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腕を横に伸ばしてレイブを押し留めたバストロは、幾分混乱しているのか恥ずかしかったのか、見えるほうの左目をぎゅっと瞑って、空洞になった後結着してパッと見、肌みたいになっているだけの右目だった場所をクワっと見開いた風にしながら小声で言う。
「レイブ! 滝壺は駄目だっ! だからお前らが向かう場所はぁ、ええっとっ…… どこでも良いから隠れられる場所? そうだな、そうだっ! お前オリジナルの場所に隠れているんだぞ! 絶対だからなっ!」 ボソッ
レイブは躊躇(ためら)いを隠そうともしない。
「えっ、で、でもさっ、僕しか知らない場所に隠れちゃったらさっ、師匠が帰って来たって迎えに来れないじゃない? どうすんのさ、今生の別れ、的な話じゃないんだよね? どうするの?」 ボソッ
バストロは腕を組み首を傾げて答える。
「おーそうだなー…… はて…… おっ! そうだ! あれじゃん、お前達がさ、毎日俺が帰ってきたかどうか確認に来れば良いじゃないか! なっ、そうしようぜ!」 ボソッ
「えー毎日ぃー」
「ば、馬鹿、声を潜めろよレイブ……」 ボソッ
「あ、ごめんごめん、んでも何で薪拾ったりコソコソ小声にしなくちゃいけないの? 意味不明だよ?」 ボソッ
バストロはレイブに顔を一層近付けて説明だ。
「何でって昔からそう言い伝えられているからだよ、あのな魔術師が共同で行う『除染』に赴く時にはな、拠点に残していく弟子や家族を誰にも知られていない場所に隠さなきゃいけない、遥か昔からそう言うルールになっているんだぞ…… 嘘だと思うなら後でセスカに聞いてみれば良い、アイツだって言い付け通りシパイをどこかに隠してから来ている筈だからな」 ボソッ
「へー、んじゃ聞いてみよっと」 ボソッ
レイブの気楽な声を聞きながら熟考していた感じのバストロはやや置いてからパァッと表情を明るくしたのである。
多分何か名案、いや自分なりの答えに辿り着いたらしい。
嬉しそうな表情を浮かべながらレイブの耳元に囁きを再開する。
「良しっいいか? 俺とジグエラ、ヴノは帰って来たら岩山の洞窟、『光と影の岩窟』に居続ける事としようじゃないか! 日中の間はジグエラに岩山の上を旋回し続けてもらって、ヴノにも目立つ山肌で昼夜問わず横たわっていて貰おう! それなら遠目にも判り易いだろう? 谷底でも近くの山からでも、至近距離の林からでも確認できるじゃないか、それならそんなに大変じゃないだろ、レイブ?」 ボソッ
「うーん、まあね……」 ボソッ
「んじゃそれで行こうぜ、良いか? 内緒だからな」 ボソッ
「了解だよ」 ボソッ
その後適当に薪を抱えて戻った二人は、業(わざ)とらしく話しに相槌を打ちながらこの夜を過ごす事となった。
先程の発言通り、さりげなくシパイの居場所を聞いたレイブに対したフランチェスカの答えは驚きの『判らないわね』と言った斜め所か遥か彼方の物であった。
申し訳程度に付け足した言葉は『あの子良く家出するのよ』だ…… 嘘丸出し、幼いレイブにもそこだけはハッキリと理解できたものだ。