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翌朝、入学式の為、少し早く起床する。 しかし、既に身支度を整え、若頭は洗い物をしていた。
「あ、おはよう、侑。朝、早いね」
「あ、おはよう……ございます……若頭……」
「ああ、忠道」
「え……?」
「俺の名前。芦屋忠道。同い年だし、別に組員じゃないんだし、若頭じゃなくて、忠道って呼んでよ。敬語も要らないから」
「は、はぁ……。わ、分かった……」
忠道は、暴力団の若頭にしては不思議……いや、おかしすぎる奴だった。
「でも、昨日の歓迎会には居なかったわけだし、せめて洗い物は俺がやるよ……」
俺がここまで謙虚になる理由。
それは、この芦屋組に拾って貰ったからだ。
おかげで、俺は春から高校に通えることになった。
「大丈夫。遠出で疲れてると思うし、大人のみんな……組員の奴らも仕事任せちゃってるから。俺ができることは少ないけど、してあげたいと思うんだ」
「そ、そうか……。じゃ、じゃあ俺は、入学式の準備してくる……」
「うん、七時半には出るからね」
朝の忠道の眼は、赤くない、普通の黒い眼だった。
昨晩のは……見間違えか……?
七時半に出入り口に向かうと、忠道と、身長の高い黒髪の物静かな男が学生服を着て待っていた。
「じゃあ、行こっか。幽玄高校。楽しみだね」
朗らかに笑うと、忠道は先頭を歩き、その後ろにピタリと男は着いて歩いた。
「侑、紹介するよ。彼は梶信長。梶は俺の用心棒で、二個上の先輩だ。喧嘩したらダメだよ」
「鬼塚侑だ。よろしく頼む……」
「んだ? てめぇ……敬語も使えねぇのか……?」
「こらこら、言ってる側から……。喧嘩はダメだよ」
「すみません、忠道」
物静かでボーッとして見えた梶さんは、臨戦態勢に入ると確実に強いことが伺えた。
敬語……敬語か……。縁遠すぎて忘れてた……。
「ん?」
「侑、どうかした?」
「その女の子も、組員の人……?」
「あ? 女だ……?」
梶さんは再び俺を睨み付ける。
しかし、忠道は見逃さずにニヤッと笑みを浮かべる。
「へぇ……君にはちゃんと視えるんだね……。よかった、安心したよ……」
「視える……って……まさか……」
俺は昔から、幽霊が視えた。
同じ紅い眼を持つ、キリスト教徒だった母にも霊感があり、紅い眼と霊感を俺は遺伝していた。
しかし、両親が他界した後、日本人の父親の親戚の家を回ることになるが、母から遺伝した金髪と紅い眼、そして幽霊が視えることで忌み嫌われ、最終的には育児放棄の末に、児童相談所に預けられていた。
「俺にも視える。君と同じものが……」
ニコリと微笑み、黒髪の女(恐らく霊)の横に並んだ。
「彼女はケイ。梶は霊感がないから視えてない。ウチで視える者は、俺と結弦くらいかな」
その名に、パズルのピースが嵌まったかのような感覚に襲われる。
北上結弦、芦屋組の若頭補佐。
見た目はただの好青年で、暴力団の若頭補佐なことに違和感を感じていたが、そういうことだったか……。
「そんな悠長に話し掛けて大丈夫なのかよ……? コイツ幽霊なんだろ……?」
「あぁ、心配しなくても、侑には憑かないよ。ケイは俺に憑いてるから、人様に迷惑かけることもない」
そう言うと、朗らかに先へ行ってしまった。
俺はその後ろ姿を不安そうに見つめる。
「何してる? 行くぞ」
「いや……心配にならないんスか……? あんな堂々と “憑かれてる” なんて……」
少し睨みながら、梶さんも後に続く。
「俺には霊のことは分からん。忠道が大丈夫と言っているなら、大丈夫なんだろう」
それは信頼……なのか……?
