uret注意
目が覚めると俺は病室らしき場所にいた。
辺りを見回すと看護師さんのような白衣を着た女の人が窓際に座っていた。
「あの…ここってどこですか?」
「え、あ…起きたんだ」
そうゆっくり椅子から立ち上がる。
「なにか果物食べる?」
「あ…はい、りんご食べていいですか? 」
「うん、分かった。切るから待っててね」
俺の隣にある棚の上からりんごとナイフを取り、また窓際の椅子へ座る。
りんごを切る時、慣れた手つきでササッと手早く終わらせた。
「…慣れてますね」
「あぁ…彼氏が好きでよく切ってたんだよね」
「へぇ…看護師さんってこんなことまでしてくれるんですね」
「…あ、私看護師さんじゃないよ」
そう笑いながら切ったりんごを渡してきた。
「…え?じゃあなんでここに…」
「まぁ…色々あってね 」
「彼氏いるのにいいんですか…? 」
「うん、もう私彼女になれないから」
少し変な言い方が気にかかるが、聞いちゃいけなかったなと後悔する。
「あ…すみません」
「え、全然大丈夫だよ?」
「いや、でも…」
「…んー、じゃあさ」
「私の話聞いてくれない?」
「え? 」
突然話を聞いてと言われ戸惑った。
だけど失礼なことを言ってしまったんだし、聞かないと気が済まない。
「いい?」
「まぁ…はい、俺でいいなら」
「…私ささっき彼氏がいたって言ったじゃん」
「あぁ…はい」
「その彼氏ね、私のこと庇って記憶喪失になっちゃったの」
「えっ…」
「なんか私もよく分かんないんだけど”前向性健忘症”ってやつらしくて、毎日記憶がリセットされるの 」
「だから…最初に起きた時私のこと誰かもわかんなくなってて笑」
「…」
「ur…いやその人に思い出してもらうために毎日会いに来てるんだけど1日も私の事思い出してくれないんだよね笑」
「…辛いですね」
「…でも私諦めないって決めてるの」
「私のことを庇ってくれた人のこと忘れるとか無理だしさ笑」
そう笑いながら話す顔はどこか切なかった。
それからまたしばらく彼氏の話を聞いた。
彼氏と沢山遊んでた頃の話とか、その彼氏の話とか。
俺自身も聞いてて飽きなかったし、心が暖かくなるような気がしたからずっと聞いていられた。
初めて会う人なのにおかしいよな。
「あ、ごめん…そろそろ帰んなきゃ」
「ずっといてごめんね」
気がつくと空は橙色で、カラスが鳴いていた。
…時間って経つの早いな。
「いや、全然…聞いてて楽しかったし」
「そう?良かった笑」
椅子から立ち上がり、病室のドアの方へ歩いていく。
「じゃあ、バイバイ」
「うん、また」
ドアまでいったかと思えば、急に立ち止まり、こちらを振り向く。
「そういえば…その彼氏の名前urって言うの」
「…へぇ、」
「…じゃあね」
最後の別れかのような泣きそうな表情になりながらドアを開き、病室を出ていった。
「…etさん、綺麗な人だったな」
病室から外を見下ろした。
その時”黒川ur”と書かれた名札が夕日に反射し、キラッと光った。
翌日、目が覚めると病室にいた。そして、窓際の椅子に白衣を着た看護師さんが座っている。
「あの…ここ…」
「…あ、起きたんだ」
「果物どれか食べる?」
「…りんご貰っていいですか?」
「うん、切るから少し待っててね」
end
コメント
2件
前向性健忘症…😭😭😭😭😭 今読んでる本もこれ患ってる主人公でさ…😭 切なすぎるだろぉおおぉ😱
ああぁぁ、、切ないぃ ... 🥲😭 こういうの好きだぁ ... !🥲 え、普通に発想力神なんだが??