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#ベリアン・クライアン
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番外編110『解っていることを』後編
時刻は0時を過ぎた。時計の針が静寂の中に流れる。ユーハンの手の温かさが、私の冷たい手を握り締めて離さない。
『貴方は人のウソを見抜く能力がありますが、自分のウソは見抜けません。だから私は主様のことを見てきました。貴方はウソをつく時、髪を触るんです。』
『そんなこと……。』
無意識なのか、私はサラッと髪に触れた。
『……。』
『少し話しましょう。』
『…。』
執事の食堂
『暖かい白湯です。』
『ありがとう……。…百合菜は泣いてたの。
私達はいずれ寿命を迎えて死ぬのに…みんなは悪魔と契約したから私達が死んだ後も、生き続けなければならない。そんなの…辛すぎるって。』
『それは…っ。』
『悪魔と契約をして…絶望を抱えて尚…死ねなくて、生き続けなきゃいけない。みんなは元は普通の人間だった。寿命を迎えれば…死ぬはずだった。でも。悪魔執事は魔導服を着て棺桶に入るのが、慣例。その身は朽ちることはない。』
ポタっ。
『主様……っ。』
『火葬でも、土葬でも…死、そのものは儚いと思ってる。その儚ささえ私は美しいと感じているの…でも、みんなは…違う。』
白湯に冷たい雫が滴り落ちる。
『私たちと同じように死ぬことは…っ。
どうしても出来ない……っ。そんなの、辛すぎるわ……っ。』
『っ……。』
絶望を経験した我々悪魔執事は歳をとることも無ければ死ぬことは無い。不老であって、不死じゃないというのは何たる皮肉。
致命傷を負えば死ぬというのに。姿形はこのままだ。契約した時のまま…このまま生き続ける。肉体年齢は26だとしても…歳をとることはもう二度とない。悪魔と契約したその瞬間から。絶望を経験した我々にとっては死が何よりの救済。『生きるのを辞めたくなるほどの絶望』を経験したのですから。
だけど、悪魔執事はやはり悪魔執事。主様は普通の人間。共に歳をとって生涯を終えることなど……出来ません。
主様をそっと抱き寄せる。
『今は私しかおりません。気が済むまで…お傍におりますから。』
『ゆーはん…っ。ぐすっ。ひっ、うぅ…』
一方その頃――。
『…お姉ちゃん?』
(私泣き疲れて寝ちゃったんだ…。お姉ちゃんは部屋かな…?)
ベットから出ようとしたらノックがする。
コンコンッ。
『主様、俺だ。』
『ボスキ…?』
『…泣いてたのか?』
『っ、ううん。これは…。』
『……今日言われたことを気にしてんのか。』
『…!!』
『…分かりやすいな。だが、何を気にしてる。俺と主様は生涯を誓った仲だろ?』
『……っ。』
そう。ボスキと私だけの秘密。お姉ちゃんでさえ知らない。私が死ぬ時はボスキも一緒に死ぬ。そして、悪魔に魂を捧げる。
それが、ボスキとの契約悪魔、ザエボスとの契約だからだ。
『他の奴らは生きてるとしても俺と主様は一緒だ。ずっとな。』
ボスキは私を抱き締めた。
『それでも……やっぱり、寂しいよ。ボスキはいいの?』
『ん?』
『執事のみんなと……一緒に生きなくて…』
『主様のいない世界でなんて生きていたくねぇよ。きっと、他の奴らも同じだ。』
『ボスキ…。確かに、みんなならそう言ってくれるかな。』
みんなには生きていて欲しい。だけど、やっぱり寂しいなんて言うのは、私のわがままかな。
翌朝――。
『ん…。朝…。』
(ユーハン…落ち着くまでいてくれたのね…。)
『ん…。おはようございます、主様。よく眠れましたか?』
『えぇ。ユーハンのおかげよ。ありがとう。』
『それは良かったです。』
『…ユーハン。私、みんなと話をしたいの。みんなを集めてくれる?』
『!かしこまりました。』
ユーハンは部屋から出ていく。
コンコンッ。ガチャッ。
『百合菜。ちょっといいかしら。』
『お姉ちゃん……?』
数時間後――。
裏山
『主様、皆さんをお呼びしました。』
『ありがとう。みんな、昨日は取り乱してごめんなさいね。動揺して私も百合菜も気が立ってて……。』
『いえ、私達のために怒ってくれて嬉しかったですよ。』
『…百合菜、貴方からまず話してくれる?』
『うん…。あの、私はみんなともっと一緒にいたい…みんなのこと大好きだし、離れたくない…。いつか来る別れのことを考えると尚更辛い…でも…。その時まで私はみんなと一緒にいたい。どんなに楽しい時も…別れは必ず来る。その日までは笑って楽しく過ごそうって…それが私の願い。』
『主様……。かしこまりました。それが貴方の望みなら、俺は全力で叶えましょう。』
ハウレスが私に頭を下げる。
『私からは…。…みんな、聞かせて欲しいの。もし、私と百合菜が死んだらみんなはどうするの?』
『……。』執事一同
『ムーの意見も聞かせて欲しいの。』
『ボクは…主様と一緒がいいです!』
『そうよね、やっぱりそう答えるわよね。みんなも……同じかしら。』
『はい。我々は主様の執事です。主様が死んだら我々も――』
『…私達の後を追うか。生きるか。それは…みんなに決めて欲しい。』
『っ……!』
『みんなは悪魔執事…絶望を経験した。
本当なら生きることも嫌だと思う。私達が居なくなったら尚更…生きる意味なんてないって思うかもしれない。でも…みんなは…自分の意思で決めて欲しいの。私達に縛られなくていい。生きるか、死ぬかはみんなに委ねるわ。死ぬのはやっぱり嫌…。みんなと離れたくないもの。でも……死ぬその瞬間まで…みんなと一緒にいれたってこと。私には最高で最強な執事達がいたこと。優しくて…面白い執事達が仕えてくれたこと。この事実だけは……絶対に死なない。だからいつか訪れるその瞬間まで、ずっと一緒にいる。約束するわ。私は寿命を迎えるまで、死ぬことは無い。天使に殺されたりもしないわ。あくまで…自然の摂理で…この命を捧げる。』
『っ…主様――。』
『だから、もう泣かないわ。』
みんなに歩み寄りそっと手を握る。
『これからもみんなと一緒にいたいから。』
『ボクもです!主様!』
『お姉ちゃん私もだよ!』
2人が私に抱きついた。
『主様がそう仰るなら、我々は従うのみです。その日まで…この命に替えても、お守り致します。』
執事たちはその場に跪いて頭を下げた。
その日まで私達とずっと一緒にいて欲しい。
いつかくる…悲しい別れまで。
コメント
1件
うわ……もう、涙が止まらないよ……。主様が「もう泣かない」って言ったあと、みんなで手を握り合う場面、本当に胸にきた。ユーハンの「お傍におりますから」も、ボスキの秘密の契約も、全部が愛おしくて切ない。主様と百合菜が「その日まで笑って過ごそう」って決めたからこそ、余計に響くんだよね。素敵な話をありがとうございます。