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急に遥さんが深刻そうな表情で私に話しかける。

もしかして、遥さんは気付いている?

この痣のこととか……。


その時――。


「ガシャンッッ!!」

グラスが割れる音がした。


他のテーブルのお客さんがグラスを床に落としてしまったらしい。


「あらっ!大丈夫?」

椿さんも立ち上がって片付けに向かった。

立ち上がり方とか歩き方も女性らしいな、モデルさんみたい……。

私もあんなに綺麗な人だったら、もう一度、優人に優しくしてもらえるのかな。

でも椿さんって元は男の人だよね?



ガラスを片付け終わり、手を洗っている椿さんをぼーと見ていた。

「やだっ、椿。指が切れてるじゃない?大丈夫!?」

ママさんが慌てている。


「これくらい大丈夫」

ダメダメと言いながら、絆創膏を探すママさん。


「あれー?この辺に確かあったのに」

絆創膏なら、私、持ってる。


「私、持ってます!」

カバンから絆創膏を取り出し、カウンターにいる椿さんの元へ駆け寄る。


血が薄っすら出ているが、深くはなさそうだった。

「大丈夫よ。桜ちゃん」


「桜、椿は大丈夫だから?」

遥さんも私の後ろに駆け寄る。


私が絆創膏のテープを剥がし、椿さんの指を持った。

「あっ!!」

ママさん、遥さんの二人が声を上げる。


「えっ?」

私、そんなにいけないことした?

出血している部分には触れていないし、優しく指を持っただけなのに。


とりあえず、椿さんの指に絆創膏を貼る。

「この絆創膏、水に強いタイプのモノなんです。だからお仕事中に少しくらい水に触れても剥がれないと思います」


必死だったから、今更になって椿さんに触れてしまったことが恥ずかしくなった。爪も綺麗、指も長いし。


あれっ、なんでみんな何も言わないんだろう。

私、でしゃばり過ぎちゃったかな?


「あのっ……」


「ありがとう、桜ちゃん。助かったわ。今度、お礼をしないとね?」

椿さんが微笑んでくれた。


「お礼だなんてっ!そんなっ」

私があたふたしていると

「ねぇ、椿、大丈夫?」

蘭子ママさんが椿さんに声をかける。


遥さんも椿さんの身体をジーと見ている。


「不思議なことに大丈夫みたい……」

椿さんも自分の身体を見ている。


えっ?どういうこと?

私、そんなにいけないことしちゃったの?


「実はね、椿は昔のトラウマのせいで女性に身体を触られると蕁麻疹が出ちゃうの。事情を知らない桜ちゃんには申し訳なかったけど、だから止めようとしたの……。でも大丈夫みたいね」

蘭子ママさんが説明をしてくれ、やっと理解ができた。


「へぇ、こんなこともあるんだ」

遥さんも事情を知っているのか驚いていた。


女性に触られると蕁麻疹……。

私って女だよね?


「実は桜ちゃん、男の子ってことないわよね?」

蘭子ママさんが頬に手を当てながら考えている。


「私は、女です!」

身体はポチャッとしているし、顔も丸いし、髪の毛もボブで短めだけど、ちなみに胸も身体の割に小さくて……。それがコンプレックスだけど、女であることには間違いがないと思う。


「椿さん、ごめんない。そんな事情があるなんて知らなくて。無理矢理触っちゃって……」

役に立つことがあると思って、暴走しちゃった。


「ううん。ありがとう。貼ってもらったおかげで痛くなくなったよ。話していなかった私が悪いの。気にしないで、ありがとうね」

そんな真っすぐ見つめられたら……。目線を逸らすことができないよ。


三人でテーブルに戻る。

「お待たせしましたぁ。蘭子ママ特製のオムライスですー!」

鉄板に乗せられたオムライスが運ばれてくる。


「うわぁ、大きい!美味しそうー!」

見た目はシンプル、一般的なオムライスと変わらないが、三人前以上はあるんじゃないかと思う大きさだった。


「遥ちゃんと取り分けて食べてね!」

迫力に押されてしまっていると

「私が取ってあげるね」

椿さんが上手に取り分けてくれた。


「いただきます!」ひと口食べる。


「んんんー!美味しいですー!」

ご飯にケチャップがきちんと絡み合って、卵も柔らかい。味付けも丁度良い。


「美味しいー!」

お腹も空いていたからかパクパクと食べ進めている私を見て

「やっと笑ったね?」

椿さんがオムライスでいっぱいになっている私の顔を見ながらそう呟いた。

綺麗なオネエ?さんは好きですか?

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