テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第19話 〚距離を詰める影〛
事件のあと、
恒一は――澪を追いかけなくなった。
登下校の道。
図書室の影。
背中に刺さる視線。
それらは、確かに消えた。
……はずだった。
「おはよう、澪」
朝、教室に入った瞬間。
自然すぎる声。
振り向くと、
恒一が、すぐ近くに立っていた。
「……おはよう」
澪は、短く返す。
「昨日の放送、聞いたよ」
「声、落ち着いててよかった」
距離が、近い。
(……近い)
澪は、無意識に一歩下がった。
「今日は委員会?」
「帰り、一緒――」
「澪」
その声に、澪はほっとした。
橘海翔だった。
「放送委員の資料、渡したくて」
澪がそちらへ向こうとした、その瞬間。
「俺が渡すよ」
恒一が、間に入る。
「同じクラスなんだからさ」
「わざわざ橘じゃなくてもいいでしょ」
空気が、張り詰める。
海翔は、恒一をまっすぐ見た。
「……本人に、渡したいだけだ」
澪の手に、そっと資料が渡される。
「ありがとう」
澪のその一言に、
恒一の表情が、一瞬だけ歪んだ。
(……なんで)
(俺の方を、見ない)
休み時間も、
放課後も。
恒一は、
“偶然”を装って話しかけてくる。
「席、近いね」
「その本、前も読んでた?」
「澪ってさ――」
悪意は、見えない。
でも、距離感が、おかしい。
えまが、小声で言った。
「……あれ、逆にしつこくない?」
しおりが、静かに頷く。
「監視されてる感じじゃないけど」
「逃げ道、塞がれてる」
みさとが、珍しく真剣な顔。
「形、変えただけだよね」
海翔は、澪の隣に立つことが増えた。
誰が見ても分かる位置。
誰が割り込んでも、すぐ分かる距離。
「澪」
「なに?」
「無理なときは、すぐ言って」
澪は、頷いた。
「……うん」
恒一は、その様子を見て、
静かに笑った。
(……逃げないんだ)
(なら、話すしかない)
執着は、
追う形をやめただけ。
今度は――
距離を詰める形になった。
澪は、はっきりと感じていた。
(……油断しちゃ、いけない)
嵐は、
完全には、終わっていなかった。