テラーノベル
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そして、やはりそのまま無言で車は走り続けて。
徐々に張り詰めていく空気の中、真衣香は八木の態度の変化に頭の中を混乱させていた。
もともとわかりにくい人ではあるけれど、今日は本当に、全く、理解できない。
――どれくらい走っていたのだろう。
気まずい沈黙の中、ようやく車が停まった。
見渡すと、消えかかった街灯が点々として、暗い風景が広がっている。
それを目を凝らしてジッと見ると、どうやら工場が立ち並んでいて、人気は疎らどころか、ない。
しかし、海が近いのだろう。さらに見渡すと空がひらけている。街灯よりも、月明かりが目立つような、そんな景色。
「こ、ここ……? 何か、あるんですか?」
暗がりの静けさに、何故だか不安が募った。
相手は、八木なのに。
何も不安を感じる必要などない相手なのに。
「いや、人気のないとこ探してただけ。ホテルとか入っちまうとなぁ、出れなくなると困るだろ」
「はい?」
“人気のないとこ”
“ホテル”
八木から、予想していなかった単語が発せられ、真衣香の不安はさらに大きく膨らんでいく。
「言い方おかしいか? 帰したくねーなって。俺がそうなると、困るだろ……とか、言った方がお前にはわかりやすいか?」
「え、すみません、全然わかりません……」
戸惑う真衣香の横で、八木はシートベルトを外して、その動作の続きかのよう。助手席のシートをゆっくり倒した。
「……え!?」
あまりにも自然な動きだったので、深く倒されてしまってからやっと反応を返せたが。
一体何がどうなっているのか、わからない。
今の今まで車の窓から空を眺めていたのに、視線の先には真衣香を見下ろす八木がいるではないか。
胸元で手に汗をかきながらバッグを握りしめていると、剥ぎ取られてしまう。
膝掛けがわりにしていたコートも後部座席に投げられてしまった。
「なぁにが、今日はありがとうございました。だよ、アホかっつーの」
「あ、アホ!?」
「本題こっからだって」
八木が、自らのネクタイに手をかけ気怠そうに緩める、その仕草が艶めいていて。
囚われてしまったように目が離せない。
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