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#探偵
橘靖竜
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にゃいにゃい
74
第307話 身体はどこにある
【現実世界・警察関連施設/臨時合同分析室・朝】
「会社名は、もう追わなくていい」
城ヶ峰の言葉に、日下部が画面から顔を上げた。
昨夜から開いたままのモニターには、榊原梓の身体が運ばれたと考えられる古い搬送記録が並んでいる。
最初の搬送会社。
そこから設備管理会社。
さらに医療保全事業者。
別会社への事業譲渡。
名義だけを辿れば、何度でも姿が変わる。
木崎が腕を組んだ。
「追っても、次の会社が出てくるだけだな」
「ああ」
城ヶ峰は頷いた。
「だから、人間を一人、生かし続けるために必要なものを追う」
日下部が検索条件を切り替える。
電力。
医療用酸素。
循環装置。
保存液。
交換フィルター。
非常用発電設備。
滅菌用品。
長期生命維持装置の保守部品。
会社名が変わっても、所在地が変わっても、必要なものまでは変えられない。
榊原梓の身体が今も本当に生きているなら、どこかで何かが消費され続けている。
「通常の病院は除外します」
日下部が言った。
「なんでだ」
木崎が聞く。
「病院だと患者数が多すぎて、一人分の消費は埋もれます。でも今回探しているのは、表向きほとんど人がいない施設です」
「閉鎖施設とか?」
「はい。研究所、倉庫、保管施設。そういう場所で生命維持装置だけが動いていれば、異常値になります」
城ヶ峰が短く言った。
「やれ」
検索が始まった。
◆ ◆ ◆
最初に引っかかったのは、電力だった。
日下部が画面を拡大する。
「これ」
湾岸部。
現在は利用されていないことになっている施設。
登記上は医療機器保管。
だが、閉鎖後も電力使用量が完全には落ちていない。
「冷蔵倉庫じゃないのか?」
木崎が聞く。
「それなら季節で変動します」
日下部がグラフを重ねる。
「これはほぼ一定です」
昼も夜も
夏も冬も
一定の電力。
しかも、数年にわたってほとんど途切れていない。
城ヶ峰の目が細くなる。
「生命維持装置?」
「可能性はあります」
日下部はさらに資料を出した。
電力だけでは証拠にならない。
次。
長期循環装置に使われる特殊フィルター。
納品先の会社名は違う。
だが、配送地域が近い。
さらに医療用保存液。
定期購入。
量は多くない。
病院としては少なすぎる。
研究用途としても妙に一定している。
木崎が画面へ身を乗り出した。
「一人分?」
「そこまでは分かりません」
日下部は慎重に答えた。
「ただ、大人数を扱う量ではないと思います」
別の記録。
非常用発電機の燃料補充。
年に数回。
さらに
医療機器専門業者による深夜の保守作業。
城ヶ峰が聞く。
「同じ場所か」
「完全一致はしません」
「どういう意味だ」
「請求先と配送先が分かれています」
日下部が三つの地図を重ねた。
書類上は、それぞれ別会社。
別施設。
しかし配送車両の走行記録を見ると、最終的には同じ湾岸工業地帯へ向かっている。
「ここから先が取れません」
日下部が言った。
「古い記録なので、最終区間のGPSが残っていない」
城ヶ峰は地図を見る。
範囲はまだ広い。
倉庫。
研究所。
工場。
閉鎖された医療施設。
何十棟もある。
「でも」
日下部が続けた。
「身体がまだ現実側にあるなら、この範囲はかなり怪しいです」
木崎が低く言った。
「少なくとも、身体を運んで終わりって感じじゃないな」
誰も答えなかった。
電気。
消耗品。
保守。
何年も続く管理。
何かを。
長期間維持している。
そこまでは、かなり濃くなっていた。
◆ ◆ ◆
分析室の扉が開いた。
雲賀匠が入ってきた。
帰還してから、まだそれほど時間は経っていない。
長く動けば疲労が出る状態ではあるが、城ヶ峰から「湾岸部の古い搬送記録について確認したい」と連絡を受け、自分で来ることを選んだ。
木崎が匠を見る。
「来たか」
「ああ」
「座れ」
「そこまで弱ってない」
「いいから座れ」
匠は苦笑しながら、空いている椅子へ腰を下ろした。
