礼央はTシャツとジーンズに着替え、一階のソファーに寝転んで、莉音のいる2階を見上げていた。
どうしてだろう。
俺は
何故莉音の嫌がるようなことを
したくなるんだろう
嫌がること?
いや…
そうじゃないと思っていた
どうして思った?
嫌な事するって意地悪じゃないか
何故、意地悪したくなる?
その時、礼央のスマホが鳴った。
マネージャーからだった。
「はい。…あの、俺、今は頭の中がぐちゃぐちゃで…だから切ります、お疲れ様でした」
切ったらまたすぐかかってきた。
当たり前だ。
「人の話をよく聞けって?…はい。ミュージカルの出演オファー?主役候補!…はい、今から演出家に会いに?…その、でも今は…もう車で迎えに出てる?もう着く?あの…」
でも、莉音をあの状態で残していくのは…
その時、階段の上から声がした。
「行けよ、礼央」
「莉音」
「ずっと夢だったじゃないか、ミュージカルに出演する事が」
「でも」
「迷うことはないじゃん。…おまえの1番なんだから。それが、おまえの…」
「1番…」
「いいから、行けよ」
莉音はニッコリ笑いながら、階段を降りてきた。
そして、礼央の背中をとん、と押した。
「夢、掴んで来いよ」
「莉音」
「…僕の事は気にしないで。見送らないよ、じゃあね」
くるりと身を翻すと、莉音はまた階段を上がって行った。
合鍵を使い、相馬が入って来た。
「ああ礼央、悪いな休みなのに。名演出家でありかつ気難しいので有名な真城田監督がおまえにオファー出して来たんだ。新しくオープンする劇場の柿落とし、監督書き下ろしをする新作ミュージカルらしい。今から会いたいそうだ。行くだろ、もちろん」
「新作ミュージカル…真城田さんの演出で…」
夢の舞台が、そこに。
礼央は嬉しくてドキドキするはずなのに、何かが引っかかっている。
「とにかく行くぞ!」
「でも莉音が」
「心配するな、夜には別荘に帰ってこれる」
相馬に腕を引っ張られ、
2階を気にしながら礼央はドアから消えた。
莉音は身を隠しながらその様子を見ていた。
それは
永遠の別れのように
感じた。
「…礼央の1番は…それだから。
…2番なんかない。
それだけなんだよね」
「おめでとう礼央」
また
涙が溢れてきた。
続く
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