少しの不安感と漠然としたモヤモヤを抱えながら、三人で幽玄高校へと赴いた。
三年の梶さんは着いて早々に教室へと向かい、新入生の俺と忠道は、バッジを手に体育館へ向かった。
校長の長ったらしい話の後に、クラス分けと担任の挨拶が終わり、既に決められていた首席合格者で学級委員を務めるらしい男の挨拶の後、クラスに別れた。
「あー!! また会えると思ってました!!」
騒がしく俺の前に現れたのは、昨日の軟弱な眼鏡。
「んだよ、話し掛けんなっつっただろ」
そして、俺を中心にザワザワと周囲が騒つく。
「なんだ……? アイツの眼……赤色だぞ……。怖……」
「それに見て。金髪。絶対ヤンキーじゃん。関わらないでおいた方がいいわよ」
はぁ……。毎度これだ。
まあ、慣れたっちゃ慣れたもんではあるが……。
俺は、髪を掻きむしりながら、眼鏡に再び向き合う。
「だから、俺とは……」
「昨日は絡まれているところを助けて下さり、ありがとうございました!! どうしてもお礼を伝えたくて……」
その瞬間、周囲の目付きが変わるのが肌で分かった。
「あの人、あの眼鏡の人を助けたって……」
「え、じゃあ本当はいい奴なのかな?」
聞こえてるっつーの。
でも、目の前でキラキラと目を輝かせる眼鏡の瞳は、なんだか、綺麗に見えた。
「あぁ、まあ……いいよ、別に……」
そして、少しだけ、嬉しくなっていた自分がいた。
「ようよう! お前、ヤンキーだと思ったけど、ただのいい奴なのかよー!」
「おわっ! 急に触ってくんじゃねぇ!!」
「金髪じゃん! ハーフ? かっこいいー!」
「あははっ! 人気者ですね!」
「う、うるせぇ!! お前のせいだぞ!! 早くコイツら止めやがれ、眼鏡!!」
「眼鏡じゃないですよ! 僕の名前は、西村弥玖って言います!」
そんな満面の笑みで微笑ましく俺のことを見守っていた西村の背後に、大柄の男数名が現れた。
「楽しそうなところごめんね〜、新入生くん〜」
一人の男は、西村の肩を強引に組むと、ニタニタと笑いながら周囲を囲む。
「お前に決めた〜。名前の通り、厄を呼んじゃったみたいだね、眼鏡くん〜。さ、着いて来てね〜」
そう言うと、ゾロゾロと西村は強引に連れて行かれてしまった。
「な、なんなんだ……アイツら急に……!」
「あぁ……やめといた方がいい……。アイツ、本当に運がないな……。毎年この学校では、新しくなった三年生の番長が、新一年生からパシリを探しているらしいんだけど、今年はアイツが指名されたらしい……」
そんな、怯える男の手を振り解き、そっと席を立つ。
「お、おい……まさか……やめとけって!! これは俺たちでも知ってるくらい噂になってる、ヤンキーの間じゃ代々引き継がれてる伝統なんだ! 仮にお前が強くて、アイツらを倒せても、卒業した奴らだって……!」
「うるせぇ」
ゾク…………
俺が睨むと、周りの奴らは全員、青褪めた顔で静かに口を閉じた。
バタリと扉を閉め、スタスタと後を追う。
「ちょっと待て」
「あ?」
ヤンキーと呼ばれようが、ビビられようが、忌み嫌われようが、もうそんなものはどうだっていい。
一つだけ、もう絶対に曲げねぇって決めたもんがある。
「俺の目の前で、腐ったことすんじゃねぇ!!」
ゴォン!!
そう言いながら、俺は一人の男を殴り、吹き飛ばした。
「な、な……なんちゅう腕力してんだよ!! 男一人を拳で吹き飛ばしやがったぞ……!!」
「な、なんなんだお前は……!!」
「あぁ……俺か……。俺は……」
紅い眼を血走らせ、拳を蒼白い蒼炎で握る。
「現役ヤンキーのエクソシスト、鬼塚侑だ。夜露死苦!」
胸から十字架のネックレスが飛び出し、その蒼炎は更に火力を増して拳から吹き荒れた。