テラーノベル
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定期テストの結果が返ってくる日。
事務所の空気は、組の看板を懸けた大博打の開票を待つかのような、異常な緊迫感に包まれとった。
俺は応接間のソファに座り、数分おきに眼鏡を拭いてはかけ直す。
和幸は落ち着きなく廊下を往復し、長治はなぜか神棚に向かって念仏を唱え続けていた。
「パパ! パパ!! 見て!!」
玄関のドアが勢いよく開き、ひまりが飛び込んできた。
その手には、一枚の成績表。
俺は立ち上がろうとして膝が笑い、危うくテーブルに頭をぶつけそうになった。
「……ひまり、落ち着け。…結果は、どうやった」
ひまりが無言で突き出した紙面。
そこには、目を疑うような数字が刻まれとった。
学年順位
前回の「下から数えたほうが早い」位置から、一気に上位20%へランクイン。
数学・理科:驚異の学年5位。
備考欄:先生からの「素晴らしい努力の成果です」という直筆コメント。
「……20番台…ひまり、お前……やりおったな!」
「うん! 私、すごく嬉しくて信じられなくて!パパたちが一緒に勉強してくれたおかげだよ!」
◆◇◆◇
「……和幸、長治。聞いたか」
俺は震える声で呼びかけた。
横を見ると、和幸は既に鼻水を垂らして号泣し
長治は「お嬢ォォォ!」と叫びながら床に突っ伏しとった。
「兄貴……自分、オームの法則とか助動詞とか、必死に覚えた甲斐がありました…うっ、ううっ……」
俺は眼鏡を外し、溢れ出して止まらんもんを手の甲で拭った。
極道の世界でどれだけ修羅場を潜っても枯れなんだ涙が、娘の「努力の証」一枚で、決壊しおった。
「……和幸、赤飯や!それから、ひまりの机に飾るための『特製・表彰状』を純金で作らせろ」
「兄貴、それは重すぎて机が抜けますって!」
◆◇◆◇
翌日
ひまりが学校へ行くと、あの「天才」東くんがひまりの順位を見て絶句しとったらしい。
「…黒龍院さん、君……どんな家庭教師を雇ったんだ?」
と震える声で聞いてきた東くんに、ひまりは満面の笑みでこう答えたという。
「家庭教師じゃないよ。……最凶の、私の『家族』に教わったの!」
その報告を聞いた俺は、事務所の裏で一人、静かにガッツポーズを決めた。
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