城ヶ峰が現在までの調査を説明する。
榊原梓。
白色コア。
生命維持カプセル。
会社外への搬送。
管理会社の変更。
そして
湾岸部に残っている、不自然な電力と医療設備の消費。
話を聞くうち、匠の表情が変わった。
「待ってくれ」
日下部が操作を止める。
「何か心当たりがありますか」
匠は地図を見た。
そして、湾岸部の一角を指した。
「この辺り」
木崎が聞く。
「知ってるのか」
「昔、調べた」
三人が匠を見る。
◆ ◆ ◆
【過去/湾岸部】
当時。
匠は、榊原梓という名前を知らなかった。
ただ、
クロスゲート社から、一人の女性社員が突然消えた。
そしてその直後。
奇妙な医療設備が、会社外へ運び出された。
そこまで掴んでいた。
「生命維持用?」
取材先の医療機器業者へ匠が聞くと、担当者は困った顔をした。
『詳しくは言えません』
「人を入れるものか」
『……契約がありますので』
答えない。
だが、否定もしない。
匠はそこから配送記録を追った。
途中で会社名が変わる。
搬送車両も変わる。
それでも
湾岸方面へ向かった一台の車両を見つけた。
そして翌日現地へ行った。
そこにあったのは、閉鎖された研究施設だった。
錆びた門。
使われていない駐車場。
外から見る限り、人の気配はほとんどない。
だが、建物の一部だけに、新しい監視カメラが取り付けられていた。
裏手には、最近大型車両が入ったようなタイヤ跡も残っている。
匠は写真を撮った。
門。
タイヤ跡。
施設名。
電源設備。
その時、建物の奥で
何かが動いた。
人影。
かなり遠い。
顔までは見えない。
背の高い男。
髪だけが、妙に白く見えた。
匠がカメラを向ける。
だが、男はすぐに建物の陰へ消えた。
「待ってくれ!」
匠は門へ近づいた。
直後
警告音
センサー
そして中から出てきた警備員に止められる。
『私有地です』
「ここ、閉鎖施設じゃないのか」
『管理中です』
「何を管理してる」
『答えられません』
匠はその場では引いた。
だが翌日、もう一度戻った時
大型車両の跡は消えていた。
監視カメラも外されていた。
裏手の搬入口は、完全に閉じられていた。
さらにその後を追ううちに
記録まで変わっていった。
施設管理会社。
変更。
医療機器の搬送先。
変更。
電力契約。
別法人へ移管。
匠は何かがそこにあったと考えた。
だがその時点では
それが何だったのか最後まで掴めなかった。
◆ ◆ ◆
【現在/臨時合同分析室】
「その写真は?」
城ヶ峰が聞く。
匠は少し考えた。
「昔の取材データに残していたはずだ」
木崎が立ち上がる。
「探せるか」
「ああ。古い端末か、事務所の保管データにあると思う」
日下部が聞く。
「白髪の男については?」
匠は首を振った。
「分からない」
「顔は?」
「遠すぎて見えてない」
「当時、調べましたか」
「一応な。でも施設関係者なのか、研究者なのか、それすら分からなかった」
城ヶ峰が確認する。
「今も正体に心当たりはない?」
匠は少し考えてから答えた。
「ない」
日下部が記録へ入力する。
《湾岸施設・正体不明男性目撃》
《特徴・長身/白髪または白色に見える髪》
木崎が言った。
「今はそれでいい。勝手に誰かと結びつけるな」
「ああ」
城ヶ峰も頷く。
今あるのは目撃情報だけ。
誰だったかはまだ分からない。
日下部が別画面を開く。
「匠さんが施設へ行った時期、大体覚えていますか」
匠が答える。
「女性社員が消えたって話を追い始めて、そんなに経ってない。正確な日は取材記録を見れば出る」
「それで十分です」
日下部が
榊原梓の搬送記録。
古い境界関連ログ。
施設の電力変動。
当時の設備移動。
それぞれを同じ時系列へ置いていく。
その中に一つ。
通常より大きな境界反応が記録されている日があった。
ただし
何が起きたのか。
対象が誰だったのか。
記録は残っていない。
日下部が言う。
「この時期、通常の同期試験では説明しにくい大きな境界反応があります」
城ヶ峰が画面を見る。
「榊原梓と関係あるのか」
「分かりません」
日下部ははっきり答えた。
「時期が近いだけです。榊原さんの意識転移に関係する反応なのか、それ以外の実験なのかも現時点では判断できません」
木崎が頷く。
