テラーノベル
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部屋に入るなり突然風呂場に押し込められ、頭からシャワーぶっかけられて、俺はただただ目を白黒させるしか出来なかった。水気を含んで重たくなった夏物のセットアップが素肌に張り付いてきて不快感を誘う。そもそも、これは最近買ったばかりのお気に入りだった。髪から顔から、ぽたぽたと雫が垂れてきて…というか、いまだ全開で出しっぱなしのシャワーに、もはや雫が垂れるとかそんな可愛い騒ぎじゃない。ずぶ濡れだ。
「…んの」
「ん?」
シャワーから顔を逸らし、口元を拭いながら言う。聞き返してきた呑気な声音に、いらっとしながら俺は声を張り上げた。
「佐久間っ、何すんだよ! 正気か!?」
と、水音にブレながら、浴室に響きわたる俺のひっくり返った声。
「いや、服を着たままシャワー浴びて、シャツから透けたボディーラインって色っぽいよなぁ、って」
佐久間がにゃははと笑った。
「はぁ!?」
ばっかじゃないの、と出かかった言葉を俺は何とか飲み込んだ。目の前の佐久間はといえば、子どもみたいに目をキラキラさせてこちらを見つめていた。まるで、どう、いい考えでしょ? とでも言いかねない表情で。
「………、」
もちろん、佐久間の方も俺と同じように服を着たままシャワーをかぶったので頭からびしょ濡れになっている。顎から首筋へ滑っていく雫を目で追うと、逞しい胸筋に濡れたシャツが張り付いて、白い素肌をうっすらと浮かび上がらせていた。ピンク色の長めの髪から垂れた雫が頬へ流れ落ちていく様も、何とも言えず色っぽかった。なるほど佐久間が言っているのはこれのことか、などと、思わず納得してしまいそうになって慌てて首を振る。
違う違う。納得してどうするんだ。こんな、どう考えたって馬鹿げたこと、許されるはずがない。引っ込みかけた怒りを、どうにか奮い立たせようとする。
が、不意に落ちてきた影に、俺の思考は停止させられてしまった。
「阿部ちゃん」
そう、低い声で呼ばれるだけで、身体の奥がゾクゾクする。壁についた両腕の中に閉じ込められると、近付いてくる唇からもう目が逸らせなくなっていた。
「んっ…」
「口、開けてよ」
触れるか触れないかのところまで唇を近付けて佐久間が言う。かと思えば、すぐさま食べられるみたいに唇が重なった。
「ふ…っ、ん」
顎を掴まれて半ば無理やりに口を開けさせられると、生暖かい舌がするりと滑り込んでくる。髪や頬を伝って落ちてくるたくさんの雫を飲み込みながら交わす水っぽいキス。合間にとろりと唾液が流れ込んでくると、いつもよりその感覚がリアルで、思わず佐久間の濡れたシャツを握りしめる。
ああ、もう、何でもいいかも。俺がそんな思考へ至るまでに、もはや数十秒もかからなかった。
「んん」
角度を変えては口付けを続けながら佐久間の濡れた髪に指を差し込み、その頭をかき抱く。佐久間は俺を壁に押し付け、濡れたシャツの上から胸の一番敏感な場所をひっかいてきた。
「…ぁ、」
反射的に肩がぴくりと震えた。続けて親指で少し強めに擦られると、じわじわと快感のもたらす熱が身体の奥から込み上げてくる。佐久間は俺の耳元へ唇を寄せ、耳朶を舐め上げながら言った。
「やばいわ…余裕ない」
「ん…え? あっ…」
胸元への愛撫もそこそこに、くるりと身体を反転させられて慌てて壁に両手をつく。後ろからまたも耳朶を舐められながら、佐久間の手が俺のボトムスへと伸びてくる。ザアザア、相変わらず出しっぱなしのシャワーの音に、ベルトのバックルを外す音が混じった。
「ちょ…さく、ま…っ」
肌にまとわりつくボトムスとアンダーウェアを、文字通り剥ぐように下ろされたが、濡れているせいで膝まで下げるのがやっとだった。そうする間もせわしなく身体の上を動き回る手のひら。佐久間は俺の身体を撫で回しながら、手探りでシャンプーの隣に置いてあるローションを手に取り、キャップを外して思い切り俺の尻へと中身をぶちまけた。
「ああっ」
突然素肌を襲ったひやりと冷たいローションの感触に一瞬ビクリと震える。佐久間はもう殆ど中身の残っていないボトルを床に放り投げると、すぐさま尻の間を何度か撫で、そのまま中指を一本、ずぶりと粘膜の中へ突き立てた。
「いっ…」
痛い、と感じたのはほんの一瞬のことだった。ローションの助けを借りてぬるりと侵入してきた佐久間の指先は、やたら性急に抜き差しを繰り返した。はじめは浅く、次第に深く、俺の中を広げていく。
