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【前夜】
「“上弦の肆”が動いたと?」
鬼殺隊本部、報告を受けた産屋敷家の子息・輝哉の代行は、顔を曇らせた。
「はい。目的は“凩 侃”と断定されています。
猗窩座が失敗したことで、無惨が次の手を……」
「……侃を、鬼にするつもりか」
「はい。今夜、動きます」
その言葉を聞いた柱たちはすでに動き始めていた。
――守るために。彼を、仲間として。
⸻
【その夜・山の訓練場】
「……風が変わったな」
侃は気配に即座に反応していた。
そして、刀に手をかけたまま、夜の闇に目を細める。
ドクン。
ドクン。
心臓が警鐘を鳴らす。
嫌な気配。血の匂い。殺気。
そして――現れたのは、“それ”。
「会いたかったよォ……“凛柱”」
現れたのは、上弦の肆・半天狗の“分裂体”だった。
「無惨様のお望みだァ。お前の肉体を“鬼”にすること、そォして――鬼の頂点に立つ器にすることだァ!」
「……ふざけるな。俺の身体は、俺のものだ」
侃が瞬時に抜刀。
“凛月の型・五ノ型――蒼牙斬閃(そうがざんせん)”
月光のように青くきらめく刃が、半天狗の分裂体を一閃した。
だが、次の瞬間――背後。
「侃ッ!!」
煉獄の怒声と同時に、影が迫る。
すでに複数体の分裂体が出現していた。
侃が振り返るより先に、刃が腹部を斬り裂いた。
「ぐっ……!」
血が飛ぶ。視界がぐらつく。
だが、踏みとどまった。
「く、そ……俺は……まだ、終わらないッ!」
次々と現れる分裂体。
煉獄、義勇、しのぶも駆けつけ、戦闘は激化する。
⸻
【侃、限界の先へ】
「凛月の型・終式――“灰月・連閃(かいげつ・れんせん)”!」
侃が放った連撃が分裂体を吹き飛ばす。
しかし、同時に限界を越えた“反動”が襲いかかる。
血が止まらない。
視界が赤く染まる。
心臓の鼓動が、どんどん早く――
――いや、違う。
“強くなりすぎている”
(これ……俺の身体じゃない。力が、暴れて……)
その時。
――ズギャァァァン!!
突如、背後から異様な衝撃。
“何か”が侃の背に触れた。
分裂体のひとつが、無惨の“血”を注ぎ込んだ刃で侃の肉体に傷を与えていた。
「さァ……その体に宿るがいい……“鬼”の血ィィ……!」
「――ッ、あぐっ……!!」
侃の目が、一瞬だけ赤く染まる。
刃を持つ手が震える。
視界が、チリチリと歪む。
「侃ッ!!!」
しのぶが叫ぶ。
煉獄と義勇が全力で侃の元に駆け寄る。
「持ちこたえろ!お前は、柱だ!」
「毒を抜く!今すぐに!」
「俺を、鬼に……ッ、するな……!」
侃は震える身体を抑え、己の心を叩きつけるように叫ぶ。
「俺は、鬼に……なりたくない!!」
その瞬間――
猗窩座が、現れた。
「間に合え……!!」
彼は瞬時に侃の前に立ち、残った分裂体を粉砕する。
「侃……! おい、しっかりしろッ!」
「猗……窩……座……?」
侃の意識が、薄れていく。
(助けて……)
(鬼になりたくない……)
(ここで……終わりたくない……)
そんな想いだけが、口に出なかった。
⸻
【その夜――血の月の下】
侃は無事に引き上げられたが、体内には鬼の“核”が混入していた。
鬼にはなっていない。
だが――
「このままでは、いずれ“鬼化”が進行する」
胡蝶しのぶの診断は、極めて重い。
「猗窩座は……間に合ったが、彼の中に“無惨の血”が根を張り始めている」
その場の空気が凍りついた。
「どうする……?」
「殺すしか……」
「違う!!」
煉獄が叫ぶ。
義勇が目を伏せる。
そして、猗窩座は言った。
「だったら、俺が……お前を“鬼”にさせねえ。
何があっても、俺が守る。俺が殺してでも――」