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『妹です』

『は?』


再びコメンテーターがぽかんと口を開いた。




『妹が引き寄せる女を虐げたがる男性を追い払うのにはやはり男手が必要でした。私の父のようなくだらない男は、女は馬鹿にしますが、自分より格上の男にはへこへこするものですから』


『それ、わかります。いますよねそういう男性』


うんうんと、アナウンサーが頷いた。




『彼とは私が高校と大学の同級生で個人的に親しかったもので、よく妹を守るための壁になってもらっていたんですよ』


『ほう?』




『だから、奴は私がどれほど妹を大切にしているかよくよくわかっていたはずです。それなのに! 私が追い出されていた間に、俺がいるから大丈夫とか言って孤独に震える妹を口説き落としたんですよ! 信じられます!? まだ妹は成人したばかりですよ! あの男はずっと、私がいない隙を虎視眈々と狙っていたんです! よりにもよって一番面倒な男が義弟に!』


そう言って麗音は頭を振り乱した。




『遅くなりましたが、妹さんのご結婚おめでとうございます?』


アナウンサーが小首をかしげつつ言祝ぐと、コメンテーターが難しい顔をした。




『妹さん、お幾つですか? 合意の結婚で、いいんですよね?』


『ええ、合意ですとも! 本当は、高校生のころからずっとアキ兄ちゃんのこと好きだったの、って! 頬を染めて可愛い顔で言うんですよ? はあ? この世で一番お姉ちゃんが好きっていつも言っていたのに! まだ26歳なのに、もう私の手から離れるだなんて早すぎると思いませんか!』


ドンと、机を叩いた後、ふーーーと麗音は息を吐いた。




『…………失礼、取り乱しました』


『いえ、面白かったです』


アナウンサーが頷き、コメンテーターが口を開いた。




『つまり、これはビジネスの話ではなく愛の話だと?』



麗音は眉間を揉んだ。




『私は、父に愛されたとは言い難く、耄碌する前の祖母に憧れていた高校時代は佐橋児童衣料の跡継ぎになりたいという思いと、こんな私が子供たちを幸せにするための服に関わっていいのかという葛藤がありました』


そう言うと麗音は過去を懐かしむように微笑んだ。




『そんなとき、妹と出会いました。本妻の私の母はどう接していいかわからず、妹は妹で遠慮してしまって。しかも父はああいう人でしたから』


テロップに佐橋家の家系図が表示された。




『妹には私しかいなかったんです。まあ、出会ったときにはもうあの娘も中学生でしたけれど。迷惑かけたくないからとお知らせのプリントを隠すあの娘を出し抜いて参観に行ったり、服を選んだり、勉強を見たり。中卒で働くというので、激怒したこともあります』


そうして、カメラを見て悲しげに微笑んだ。


『当時、私も高校三年生で受験もありましたから目が回るくらい忙しくて。でも絶対に妹のことをおざなりにしたくなくて毎日が必死でした。父に妹を強引に認知させた私の意地だったんでしょうね。その中で、ふと、あの子の笑顔を見て、私やこの子が父親に与えられなかった愛情を、私がこの子に与えようって自然と思えたんです』




そうして、一拍空け、また麗音は口を開いた。




『それで、やっと私が子供服を作っても大丈夫だって思えました。勿論、 妹のことは育児の一部とも言えない程度ですし、赤ちゃんから育てていたらもっともっと、大変なことはよくよくわかっているつもりです。なんてったって妹は聞き分けのいい子でしたから』


たたみかけられ、息を呑んでいるアナウンサーに、麗音は苦笑した。



『本当はいつも我慢しているあの子のわがままを聞いてあげたかったと、あの子が大人になった今は思います。だからこそ、佐橋児童衣料を訪ねた子供達が、この服が絶対欲しいと、大きな声でわがままを言えるような、そんな商品と店の雰囲気にできたらと思っています』


麗音はいつの間にか組んでいた指を開き、手のひらを見せた。




『ビジネスの話で抽象的なことを言いますが、子供服は、まだ自力で服を着られない子でも、障害を持った子でも、どんな子でも着脱しやすいように愛を持ってデザインすることで始まり、愛を持って丁寧に丈夫に作って、保護者がその子に愛を持って与えることで完成すると思います』




『ここでも愛がでてくるわけですね』


『はい。そのため、自社で責任を持てないぷちシリーズは撤退を決めました』


再びテロップがでて、他国製造の廉価品のぷちシリーズの解説が載った。




『佐橋児童衣料の服は決して、安価では提供できません。ですが、礼装品以外は洗濯機にそのまま放り込んで、何度でも洗濯でき、複数人にお下がりにできます。お客様からお子さんが着ていた昔の服を取っておいてお孫さんに着せた、というお話もよく聞きます』


『それはすごいですね』


アナウンサーの相槌に麗音は頷いた。


『勿論、それは我が社の儲けにはなりません。しかし、それでいいんです。それが! いいんです。大量に生産はしませんし、できません』


うんうんとコメンテーターが話に聞きいる。




『しかし、きっと、サハシの服をお子さんに着せたときに、お子さんだけでなく、その子の周囲の皆が笑顔になるはずです。着ているだけで皆が喜ぶ服を。それが我が社の基本理念なのです』


微笑む麗音にコメンテーターが尋ねた。




『最後になりましたが、お家騒動はもう起こらないということでいいんですね?』


『ええ。父は亡くなる直前、一番酷い目にあわせてきた妹に謝ったんです。勿論、私達は許せませんでしたが、いつか許せる日が来ればいいと思います』



政略奪結婚 〜姉の身代わりのはずが、何故かイケメン御曹司に溺愛されています?〜

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