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追憶のマッチング
手嶋は、吐夢を逮捕するはずだった。 それなのに、今、彼の手を握って走っている。
夜の東京、雨が強くなり、ふたりの足音が濡れたアスファルトに響く。
「こっちだ、早く!」
吐夢が手嶋の手を引く。まるで、彼が導いているようだった。
警察無線が鳴る。
「手嶋刑事、応答願います。容疑者確保の状況は?」
手嶋は無線を見つめ、そっと電源を切った。 その瞬間、自分が刑事ではなくなったことを悟る。
ふたりは、古びたビジネスホテルに身を隠す。 部屋の窓からは、ネオンが滲んで見える。 吐夢は静かに言った。
「君は、どうして僕を逃がしたの?」
「わからない。ただ…君の孤独が、俺の中の何かを揺らしたんだ」
沈黙。 そして、吐夢がそっと手嶋の手に触れる。
「僕は、誰かに選ばれたかった。君に、選ばれたかったのかもしれない」
その言葉に、手嶋は何も言えなかった。 ただ、心が静かに崩れていくのを感じていた。