「さくまぁ…っ、あ、あっ…や」
そのあまりの性急さに、身体が、思考が、ついていかない。半ば混乱状態になりながら、壁についた手に力を込める。膝のところで止まったボトムスが邪魔で、俺は思うように身動きをとることさえかなわなかった。ただ、佐久間にされるがまま、シャワーの合間に聞こえてくるくちゅくちゅという音とともに小さな嬌声を上げるだけで精一杯だった。
やがて中を探る指が3本へと増える頃、そこは十分に広がり、ひくひくと物欲しそうに蠢いた。
「阿部ちゃん、挿れるね」
と、耳元で低く囁かれた瞬間。
「え? あっ、あ、ああ…っ!」
指が引き抜かれたと思ったら、代わりにあてがわれた佐久間自身が指とは比べ物にならない圧迫感を伴って俺の奥を押し開いた。入ってくる。その感覚に全神経が集中する。浅いところを通過していく瞬間なんて、佐久間の熱いそれの形すら確かめられるくらいだった。
「ああ、やばい…めちゃくちゃ、イイ」
耳の後ろからうっとりと吐き出された吐息とともにそんな声が聞こえてくる。一度奥深くへと沈み込んだ佐久間が背中にちゅ、と音を立ててキスしたあと、先程の指先の動きと同じように性急に腰を揺すり始めた。
「あ、あ、あ…っ」
佐久間が腰を使うリズムに合わせて、開きっぱなしの唇から声が零れていく。壁についていた指先が震えた。大きな動きではなく、小刻みに同じところを刺激されると、たまらなく感じてしまうのだ。
「そ、こ…」
ふるふると震える唇から、どうにか言葉を搾り出す。
「そこ、やだぁ…あ、あっ」
「いやじゃないでしょ、こんなに感じてるのに」
「あ、おかしくっ、なる…からっ」
「なっていいよ?」
休むことなくひたすら同じところを突かれ続けて、頭の中がどうにかなってしまいそうになる。目の前でたくさんストロボをたかれたみたいに、視界がチカチカして何を見てるのか、はたまた見てないのか、全くわからなかった。
身体の中を這い回るように、奥から快感が駆け巡っていく。今までに感じたことのない感覚だった。
「や、…あ、あーっ」
瞬間、ビクビクと一際大きく震えて、俺は絶頂を感じた、はずだった。
崩れ落ちそうな身体を佐久間に支えられながら、はぁはぁ肩で息をする。硬いままでいる俺のそれを佐久間にきゅっと握り込まれて、情けなく腰が引ける。
佐久間は一旦動きを止めて、ひどく興奮したような様子で言った。
「え、あれっ? 阿部ちゃん、ドライでイッた…?」
「や、やだ、ちが…」
「うわぁ、すげえ…めちゃくちゃえっちじゃん!」
「も、やめろ、ってば」
無邪気にはしゃぐのがどうしようもなく恥ずかしくて、今すぐ逃げ出したいのに、まだ元気な佐久間が俺の中にいるから、思うように動くこともできなかった。
「じゃあ、今度はコッチで、一緒にイこうね?」
「ぅ、あ…っ」
それから再び律動を再開した佐久間に散々好きなようにされると、俺は佐久間の熱を身体の奥で感じながら、同時に佐久間の手のひらを濡らしたのだった。
バルコニーで2人分のシャツとボトムスが並んで風に揺れている。その向こうの青空が爽やか過ぎて、なんだか見ていられない気持ちになる。
「あー楽しかった。ね、阿部ちゃん?」
と、佐久間はやっぱり無邪気に笑った。
俺は呆れ半分、怒ったフリ半分でそんな佐久間をちらりと睨む。ていうか。
「…何で、嵐?」
「あ、やっぱ気付いた?」
「そりゃ気付くでしょ」
「最近ね、久々に色々聴いてんの。で、歌詞がえちえちじゃん? あの曲」
だからって、そんな馬鹿な理由で馬鹿な挑戦されるのは考えものだ。他に危ない歌詞の曲はなかったか、瞬時に記憶を思い起こしてみる。
「またしよーねっ」
「………」
そんな俺の気苦労なんてお構いなしに、全く悪びれる様子もなく、にゃはは、と語尾にハートマークを飛ばす佐久間が、なんだか不意に可愛いと思ってしまって、俺は、自分で自分に頭痛がしそうだった。
コメント
8件
いつ読んでもため息しか出ない〜。 無意味にここまで書けるのすごいし、ニ次BLなんてそもそも意味なんて要らないのだとおもいます。
こういうのはヤマなしオチなし意味なしがいいんですよ!!!!!笑 kinoさんの文章良すぎて毎回好きを更新していきます……2人の息遣いまで聞こえてきそうです😳
意味不明だし、そもそも意味がない😇二人でわちゃわちゃシテ欲しかっただけの妄想です🥹