「なら今は混ぜるな」
「はい」
証拠は
証拠として分けておく。
白髪の男。
大きな境界反応。
榊原梓の身体搬送。
三つとも近い時期に存在する。
だが、だからといって
一つの出来事だったと決めることはできない。
城ヶ峰が言った。
「確定してるところだけ拾う」
匠が頷く。
「それでいい」
◆ ◆ ◆
匠は地図を見つめた。
湾岸部。
あの日
自分が立っていた場所。
錆びた門の向こう。
そこに
今になって名前を知った女性の身体があった可能性がある。
「私は」
匠が呟く。
皆が見る。
「近くまで行ってたんだな」
誰もすぐには答えなかった。
「榊原さんの身体が実際にそこにあったかは、まだ分からない」
城ヶ峰が言った。
匠は頷く。
「分かってる」
「なら決めつけるな」
「ああ」
そう答えたが匠の表情は重い。
もしあの日。
もう少し調べられていれば。
そう考えているのは誰にでも分かった。
木崎が言った。
「お前だけのせいじゃない」
匠が木崎を見る。
「分かってる」
「分かってない顔だ」
匠は少しだけ笑った。
「昔から言い方がきついな」
「今に始まったことじゃない」
それ以上。
木崎は何も言わなかった。
◆ ◆ ◆
日下部が別の記録を開いた。
「もう一つあります」
「何だ」
城ヶ峰が聞く。
「榊原梓さんの死亡記録を、改めて照合しました」
死亡届。
火葬。
埋葬。
事故死。
病院での死亡。
身元不明遺体。
現在確認できる範囲では、該当なし。
「名前を変えている可能性は?」
「あります。ただ、少なくとも榊原梓として死亡した記録は確認できません」
木崎が言う。
「会社では退職」
「はい」
「その直後に生命維持が必要そうな大型装置が運ばれている」
「はい」
「死亡記録はない」
「はい」
「さらに今も、湾岸の一部で生命維持設備を疑わせる消費が続いている」
日下部が頷いた。
木崎は小さく息を吐いた。
「なら」
画面中央。
榊原梓の写真。
「死んだ前提で探す理由はないな」
城ヶ峰が答えた。
「ああ」
捜査上の扱いが更新される。
《榊原 梓》
《身体状態・不明》
《死亡確認・なし》
《長期生命維持の可能性あり》
《所在・不明》
《湾岸地域・関連施設群を重点確認》
まだ場所は分からない。
本当に身体が生きているかも断定はできない。
だが、捜査は変わった。
遺体ではなく。
今も生きているかもしれない人間を。
探す捜査へ。
◆ ◆ ◆
【どこでもない層/深部】
Cの声が響いた。
『現実側の捜索範囲が縮小しています』
白峰律は、表示された湾岸地図を見ていた。
かつて。
自分が榊原梓の身体を預けた方向。
その先を自分は知らない。
カシウスが管理すると言ったから、任せた。
それが今も続いている。
「匠は」
白峰が言った。
「本当に近くまで来ていたんですね」
カシウスは答えなかった。
白峰は昔のことを思い返す。
梓を送った。
戻せなかった。
身体を保存した。
匠が近づいた。
そして。
梓の身体をカシウスへ預けた。
その時、自分は何を守ったつもりだったのか。
榊原梓か。
研究か。
それとも、自分自身か。
カシウスが言った。
「後悔しているのか」
「何に対して」
「全部だ」
白峰は少しだけ笑った。
だが
その笑いに楽しさはなかった。
「後悔で済むなら」
カシウスを見る。
「楽でしょうね」
白色コアが静かに光る。
《名称固定・榊原梓》
その表示を見た白峰はゆっくり続けた。
「次に彼らが知るべきなのは」
カシウスの目が細くなる。
「身体の場所か」
「違う」
白峰は答えた。
「私が」
少し間を置く。
「榊原さんに何をしたのかです」
白色コアが。
弱く。
一度だけ震えた。
コメント
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第307話、めっちゃ重くて熱かった…!!😭✨ 梓さんの身体がまだ生きてるかもしれないって線が濃くなってきて、しかも匠さんが昔あの施設のすぐ近くまで行ってたっていう衝撃…!「近くまで行ってたんだな」の匠さんの呟きにグッときたよ…。そして白峰さんの「私が榊原さんに何をしたのか」が核心を突いてきそうで次が気になりすぎる…!!展開が着実に動いてて震えた!次話も楽しみ!🔥💕