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27 ◇後悔
それにしても、平日の朝っていうことは、仕事を休んで来ているわけで
『あぁそうか』と珠代は独り言ちた。
確かお父さんも金曜日に来てたって言ってたから、そういうことか。
皆、温子さんが寮に住んでるっていうのを知らされてないんだ。
そうだよね、私が温子さんでもそうよ、知らせたりしないわきっと。
すこいわね、温子さん!
次から次へと、あなたを切って捨てた人たちが来訪するなんて。
あなたを追い出したことをきっと後悔しているのね。
あーだこーだと暇というわけでもないのに、推測している珠代を遠目で
見ていた哲司は、なかなか工場の敷地の敷居が高くて入れずマゴマゴして
いたものの、珠代の姿を捉えた瞬間ここぞとばかりに何とか向こうから
声を掛けてはくれまいかと、深々と珠代が佇んでいる方角に向けて
頭を下げた。
その哲司の所作が珠代の迷っていた気持ちを動かした。
珠代は倉庫の端に立っており、哲司のところまでは10m近くあったため
小走りに近づいた。
「こんにちは。こちらは北山製糸工場ですが何か御用でも……」
「あ、えっと……こちらに真鍋温子という看護婦が在籍していると思うのですが」
「温子さんなら、確かにいらっしゃいますよ」
『きゃっ、やっぱり元のご主人だったみたいね』
「勤務時間中でお忙しいところを申し訳ありませんが、真鍋さんを呼んで
いただけないでしょうか。ほんの10分ほど話をしたいだけなんです」
「分かりました。どうぞお入りください」
珠代は工場の敷地内から続けて兄の社長室の隣に設えている応接室に哲司を通した。
「温子さんを呼んで参りますね。しばらくお待ちください」
そう言い置き、珠代は部屋を出て行った。
―――― シナリオ風 ―――― おまけ ―――――――
珠代(心の声)
「あれ……どこかで見たような……。……って、あら?」
「……もしかして、温子さんの元ご主人?」
数年前、街中で温子と並んでいた男の姿がよみがえる
「まさか……復縁を申し出に来た?
いやいや、自分で離婚届送ったくせに?」
哲司の所在なげな立ち姿に、ついには小走りで近寄る珠代
珠代「こんにちは。こちらは北山製糸工場ですが、何か御用でしょうか?」
哲司(ぎこちなく)
「あ、えっと……こちらに真鍋温子さんという看護婦が……
いらっしゃるかと……」
珠代(にっこりと)
「はい、確かにおりますよ」
珠代(心の声)『やっぱり!元ご主人だわ』
哲司(深く頭を下げ)
「ご多忙のところ申し訳ありませんが、10分ほどだけ……
お話したいのです」
珠代
「承知しました。ではどうぞ、こちらへ」
珠代は応接室に案内し、温子を呼びに行く