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#読み切り
227
こげ丸
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〖アイビー〗
# 7
〔 青空視点 〕
『んぅッ…』
ぁれ、ソファ?
起きてから、どうしたんだっけ…
考えても、なにもわかんなくて
頭痛ひどいし、吐き気あるし
『もういいや…』 ってなっちゃって…
『ぁ〜、寝たのかぁ…』
ちょっと楽になったけど
ぐーっと痛む頭を抱えて
気づいたら、
成亜の声が、すぐ近くにあった。
「頭、痛そやなぁ…」
「水飲めるか?」
いつの間に、用意してたんだろ。
返事をする前に、
グラスが手元に置かれる。
冷たい音。
氷が、からん、って鳴った。
うちには氷もなかったはずだけど…
……いつ、買ったんだろ。
僕が?
…いや、成亜が?
『……あ、ありがとう』
受け取った指が、少し震えてる。
それに気づいたのか、
成亜は、ふっと笑った。
「そんな緊張せんでええって」
「昨日そんなんなかったやろ?」
昨日。
その一言で、
頭の奥が、ずきっと痛んだ。
昨日、何を話した?
どんな顔で、笑った?
どんな流れで……
思い出そうとした瞬間、
成亜の指が、僕の額に軽く触れた。
「ほら、無理せんの」
触れ方は、やさしい。
本当に、心配してくれてるみたいで。
……だから、余計に。
『な、るあ』
『昨日のこと、なんだけど……』
言葉を選んでる間に、
成亜は、もうキッチンにいて。
背中越しに、声が返ってくる。
「んー?」
「覚えてへんとこ?」
胸が、きゅっと縮む。
覚えてない、って
どうして分かったんだろう。
『…全部、じゃない、けど』
ただ、ところどころ…
「そっかそっか」
あまりにも、あっさりした返事。
責めるでもなく、
疑うでもなく。
「じゃあ、覚えとることだけでええよ」
……選択肢が、迫ってくる気がした。
「思い出せ」とも
「確認しよう」とも言わない。
ただ、
僕の記憶の範囲で話せ。
『……合鍵の、話…』
口に出した瞬間、
成亜の動きがぴたりと止まった。
振り向かない。
でも、
空気が、少しだけ変わった。
「あぁ、あれな」
軽い声。
なのに、
逃げ場がなくなる感じがした。
「そんな顔せんでも」
「ちゃんと、話したやん」
ちゃんと。
その言葉が、
やけに重く、胸に落ちた。
『………僕、』
自分で、渡したって……
言い切れなかった。
言い切れないのに、
否定もできない。
成亜は、ようやく振り向いた。
目が合う。
「大丈夫」
「忘れとるだけやって」
その笑顔は、
安心させるためのもの、のはずなのに。
『…なんでッ』
そんな、言い切れるの…
自分でも驚くくらい、
小さい声だった。
成亜は、一瞬だけ、目を細めた。
「…信じてくれへんの?」
成亜が、ここで嘘をつく理由なんて、
思いつかない。
でも
「疑う理由」も、
いつの間にか、
思いつかなくなってた。
スマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、
一瞬、現実に戻された気がした。
〈今日、夕方から空いてる?〉
〈3人で飯行こうぜ〉
いつもの誘い。
いつもの軽い文面。
なのに、
今はやけに遠く感じた。
返事を打とうとして、
指が止まる。
そのとき、
「…誰から?」
背後から、覗き込まれる。
『…かなでだよ』
『ご飯の誘い』
「ふーん…」
それだけ言って、
成亜はキッチンに戻った。
「……でもさ」
「まだ顔色よくないで?」
「二日酔い、結構ひどかったやろ」
「無理して行ったら」
「また気分悪なるかもしれへんし」
責める声じゃない。
心配するみたいな、軽い調子。
「行くな」とは、言われてない。
「今日は家で休んだ方が、楽やと思うけどな」
……言ってないのに。
「行かないで」が、
はっきり聞こえた気がした。
スマホの画面に戻る。
『ごめん、今日はやめとく』
『二日酔いやばいからさ』
送信。
送ってから、
胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした。
……でも、どこか、引っかかる。
本当に、僕が決めたの?
自分で決めた。
そう、思いたかった。