テラーノベル
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学年主任が動画を確認すると、全て同じ場所で撮られていることが明らかになる。
校舎裏の死角。
学年主任は、そこに足を踏み入れた瞬間、違和感を覚えた。
——静かすぎる。
生徒の声が届かない。
風の音と、遠くのグラウンドの掛け声だけ。
昨日まで何度も確認した動画。
そこに映っていた場所と、同じ構図。
「……」
その奥で、影が動いた。
次の瞬間、
乾いた音が、はっきり響いた。
殴る音。
蹴る音。
短く詰まった息。
「……っ」
視界に入った光景に、
学年主任は一瞬、思考が止まった。
壁際に押し付けられている生徒。
制服は乱れ、
腕や頬に、はっきり分かる傷。
床に落ちた赤い跡。
——動画と、同じ。
いや、
動画より、酷い。
「……何を……」
声が、うまく出なかった。
止めなければ。
教師として。
大人として。
分かっているのに、
体が、ほんの一瞬、動かなかった。
——これが、現実。
殴っている生徒たちは、
まだ気づいていない。
その中心で、
翠は、声を出さずに耐えていた。
反撃しない。
逃げようともしない。
まるで、
「ここにいること」を受け入れているみたいに。
その姿を見て、
学年主任の胸に、
昨日から引っかかっていた疑問が、
はっきり形になる。
——やはりあの動画の被害者は……
——赫、じゃない。
動画に映っていた声。
体格。
呼ばれ方。
そして、
目の前の生徒。
「……翠……?」
名札を見て、
初めて名前を知る。
その瞬間、
頭の中で点が線になる。
——提出された動画
——被害の内容
——赫の学年とは、違う色のネクタイ
「……違う……」
呟いた声は、震えていた。
「……君が……」
その時、
足元の小石を蹴った音で、
加害側の一人が振り返った。
「……やば」
次の瞬間、
学年主任は、ようやく動いた。
「何をしている!!」
張り上げた声が、
校舎裏に響く。
時間が、再び動き出す。
生徒たちが、慌てて距離を取る。
逃げる足音。
残されたのは、
壁にもたれたままの、翠。
学年主任は、駆け寄ろうとして——
また、足が止まる。
近くで見るほど、
状況が、あまりにも酷かった。
「……君……」
翠は、
ゆっくりと顔を上げた。
目が合う。
その目に、
助けを求める色が、ない。
あるのは、
諦めと、
どこか安心したような静けさ。
——見られた。
——やっと。
そう言っているみたいで。
学年主任の手が、震えた。
——これは
——赫のための証拠だった
——そして、この子は……
そこまで考えて、
言葉が、喉に詰まる。
「……すぐ、保健室に……」
言いかけて、
翠の体が、ふらついた。
支えようと手を伸ばす。
その瞬間、
学年主任は確信する。
——この子が
——全部、背負っていた。
動画の中の被害者。
名前の伏せられた提出者。
そして、
今、目の前で殴られていた生徒。
全部、
同一人物だった。
コメント
1件

翠っちゃぁぁぁん!!!!!! もう背負わなくていいんやぞ( もううん辛いね(