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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ルイと買い物に行って2ヶ月、帝国にも夏が訪れます。
シェルドハーフェンは港町だけあって潮風もあり夏も内陸部に比べて過ごし易いと聞いたことがありますが、嘘ですね。暑いです。
流石にルミのケープマントや礼服は暑いので、会合など外行き以外はルイに買って貰った真っ白なワンピースにサンダル、真っ白いリボン付きの帽子で過ごしています。ワンピースも丈が長いので、武器を潜ませるのに優れており重宝しています。
……まっ、まあ、折角買って貰ったんですから着てあげないと可哀想ですし、うん。
「誰に対する言い訳ですか」
「何でもないです、シスター」
ナチュラルに心を読まないでください。
「計略の方はどうですか?シャーリィ」
シスターは急に話題を切り替えるんですよね。これ、慣れない内はビックリするんです。相手の動揺を誘うためにわざとやってるんだと思います。
「順調ですよ」
『蒼き怪鳥』との取り引きは三回ほど行い、二束三文で買い叩かれている状況を維持しています。ラメルさんの探りだと、今のところ私の事をアーキハクト伯爵家に問い合わせた痕跡はないとか。
律儀にお忍びであることを護ってるのかな?
「面倒事を避けているだけですよ。伯爵家のご令嬢がお忍びで物を売りに来る。どう考えても複雑な事情がある筈。貴族様の厄介事に首を突っ込むのは愚の骨頂ですからね」
だから心を読まないでください。
「じゃあ、私を拾ったシスターは」
「まさに愚か者ですよ」
「ふふっ、では改めて心から感謝を。ありがとうございます」
「構いません。後悔はしていませんからね」
うん、やっぱりシスターには大恩がありますね。私を拾ってくれたから、今の私がある。これからも労らないと。
「失礼な、まだ二十代です」
「えっ、29歳では…あいたっ!」
シスターに拳骨を頂きました。いや確かに二十代ですけど、もう三十手前…。
「ふぎゃっ!」
もう一発ですよ!?理不尽です!
「女性に年齢云々は禁句ですよ。頭に思い浮かべるのも大罪です。覚えておくように」
「とても理不尽なことを言われてるような気がします」
思考まで読まないでください!
…おや?
「どうしました?…ん」
二人揃って空を見上げます。あれは…鳥?それにしては大きいし、羽ばたいていないように見えるんですが。
「あれは?」
「あれは、飛行機械ですね。飛行機とも呼ばれている、空を飛ぶ機械ですよ」
「飛行機…空を飛べる!?」
何ですかそれ!
「去年辺りからライデン社が試作しているみたいですよ。あちこちに売り込んでいるとか」
「ほうほう」
「まあ、貴族様の道楽になるでしょうね。空を飛んで下民を見下したいのでしょう」
「ふーむ」
道楽だけで終わるとは思えませんが。空に遮蔽物無し。空から見下ろせば、あらゆる物を見渡すことが出来ますし、攻撃手段まで用意すれば一方的に攻撃が出来ることを意味しています。これ、すっごく画期的な発明なのでは!?
「また何か思い付きましたね?シャーリィ」
「ええ、是非とも飛行機を手に入れたく思います。ライデン社との繋がりを持たなきゃいけない理由が増えましたよ」
「最先端技術を手に入れたいのですね」
「はい、理解できない技術でも理解して応用すれば幾らでも活用できます。ライデン社は最先端技術の宝庫ですからね」
「流石の私もライデン社とのコネはありませんね」
「心当たりはありますよ」
ドワーフのドルマンさんです。あの方に認められればライデン社との繋がりも出来ます。その為にも勢力を拡大しないと。
その日の正午、エレノアさんが戻ってきました!
「お帰りなさい、エレノアさん」
「ただいま、シャーリィちゃん。寂しかったかい?」
「もちろん、待ちわびましたよ。まずはご無事で何よりでした。皆さんは?」
「安心しな、手下達も皆無事だよ」
「それは良かった」
「で、早速報告といこうか」
「先に休んでても良いんですよ?」
疲れてるでしょうから。
「先に報告を済ませて休むよ。まずはこれを見てみな」
そう言いながらエレノアさんはお胸の谷間から羊皮紙を取り出します。パーフェクト。
……羨ましくないんですけどねっ!
「これは?」
「『蒼き怪鳥』とアルカディア帝国商人との取り引きの証明書さ」
「なっ!」
アルカディア帝国との取り引き!?それって…。
「悪いことなんですか?」
「シャーリィちゃん、普通なら死罪だよ。敵と商売することになるんだからね」
「えっ。薬草をたくさん育ててるのに」
取り引きできないなら無駄になってしまう!
「まあ、無法地帯のシェルドハーフェンなら珍しくもないよ。だけど、『蒼き怪鳥』はちゃんと『表の顔』もあるんだ。そんなところがアルカディアと繋がりがあるなんて事になったら…」
「ふふっ」
「シャーリィちゃん…?」
「ああ、素敵です。とっても素敵ですよエレノアさん!これを突きつけた時の顔を想像しただけでっ!」
お腹一杯になります。嗚呼、本当に愉快だ。胸が高鳴るのを感じます。嗚呼、頬が緩む。
「ひぃっ!」
あっ。
「ごめんなさい、ちょっと気分が高揚しました。怖がらないでください」
「もう、シャーリィちゃんの笑顔は心臓に悪いよ」
そんなに不気味なんですかね?何だかショックです。
「ああ。いや可愛いんだけどね、いきなりニッコリ笑うんだからビックリしちまうのさ」
「ああ、なるほど」
普段が無表情ですからね。それはさておき。
「良い情報でした。これはどこで?」
「小さな船を襲った時に見付けてね。まだ本命じゃないが、手がかりにはなるだろう?」
「もちろん、此だけでも充分すぎる成果ですよ」
「まだまださ、本命のフリゲートを奪うまで止めないからね。次の成果も期待しときなよ、シャーリィちゃん」
「はい、期待して待ってますよ、エレノアさん」
やっぱり海賊のエレノアさんに入って貰ったのは正解でしたね。
「ああ、忘れるところだった。これ、戦利品だよ。売れば高値になるけどね、シャーリィちゃんならもっと良い使い方が出来るだろ?」
こっ、これは!
「まっ、魔石!?」
この石を持った感じは、間違いなく魔石!
「アルカディアと密輸してるんだ。魔石くらい輸入してるさ」
「良いんですか?この大きさなら金貨百枚は下りませんよ」
「他に売れそうな奴もあったし、そっちを手下達の分け前にしたから安心しな」
「ん、分かりました。でもそれだとエレノアさんの分け前がありませんよ?」
「別に要らないよ、好きでやってることだしね。私は海が好きなんだ。船を操って航海してるだけでも充分満足さ」
「それでも、分け前は……分かりました、これは借りにしておきます。ちゃんと返しますから、覚えててくださいね」
「おう、期待しとくよ」
思わぬ収穫がありました。『蒼き怪鳥』がアルカディア帝国と密輸している証拠と新しい魔石。ゆっくり確実に私達の有利に進む状況に私は気分を高揚させるのでした。