東堂さんは『杏』に出入りしてて、雫さんをずっと見てきたんだ。
どんな時もずっと――
そんな長い間、雫さんを見つめていられたこと、心からうらやましいと思った。
「東堂さんと雫さんは同じ25歳なんですよね。いいなぁ、2人とも大人で。僕なんか、雫さんからしたら、ただの年下の男の子くらいにしか思われてないですよ、残念ながら」
「雫ちゃんは別としても、俺はそんなに大人じゃないよ。中身は渡辺君の方がしっかりしてる。それに、俺も、彼女には友達、いや、ただの出入りの業者みたいに思われてるだけかも知れない」
そう言って、東堂さんはグラスに残ったビールを飲み干した。
「告白はしないんですか? 僕は……この前しました。一緒にテーマパークに行って。でも、返事はもらえませんでした。はっきりフラれたわけじゃないけど、あれから僕の気持ちは……かなり落ち込んでます」
僕も、チューハイのグラスを空にした。
飲まないといられない気分になる。
「すごいね、渡辺君は。ちゃんと自分の気持ちを伝えて……」
「すごくなんかないですよ。自分に自信ないまま告白して、ずっと心は晴れませんから。でも、もちろん、雫さんのことを諦めたわけではないし、なんか複雑です」
「俺、今、君に勇気をもらった。年下の君にね。情けない25だよ」
「東堂さん……告白、するんですか?」
「もともと、近々しようと思ってた。これは、本当。後は、勇気だけだったから。今、渡辺君に背中を押してもらえたよ。どうなるかはわからないし、正直、フラれる気しかしなくてちょっと怖いけどね」
切なげに笑う東堂さん。
本当に大人の魅力がある人だ。
この人が雫さんに告白したらって思うと、やっぱり不安になる。
東堂さんと雫さんが付き合ってしまったら……って。
でも、それも全部が「現実」。
そうなったらなったで、全て受け止めないと。
今日、東堂さんと話して、僕はますます恋愛という「複雑な迷路」に深く迷い込んでしまった気がした。
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