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次の日も、
学校は何事もなかったみたいに始まった。
チャイム。
出席。
いつもの教室。
昨日の会議室なんて、
最初から存在しなかったみたいに。
翠は、自分の席に座る。
椅子を引く音が、やけに大きく聞こえた。
周りの視線。
でも、誰も何も言わない。
——まだだ。
——処分は、まだ出てない。
分かってる。
分かってるのに、胸がざわつく。
休み時間。
「……おい」
背後から、低い声。
振り向く前に、
机を軽く蹴られた。
ガン、という音。
周囲は、見て見ぬふり。
「昨日さ、いなかったよな」
「家族会議?大変だね〜」
笑い声。
翠は、
ノートを見つめたまま、何も言わない。
——今、撮るべき?
——いや……もう、出した。
その思考が一瞬遅れて、
自分でも違和感を覚える。
校舎裏に呼ばれる。
もう、驚かない。
足が、勝手に動く。
でも今日は、
スマホを起動しない。
——必要ない。
——もう、役目は終わった。
そう思ったはずなのに。
「なに黙ってんの」
肩を押される。
壁にぶつかる。
痛みは、ある。
でも、それ以上に——
理由が、ない。
前は、
「証拠のため」
「赫ちゃんのため」
ちゃんと、意味があった。
今は、
ただ、受けているだけ。
「……」
声が出ない。
殴られても、
言葉を投げられても、
頭の中で、
同じ言葉だけが回る。
——もう、出したのに
——まだ、続くの?
時間の感覚が、ずれる。
気づいたら、
チャイムが鳴っていた。
「ほら、戻れよ」
「次は昼な」
捨て台詞。
翠は、
壁に手をついて、しばらく動けなかった。
——助けたはずだ。
——終わらせたはずだ。
なのに、
自分だけが、取り残されている。
赫ちゃんは、保健室登校。
守られてる。
それを思い出して、
胸が、きゅっと締まる。
——よかった。
——それでいい。
そう思おうとして、
なぜか、涙が出そうになる。
昼休み。
黄と瑞が話しかけてくる。
「翠くん、ご飯食べに行こ」
「今日赫くん、調子いいみたい!」
「……うん」
返事はできた。
笑顔も、作れた。
でも、
食べ物の味が、分からない。
午後の授業。
黒板の文字が、
頭に入らない。
先生の声が、
遠い。
——いつまで、これが続く?
——本当に、終わる?
自分で選んだはずなのに、
心が、ついてこない。
放課後。
また、呼ばれる。
翠は、
一瞬だけ、足を止めた。
——逃げたい。
——でも。
結局、
歩き出してしまう。
“普通の日”は、
こうして、翠を何度も削っていった。
誰にも気づかれないまま。
誰にも、褒められないまま。