「ちょっと、桜が怖がっているじゃないの!その威圧感、なんとかしたら?」
遥さん、なんで椿さんにだけこんなに強気なんだろう。
「ごめんなさい。怖がらせちゃって」
悲しそうな顔の椿さん。
初めてちゃんと目が合った。
どうして……?すごくドキドキする。
こんな綺麗な人が近くにいたらドキドキするのも当たり前だよね。
んっ!?遥さんに少し似てるような気がする。
「いいいいえっ、あまりにも椿さんがすごく綺麗だったから……。私、びっくりしちゃって!あっ、失礼ですよね!?でもすごくお綺麗で……。ドキドキしちゃいます」
緊張しすぎた結果、綺麗を連発してしまい日本語もまともではない。
私の言葉を聞き、キョトンとしている椿さん。
あっ、絶対変な子だと思われちゃったよね。どうしよう。
「フフッ、そんなに何度も綺麗って褒めてもらえて嬉しい。ありがとう」
チラッと椿さんを見る。
うわぁ、お肌キレイ!男の人だよね?ヒゲとか生えるのかな?
あぁ、ダメ。全然顔なんてまともに見れないよ。
次元が違いすぎる、お人形さんみたい。
「お世辞よ、椿」
グビグビっとビールを飲み進める遥さん。
だからどうしてそんなに突っかかるの?
「面白いテーブルになったわね。ゆっくりしていってね!桜ちゃん」
桔梗さんが笑いながらテーブルを離れ、三人になる。
どうしよう、何を話していいのかわからないよ。
「緊張しなくていいからね、桜ちゃん。何か食べる?夕ご飯まだなんでしょ。ここ、BARだけど料理も美味しいの。ママがちゃんと作ってくれるから。何か食べない?」
椿さんは隣でメニューを開いて持ってくれた。
自然と距離が近くなる。
んっ、なにこれ!すごく良い匂いがする。
香水?椿さんのっ?
メニュー表の文字を目で追えないほど緊張してしまっていた。
「桜、私のおススメで良い?」
遥さんがメニューも見ずに私に話しかける。
「あっ、はい」
私が返事をすると
「蘭子ママ!いつものお願い!」
遥さんが大きな声でカウンターにいるママさんに声をかけた。
その声にママさんが気付いてくれ、OKのサインを出してくれる。
「いやだわ、あんなに大きな声出して。ちゃんとキャストを呼んで注文すればいいのに」
怪訝そうな椿さん。
「いいのっ、私とママの仲なんだから!」
遥さん、もう酔っているのかな。
この二人、仲が良いのか悪いのかどっちなんだろう。
そんなことを思いながら隣にいる椿さんを見る。
「綺麗だなぁ」
あっ、声に出しちゃった。
私の声に
「そんなに褒めても何もあげないよ?」
椿さんは微笑んでくれた。
そんな顔されたら……。あっ、鼻血が出そう。
そのくらい、私の顔はたぶん真っ赤だ。
「ところで、こんなに可愛い桜ちゃんに彼氏はいるの?」
可愛いと言われ、お世辞だとわかっていてもさらに顔に赤みが増す。
「はい、彼氏はいます」
頼んだカクテルをひと口飲む。
お酒の力を借りないとまともに話ができないと思った。
「どんな人?」
「えっと……。年上なんです。一緒に住んでます。昔は優しかったんですけど、今はなんだか素っ気なくて。でもっ、私が悪いんです。容姿だって良くないし、頭も良いわけではないし……。お金も持っているわけじゃないし……。取り柄も……ないし。だから私なんかと一緒に居てくれるだけでありがたいと思ってます」
思わず、俯いてしまった。
椿さんはフッと軽く笑ったかと思うと
「自分のこと、そんなに卑下しないの。桜ちゃんはこんなに可愛くて頑張り屋さんでしょ?それに……。桜ちゃんは容姿とか学歴とか経済的な面で彼のことが好きになったの?違うでしょ?彼氏だって同じだと思うわ。そんなこと、関係ないんじゃないかしら」
怒るわけでもなく、優しく諭すように椿さんは話してくれた。
そうだよね。
私も優人のそんなところが好きで付き合ったわけじゃないし、一緒に居るわけでもない。
人を好きになるって損得じゃないもんね。
「それでね桜、最近元気ないけど、どうしたの?今日、飲みに誘ったのは心配だったからって言うのもあるの。会社じゃゆっくり話せないし。仕事は順調そうだし、特にミスとか失敗もしてないでしょ?私生活で何かあった?」