テラーノベル
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3話です!
※冴凛
※パロディ
※下手
※少し長め
「旦那様、お風呂をいただいてもよろしいでしょ うか?」
「……ああ、構わない。でも、あまり長湯はするなよ?」
「分かりました」
凛が冴の城に嫁として迎え入れられてから、すでに数ヶ月が経過していた。
いまだに“決まり”と呼ばれる束縛は続いており、凛の生活は自由のないまま、冴の支配の下に置かれていた。
それでも、凛は一度もその決まりを破ることなく、今日まで律儀に従っていた。
そんな凛にとって、唯一の「ひとりの時間」と呼べるのは、就寝の時間と、この風呂の時間だけだった。
もっとも、その風呂でさえ「三十分以内に出ること」と、しっかりと制限が設けられている。
気づけば、凛がゆっくりとひとりになれる時間は、寝る前のほんのひとときしか残されていなかった。
「……あと、十五分くらいか」
湯に浸かりながら、凛はぽつりと呟いた。
時間の残りを数えながら、冴の言いつけを破らぬよう、きちんと守っている。
ふと、自分の手足に目をやった。
「……傷、増えたな」
服で隠れていたため気づかなかったが、肌にはいくつもの小さな傷が刻まれていた。
それは、冴による執着の証ともいえる痕、首輪を引かれた時、腕を強く掴まれた時、逃がさぬよう抱き寄せられた時の爪痕。
「これは……あの時ので、こっちは昨日か……」
凛は、それぞれの傷がついた場面を静かに思い出していく。
けれど痛みを訴えることはなく、むしろどこか、嬉しそうな表情さえ浮かべていた。
これは、旦那様なりの愛情表現なんだ。
そう自分に言い聞かせるように呟きながら、凛は自分の傷を見つめていた。
「……あ、あと十分だ」
気がつけば、浴室に滞在できる時間は10分を切っていた。
凛はそっと湯船から立ち上がり、風呂場を後にした。
「今日は月が綺麗だな⋯⋯」
部屋へ戻るまでの渡り廊下を歩きながら凛はぽつりと呟いた。
廊下は城の庭へと続いており、その様子が一目でわかるよう、壁一面がガラス張りになっている。
そのため、夜には月や風に揺れる草花、月明かりに照らされた庭の景色までも、はっきりと見渡すことができた。
「今日は満月なんだ」
あまりの月の美しさに凛は庭の方へと吸い寄せられるかのように近づいていった。
「あれ、あの花⋯⋯」
庭の方へと近づくと満月よりも一輪の白い花が凛の目に止まった。
「なんの花だっけ⋯⋯」
どこか見覚えのある星のような形をした白い花。
凛はもっと近くで見たいと思い窓を開け庭へと歩いていった。
(なんでだろう、あの花見覚えがある。誰かに昔貰ったような⋯⋯)
朧気な記憶を呼び起こしながら花の近くへと近づこうとしたその時だった―――
「凛!」
突然名前を大声で呼ばれ、凛は肩をびくりと震わせて振り返った。
「旦那様―――」
パチンっ!
