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如縣 遼太
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「おい、嘘、だろ……。みんな、僕たちのことが分からないの……?」
末田渉がメガネの奥の瞳を激しく揺らし、一歩後退りした。その目の前で、完全に洗脳された仲間たちがゆっくりと武器を構える。
お調子者だった裕人が。いつも白球を追っていた泰輝が。普通の少年だった翅が。お人好しだった賢太が。そして、最後まで抗おうとしていた秀都までもが、濁った紫色の瞳でこちらを睨みつけていた。戦況は一瞬で崩壊した。敵は魔王軍幹部だけではない。昨日まで笑い合っていた、世界で一番信頼できる仲間たちが、明確な殺意を持って迫ってくるのだ。
「くそっ……! なんでだよ、なんでこんなことに……!」
童顔イケメンの緒方晴翔が、剣を構えながら激しく動揺する。サッカーのピッチでどんなピンチに陥っても冷静だった彼の右サイドバックとしての鉄壁の心が、身内の裏切りという最悪の盤面を前にして、今にも砕け散りそうだった。どうする。戦うのか。あの仲間たちを、僕たちの手で斬るのか。それとも、このままここで全員全滅するのか。張り詰めた絶望の沈黙を破ったのは、常に冷静沈徹だったあの男の声だった。
「……っ……撤退、だ……」
その絞り出すような声に、晴翔は弾かれたように隣を振り向いた。
「っ、瑠偉……!?」
そこには、どんな難解な計算も、どんな不測の事態も、美しい顔で爽やかに微笑みながら解決してきた、上埜瑠偉の姿があった。驚異的な頭脳を持つ彼が、その天才ゆえに、瞬時に弾き出してしまったのだ。この状況での生存確率。仲間を傷つけずに勝つ方法の有無。そのすべてを計算した結果が、ゼロであるという事実を。瑠偉の完璧なイケメンの顔は、激しく歪んでいた。その瞳からは、大粒の涙が次々と溢れ落ち、頬を伝って床へと零れ落ちている。
「る、瑠偉……お前……泣いて……?」
晴翔の声が上擦る。あの、常に完璧で、チームの精神的支柱だった瑠偉が、子供のように涙を流している。その姿が、晴翔の動揺をさらに深い絶望へと変えていく。しかし、瑠偉は溢れる涙を拭おうともせず、濁った視界のまま、ポツリと呟いた。
「いや……ダメだ。雨が、降ってきたな……」
「え……?」
晴翔が思わず、廃城の頑丈な天井を見上げる。そこには厚い石の天井があるだけで、水滴など一滴も落ちてきてはいない。
「雨なんて、降って──」
言いかけた晴翔は、瑠偉の虚ろな、それでいて張り裂けそうな瞳を見て、言葉を失った。瑠偉の言う「雨」は、この部屋に降っているものではなかった。彼らの心に、討伐隊の未来に、あまりにも冷たく降り注ぎ始めた、絶望という名の雨。そして、自分の無力さに流すしかない、血の涙の雨だった。
「……いや、雨だ。間違いなく、降っている」
瑠偉はもう一度、自分に言い聞かせるように呟くと、涙を手の甲で手荒く拭った。その瞳に、生き残るための冷徹な光を無理やり灯す。
「走るぞ、晴翔、渉。……死ぬな。生きて、ここを出るんだ」
その言葉を合図に、第参期魔王討伐隊の生き残りをかけた、地獄の撤退戦が始まった。背後からは、洗脳された仲間たちの無機質な足音が、不気味に追いかけてくる。
コメント
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追記⋯瑠偉の「雨が降ってきたな」は、鋼の錬金術師のロイ・マスタング大佐のセリフのオマージュです。
第7話、読み終えました……。瑠偉くんの「雨が降ってきたな」って台詞が、本当に胸に刺さりました。物理的な雨じゃなくて、心の中に降り始めた絶望の雨。あの天才で冷静な彼が、子供みたいに涙を流しながらも「生きろ」って撤退を決断する姿に、もう泣きそうになりました。仲間を傷つけたくない、でも全滅はできない……その板挟みの苦しさがひしひしと伝わってきて、読んでるこっちまで息が詰まりました。続きがすごく気になります……!