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 午後の陽ざしがカーテン越しに優しく差し込む、のんびりとした休日の昼下がり。
 娘はたっぷり遊んでお昼寝中で、家の中に響いているのは、ママがソファの上でページをめくる紙の音だけ。
 
 
 
 
 
 膝の上に広げたのは、久しぶりに取り出した昔のアルバム。
 ふと思い立って本棚から引っ張り出してきたそれは、もう表紙の角が少し擦れていて、でも中には色あせない思い出がびっしり詰まっていた。
 
 
 
 
 
 「懐かしいな……」
 
 
 
 
 
 1ページ目をめくると、まだグループに入ったばかりの颯斗の写真。どこか不安そうな笑顔と、ちょっとぎこちないピースサイン。
 そこからページが進むたびに、だんだん表情が柔らかくなって、大人っぽくなっていく颯斗の成長が見て取れる。
 
 
 
 
 
 「……かっこよくなったよね、ほんとに」
 
 
 
 
 
 ポツリと呟いたその声に、ふっと、後ろからぬくもりが近づいた。
 
 
 
 
 「何見てんの?」
 
 
 
 
 柔らかい声と一緒に、シャンプーの香りがふわりと鼻先をくすぐる。
肩越しに見えたのは、Tシャツ姿の颯斗。いつの間にか隣に来ていて、ママの背後からアルバムをのぞき込んでいた。
 
 
 
 
 
 
 「うわ、これ懐かしい! この時さ、衣装間違えて怒られた直後だったんだよな〜俺」
 
 「え、そうなの? 全然そんな風に見えない」
 
 「いやもう……笑ってるけど、内心めっちゃ凹んでた。今でも覚えてるもん」
 
 
 
 
 
 
 ふふっと笑いながら、ママがアルバムを少し傾けて、颯斗がちゃんと見えるようにする。
 
 
 
 そのまま、2人でアルバムを1ページずつ、 ゆっくりと見ていく。
 
 
 
 付き合う前に一緒に出かけた日、グループのライブを観に来たママと偶然撮った1枚、こっそりお揃いにしたアクセサリーの写真。
 
 
 
 
 思い出がページの中にたくさん詰まっていて、見ているうちに自然と2人の肩が触れ合っていた。
 
 
 
 
 そして——
 
 
 
 
 「……これ、覚えてる?」
 
 
 
 
 
 ふとママが指差した1枚。
 
 
 それは、付き合ってから初めて一緒に旅行したときの写真だった。
 風に吹かれてちょっとだけ髪が乱れたママと、それを隣で直そうとしてる颯斗。誰かに撮ってもらったわけじゃなくて、自分たちでタイマーを使って撮った写真だった。
 
 
 
 
 「懐かしすぎる……」
 
 「このとき、まだ子供のこととか想像してなかったよね」
 
 「うん。でも……この写真見てたら、なんかさ、こうなる未来がもう決まってたみたいに思えるんだよね」
 
 「……わかる、それ」
 
 
 
 
 
 ふと沈黙が訪れて、でもそれは気まずいものじゃなく、あたたかくて心地の良い沈黙だった。
 
 
 
 
 
 
 ページを進めていくと、アルバムの間からふわっと、1枚の写真が滑り落ちる。
 
 
 
 
 
 颯斗が手を伸ばして拾い上げたその写真は——子供が生まれたばかりの頃、病室で撮った、初めての“家族写真”。
 
 
 
 
 
 生まれたばかりの小さな命を、2人で包み込むように抱いて写っている1枚。
 その写真を見つめながら、颯斗が小さく笑った。
 
 
 
 
 
 「なんかさ……俺、ほんとに幸せ者だな」
 
 「何急に」
 
 「だって、こんなに可愛い子どもと、可愛いママがいるんだよ? 最高じゃん」
 
 「……やめてよ、そういうの。恥ずかしいんだけど」
 
 「えー、なんで? マジで思ってるのに」
 
 
 
 
 そう言って、颯斗はママの肩にそっと頭を預けてきた。
 
 
 
 
 
 「……なんか、すごいね。あの頃、こんな未来がくるなんて思ってなかった」
 
 「でも、ちゃんと来たね。今ここにある」
 
 
 
 
 
 
 そう言って、颯斗がママの手をそっと握る。優しく、あたたかく。
 
 
 「この写真、また新しいの撮ろ。今度は子どもが寝てない時に、3人で」
 
 「うん、撮ろっか。今の幸せ、ちゃんと残しておきたいから」
 
 
 
 
 
 
 アルバムの最後のページには、まだ何枚か写真が貼れるスペースが残っている。
 
 
 
 
 
 
 
 これからも、少しずつ思い出を積み重ねていく日々。
その最初の1枚は、今日になるかもしれないね