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第20話 〚誰も知らない、高嶺の花の裏側〛
橘海翔は、最近よく考える。
――白雪澪のことを。
最初は、放っておけなかっただけだった。
静かで、目立たなくて、
でもなぜか視線を集めてしまう存在。
「高嶺の花」
そう呼ばれている理由も、
なんとなく分かっていた。
近づきにくい。
触れたら壊れそう。
完璧そうに見える。
……でも。
(全然、違う)
放送委員の準備中。
マイクの調整に手こずる澪。
「……これ、合ってるかな」
小さく首を傾げる。
不安そうな声。
「合ってるよ」
海翔がそう言うと、
澪はほっとしたように笑った。
「……よかった」
その笑顔を見た瞬間、
胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
(こんな顔、誰も知らないだろ)
教室では見せない。
静かな場所でしか見せない表情。
怖がりで。
優しくて。
強がってるくせに、すぐ自分を後回しにする。
――高嶺の花、どころか。
(めちゃくちゃ、人間じゃん)
昼休み。
澪が本を読んでいる横に座る。
「それ、続き?」
「うん……面白くて」
ページをめくる指が、少し震えている。
集中しているときの癖だ。
海翔は、気づいてしまった。
澪は、
誰かに守られるのが当たり前じゃない世界で、 ずっと一人で踏ん張ってきた。
だから――
誰かが隣に立つと、戸惑う。
(……それでも)
(俺は、離れない)
恒一が近づこうとしたとき、
自然と澪の前に立った自分。
誰に見られてもいい。
人気者じゃなくなってもいい。
その覚悟が、
もう迷いじゃないことに、気づく。
放課後。
校舎を出るとき。
「澪」
「なに?」
「今日も、一緒に帰ろ」
少し驚いたあと、
澪は小さく頷いた。
「……うん」
その一言が、
胸の奥まで染み込む。
(……もう、だめだな)
完全に、沼だった。
誰も知らない、
高嶺の花の裏側。
それを知ってしまったのは――
俺だけでいい。
そう、思ってしまうくらいには。
海翔は、
確かに恋に落ちていた。
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