
明かりの落ちた部屋には、柔らかい間接照明だけが灯っていた。
すると、ソファにへたりこんだまま、うとうとしている颯斗の姿が。
「……ん……おかえり……」
声をかけると、眠そうな目を擦りながら、起き上がった。
「ごめんね、遅くなって。△△、ちゃんと寝た?」
「寝た寝た。戦争だったけど……なんとか生還した」
疲れた顔で、でもちょっと誇らしげに笑う颯斗。
その髪は、ところどころ濡れたまま乾ききってなくて、ママは思わず笑ってしまった。
「ありがと、パパ……ほんとに頑張ったね」
「めちゃくちゃ褒めて……ご褒美欲しい……」
甘えるようにママの肩に頭を預ける颯斗に、ママはくすぐったそうに首を傾けながら、そっと髪を撫でた。
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「ねぇ、写真見た?」
「見たよ。……あのタオル巻き、どうやったらそうなるの?」
「動きすぎてもう……途中で諦めた」
思い出して苦笑いするパパに、ママは「ふふ」って嬉しそうに笑った。
「……なんか、今日のことずっと忘れないかも」
「え、トラウマに?」
「違う違う!感謝と愛の記憶としてね?」
ちょっとだけ拗ねたような、でも照れてるような表情でそう言うと、颯斗は顔を赤くしながら。ママは、小さく「そっか」って呟いた。
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キッチンに移動して、ママが温かい紅茶を入れる。
カップを渡すと、颯斗はそれを両手で包んで「うま……生き返る……」と小声でつぶやいた。
「またお願いするかもよ?」
「え〜……やだ〜……って言いたいけど、今日はちょっと……楽しかったかも」
「ほんと?」
「うん。……俺、けっこうパパしてたよ」
そう言ってママを見る横顔が、いつもよりずっと大人びていて、ちょっとだけきゅんとしてしまう。
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その夜、ママが寝室に戻ると、子供がごそごそと寝返りを打ち、「……ママ、おかえり……」と寝ぼけながら呟いた。
ママはそっとそのおでこにキスをして、布団をかけ直す。
そして、ふと振り返ると、廊下に立つ颯斗がいて。
「……もう、結婚してよかったわ」
「え、改めて?」
「うん、今日みたいな日があるからこそね」
「俺も……頑張ってよかった」
ふたりで小さな声で笑い合って、
颯斗がママの肩をぽんっと優しく抱いて――
静かな夜が、ようやくゆっくりと深まっていくのでした。