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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ルイの伝を借りる代わりに買い物に行く約束をしてしまいました。買い物に付き合うくらい問題ありませんし、そろそろ夏になるので夏服が欲しかった所。良い機会とも言えます。半月後、ルイの休暇の日に外出することになりました。
「いや、買い物前に散財させられるとは思わなかったぜ」
「それとこれとは話は別ですから」
約束通り、ルイは『テラリア』のホールケーキを買ってきてくれました。うん、絶品です。
「美味いのか?シャーリィ」
「絶品ですよ、ルイ。食べてみますか?」
フォークに差して差し出すと、何故か頬を赤らめました。はて?
「お前、それ間接…」
「要らないのですか?」
「いや、要る」
口を開けたので食べさせてあげます。妹のレイミに食べさせてあげたことを思い出しますね。
「うん、美味いな。流石は銀貨八枚だ」
「値段の価値はあると言うことです」
銀貨八枚と言えば平均的な家庭の八ヶ月分の給金です。滅茶苦茶高いですね、これ。砂糖が貴重品だからなぁ。
「むっ、砂糖は貴重品…」
砂糖は貴重なので、作れば売れそう。ロウに言って試作してみますか。
「待て待て、今日は非番なんだろ?なら仕事の事は考えんなよ」
「それもそうでした」
ふむ、仕事人間になってしまうのは、何だか悲しいですね。
私達はホールケーキを食べて一休みすると、早速外出します。
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「お嬢の事頼むぜ、ルイ」
「分かってるよ、ベルさん」
セレスティンとベルに送り出されて私達はシェルドハーフェン市街地へと向かうのでした。
オッス、ルイスだ。シャーリィをデートに誘ったは良いが…まあ、シェルドハーフェンだしな。
基本はメインストリートから離れないように街を歩いて、周囲に気を配りながら武器をいつでも抜けるようにする。そんな街で甘酸っぱい雰囲気になるわけがない。
取り敢えずメインストリートをぶらぶらしてるのが一番無難だな。
「ルイ、服屋さんに寄りたいのですが」
「おう。最近は毎年新しい服を買わなきゃいけないんだよなぁ」
「ルイも大きくなりましたからね」
「そりゃお前もだろ」
姐さん曰く成長期って奴らしい。確かに背は延びたし身体も鍛えるだけ逞しくなるのは良いな。
シャーリィの奴も二年前はチンチクリンだったが、今じゃ背も延びて身体も女らしくなってきた。
……悪いかよ、男なら目が行くだろ。
で、俺達はシェルドハーフェンで一番の服屋に来たわけだが。
「ふむふむ」
当たり前だが実用性が最優先の品揃えだな。金持ち相手の上等な服もあるが、成金趣味は無いんだよなぁ。
シャーリィの奴も防刃ベストなんて漁ってるし…普段着に…ん、これ似合うんじゃないか?
「なあ、シャーリィ」
「何ですか、ルイ」
「これ、普段着にしたらどうだ?お前なら似合うと思うんだけど」
俺が選んだのは、真っ白なワンピースだ。基本シャーリィは物静かだから、清楚なイメージが似合いそうだ。
「ワンピースですか。あ、丈も長い。これなら武器を仕込めそうですね」
「そこかよ」
仕方無いがな、丸腰で街を歩く何て遠回しな自殺だからなぁ。
「買います」
「いや、買ってやるよ。勧めたのは俺だし。ほら甲斐性って奴だ」
「うーん、悪い気もしますが……分かりました。甘えます」
「おう」
サンダルと帽子もついでに買うか。夏は暑いからなぁ。
俺は会計を済ませて袋を手渡す。
「ほら」
「ありがとうございます、ルイ。お返しは必ずしますので」
「おう、期待しとくよ」
一方的だとシャーリィは嫌がるからな。まだまだ、ゆっくりと行くさ。
服屋を後にした俺達は、シャーリィに付き合ってあちこちの小物やら本やらを買い漁りながら街をぶらぶらした。荷物なんかは、『ターラン商会』の配達屋に任せた。身内値引きで助かったぜ。
「何だか今日はルイに奢られてばっかりです」
昼食のサンドイッチを食べながらシャーリィが呟く。
「別に良いぜ、誘ったのは俺だしよ。少しくらい格好付けさせてくれよ、シャーリィ」
「それも殿方の矜持ですか?」
「見栄張ってるだけだって」
シャーリィ相手なら気負わず話が出来るしな。
「では、貴方を立てるのが女である私の役目ですね」
「そう、だから今日は奢られとけって」
まっ、お陰で懐は寂しいもんだがよ。
「分かりました、奢られてあげます」
「なんだそりゃ」
「さあ、次に行きますよ。次は……」
「焦らなくても時間はたっぷりとあるさ」
少しはシャーリィも息抜きできたかな。今は、このくらいにしとく。仲を深めるのはまだ先だ。
今のシャーリィにとって、色恋は間違いなく足を引っ張るし迷いが生まれる筈だ。こいつのやろうとしてることは、下手をすれば政府を敵に回すかもしれない。
俺はシャーリィの足枷に成りたくはない。今すぐ俺の女にしたいって欲もあるけど、それは俺達にとっても良くない。たまに買い物でもして息抜きに付き合うくらいで良い。
その時まで、俺がお前の敵を潰してやる。それが出来るように、もっと強くならねぇとな。こいつが心底笑えるように。
微笑むシャーリィを眺めつつ、ルイスは確かな幸福を感じ決意を新たにするのだった。
「全く、知ってるか?人の恋路を邪魔すると死ぬらしいぜ?お前らを見てると間違いなく当たってるよな」
よう、ベルモンドだ。お嬢とルイスを陰ながら見守ってる。邪魔はしたくないんだが、シェルドハーフェンだからな。
何があるか分からねぇし胸騒ぎもしたんだ。で、嫌な予感は当たったわけさ。
「たっ…助けてくれぇ…」
で、俺の足元に倒れてるこいつらは、お嬢を狙おうとした馬鹿だ。拉致って良い思いをして売り捌こうとしたんだろう。一応忠告はしたんだが、問答無用で来やがったからな。
「駄目だ。言っただろ?死にたくねぇなら止めとけって。それを無視してお前ら俺を殺ろうとしたじゃねぇか。正当防衛って奴だよっと」
「やめっ…!ばっっ…!」
俺はおもいっきり生き残りの頭をグシャッッと踏み砕いた。慈悲は最初にやってるからな。挑んで相手が強かったから助けてくださいなんて都合が良い話があるかよ。
あーあ、ブーツが血塗れだ。全く。
「御守りも楽じゃねぇよ。ルイ、貸しだからな」
若い二人の青春を陰ながら見守りつつ、俺はため息を吐く。