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そのことを思い出しながら、辛い経験を改めて言葉にして光貴に伝えた。
ほんとうは光貴を待っていたかったこと。
いちばんに知らせたかったこと。
傍にいて欲しかったこと。
初めての辛い経験でパニックになってしまったこと。
急な手術になり、死産になってしまったこと。
保管場所がなく、詩音を空に還さなきゃいけなくなってしまったこと。
私自身に余裕がなかったこと、全てを――
「私も未熟やったから、いろいろやり方も悪かったと思う。光貴の立場だったら同じように怒っていたかもしれない。でも…やっぱり、わかって欲しかったっていう自分本位な気持ちが強くて。光貴との温度差も、辿った現実も違うから、相容れられなくて…それがすごく辛かった」
「それは…僕も至らないところもたくさんあって、でも、乗り越えようって言ってくれて…違ったん?」
「そうするつもりだったよ」
「でも、今、こんなことになってるやん。なんで、いつから新藤さんとこんな仲になったん? どこから?」
「…去年、このことで大喧嘩したでしょ。私、家を出てさっちゃんと飲むって明け方帰った時があったよね。そこに、新藤さんが来てくれて、私がすごく酔っていたから、あの人の家で飲み直そうっていう流れになって、自宅にお邪魔したの」
私は光貴に包み隠さずその時の経緯を語った。
博人の家で彼に無茶なことを言い、白斗を連れてこいなんて言ってしまったことから始まった関係であることを。
「新藤さんは、私が白斗に十年間ファンレターを送り続けていた『吉井律』ということに気づいていたの。だから辛い時に助けてくれて、その上で愛してくれた」
「それは…確かにライブのことは君の選択が正しかったと思う。でも、急に詩音の訃報を聞かされて、全部事後報告でなにもかもが終わった後で、当事者のはずなのに一切知らされていなくて、取り乱してしまった僕の気持ちも少しは理解して欲しい。僕だって辛い時に、君にメチャクチャに責められたんや。ただ…配慮足らずだったことは事実や。それについては反省してるよ。ごめん」
でも、と光貴は再び憎悪の炎を瞳に燃やし、私をまっすぐに見据えた。
「詩音のことと今回のことは、話が別やんか! あの男とそん関係になるなんて、僕がいるのにおかしいって思えよ!! そんなことが赦されるはずがない!!」
「思ってないよ! だから…光貴とは別れるつもりだった」
光貴の顔が歪んだ。お構いなしに私は続けた。
「段階を踏まなかったことについては…光貴と一緒にいると辛くて、私が逃げ出したかったからなの。気持ちを伝えても、光貴はぜったい別れることについて納得してくれないと思ったし、きっと『不満に思っているところや、悪いところは直すから』って言ってくれる。あなたは優しいから…どんなに説明しても、私のどす黒い感情は、一生わかってもらえないって思ったの」
「そうや。一生添い遂げるつもりで、覚悟を決めて君を嫁にしたんや。悪いところは直そうって思うよ」
「ごめんなさい」深く頭を下げた。「そうじゃないの。光貴のことはもう愛せない」
「そんなことが認められるわけないやろぉっ!! 君は、僕のことを愛してくれてたんと違ったん!? なあっ!」
酷い女だと思う。
この先の私に待っているのは、地獄だけ。
私は、光貴の心を言葉の刃で深く突き刺し、殺してしまう――
「新藤さんを――博人を愛してしまったの。だからごめんなさい、私と、離婚(わか)れてください」