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次の日、私は結仁を連れて家を出た。
行くところは「灯り」しかなかった。
2人が暮らす2階の住居スペースを、1部屋使わせてもらうのはとても気が引けた。だけど、ママさんと朱里は笑顔で歓迎してくれ、その優しさに泣きたいくらい感謝した。
私達を心配してか、理仁さんから電話があり、着信に対し、「灯り」にいることだけは伝えた。何度も「大丈夫なのか?」と聞かれ、私は、「大丈夫だから心配しないでほしい」と、そっけない返事をした。
理仁さんは、あの家を出て、ママさんや朱里の側にいることに安心してくれたけど、一緒に暮らそうとも申し出てくれた。
なのに私は……
「あなたに甘えるつもりはない」と、理仁さんを冷たい言葉で遠ざけた。
「双葉ちゃん、本当によく来てくれたわ。いつまででもいいから、ここを自分の家だと思って遠慮なくいてちょうだい」
「ママさん、本当にごめんなさい。迷惑かけてしまって……。朱里もありがとう」
「迷惑だなんて思ってないよ。双葉と一緒に暮らせるなんて夢みたいだし、絶対楽しくなるよ。双葉はさ、ほんとに気を遣う人だけど、全然焦って出ていこうなんて考えなくていいんだからね」
「朱里……」
「そうよ。色々お金の心配もあるだろうけど、うちには2人に苦労させないくらいの蓄えはあるから。何も心配しないで甘えればいいのよ。あなたは私の娘みたいなものなんだから。もちろん、結仁も私の孫よ」
ママさんと朱里の温かい言葉に包まれて、私にはこんな素敵な味方がいるんだと、心強く感じた。
私は、2人に一部始終を話した。
もみじちゃんやおばさんのことを話してると、涙が止まらなくなって、気づいたら、ママさんも朱里も一緒に泣いてくれてた。
私は、ずっと抱え込んでいたとてつもなく大きな荷物を、2人のおかげで、ほんの少しだけ下ろせた気がした。
「そうだわ。お店を開くためにはたくさんお料理を覚えなくちゃいけないでしょ? だったら、いっそのことレストランを辞めてうちを手伝ってくれない? そうしてもらえたら助かるわ。 お給料もちゃんと払うから」
ママさんからの提案に驚いた。
「そんな、レストランを辞めたらママさんにお金を返せる金額が減ってしまうかも知れないし。居候の身で仕事までさせてもらうなんて……」
「うちへの返済? そんなのあったかしら? もしあるなら、それは将来、結仁が成人してからで構わないわ」
「ママさん……」
こんなにも慈愛に溢れた人間の深さに、私は改めて惚れ直した。
「でも、そのうち……きっと理仁君が双葉ちゃんを迎えに来てくれるわね」
「えっ……」
「私もそう思うよ。あの人は必ず双葉達を守ってくれる。双葉と結仁を誰よりも大切に思ってくれてるんだから」