そう言いかけた瞬間、凛の頬を打つ音が、冷えた空気の中に鋭く鳴り響いた。
「いっ⋯⋯!?」
「どこへ行くつもりだ⋯⋯!」
冴はいきなり大きな声で凛を怒鳴りつけた。
「旦那様、違うんです!花を―――」
「やけに風呂が長いと思って来てみれば勝手に庭にでて、どういうつもりだ⋯⋯!」
言葉を遮るように、冴はまたしても怒鳴りつけるように言い放った。
「ご、ごめんなさ⋯⋯」
これまで一度も見たことのない冴の恐ろしい表情に、凛は思わず震え、涙をこぼした。
「っ⋯⋯、凛⋯⋯」
そして、その涙に気が付き冴はすぐ我に返った。
「すまない凛。叱るつもりなんかなくて―――」
「ごめんなさい、ごめんなさい⋯⋯」
凛は泣きながら冴に何度も謝った。
その涙はただ冴が恐ろしかったから流した訳じゃない。決まりを守らなかったことで「冴に嫌われるんじゃないか」そんな思考が頭をよぎり、それが嫌でたまらなかったから流した涙だった。
「凛、謝るな。俺が、俺が悪いんだ。お前がまたどこかに行ってしまう気がして怖くてたまらなくてそれで―――」
冴は凛を思い切り抱きしめ、叩いてしまった頬を撫でた。
「ぶったりして悪かった。ごめんな凛⋯⋯。」
頬を撫でながら冴は何度も凛に謝った。
「大丈夫です、俺が勝手に庭に出たのが悪いんです。俺が決まりを守らなかったから旦那様を不安にさせた⋯⋯」
「いいんだ。お前は何も悪くない。だけどもう、勝手に何処かに行くようなことはしないでくれ⋯⋯」
冴は今にも泣き出しそうなくらい悲しげな表現で凛を見つめた。
なぜ冴がそんなにも悲しそうな顔をしているのか、凛には分からなかった。それでも今は深く考えるのをやめ、ただ静かに、悲しげな冴を慰めるようにそっと抱きしめた。
そしてあの日からというもの、冴はますます凛を自分の傍に置くようになった。
朝の食事も、身支度も、外の空気を少し吸うだけでも、冴の許可なしには動けない。凛が少し扉に手をかけただけでも、冴はすぐさまどこへ行くのか確認をとる。
冴がそこまで凛を縛るのは、支配欲ゆえなのか、それとも独占欲なのか。あるいは――それ以外の何かがあるのか。
その理由を知る者は、冴本人以外、誰一人としていなかった。
そうして息の詰まるような日々が続いていたある夜のこと―――
「凛、風呂が終わったらそのまま俺の部屋に来てくれないか?」
珍しく凛は冴に呼ばれた。
「旦那様の部屋に⋯⋯?」
「ああ、」
いつもなら自分の後に風呂へ入るはずの冴が、今夜は先に済ませていた。小さな違和感を覚えながらも、凛は「わかりました」とだけ答えた。
いつもより早めに風呂を出た凛は言われた通り、冴の部屋へと足を運んだ。
―――コンコン
「旦那様、俺です。」
「ああ、入れ」
ドア越しに返事する冴の言葉の後に、凛はゆっくりと扉を開け部屋へと入っていった。
「凛、ここに座れ」
そう言って冴は自分のいるベットの隣りをトントンと優しく叩いた。
「失礼します⋯⋯」
言われたとおりに冴の横へと腰を下ろす。
「旦那様、ご要件は―――」
言いかけた時だった、言葉を遮るように冴は突然凛に口付けをした。
「⋯⋯!」
いきなりの行動に凛は思わず密着した唇をすぐに離した。
「嫌だったか⋯⋯?」
「いや、ではないですけど⋯⋯その、少しびっくりしてしまって⋯⋯」
凛は赤くなった顔を隠すかのように俯きながら答える。
「いや、いきなり悪かった⋯⋯」
申し訳無さそうに冴は謝った。
「⋯⋯不安になるんだ。お前がまた居なくなってしまうんじゃないかって」
あの時と同じような悲しげでどこか不安を交えた表情で冴は凛を見つめながら呟いた。
その瞳は、以前のような支配欲を湛えたものではなく、どこか寂しさを滲ませた切ない眼差しだった。
「大丈夫です旦那様、俺はずっとあなたの傍に居ます。離れることも居なくなることもありません。何があっても絶対に。」
凛は「大丈夫」と微笑むように冴の手を取り、そっと声をかけた。
「凛⋯⋯」
凛の手の温もりとやわらかな笑みに、冴の張りつめていた不安は少しずつほどけていく。
安心したように互いの目を見つめ合い、ふたりは再びそっと唇を重ねた。
それは支配のためではなく、ただ相手を包み込むような、静かなぬくもりに満ちた抱擁だった。
冴は凛の体を優しく引き寄せ、そっと横たえる。
「凛、優しくする。だからその⋯⋯いいか⋯⋯?」
バクバクと高鳴る心臓。
顔が熱くなるのを自覚しながら、凛は冴に悟られないように小さく頷いた。
羞恥と不安、そしてどこかくすぐったい喜びが入り混じる中で、凛はそっと「はい」と答えた。
凛の返事に冴は優しく微笑み、凛の服のボタンに手をかけたその時だった―――
突如、凛の頭に過去の記憶が蘇る。
「あ⋯⋯い、嫌⋯⋯」
震え声が、小さく凛の口からこぼれた。
「凛⋯⋯?」
心配するように、そっと頬に触れようと手を伸ばした、その時――
パチンっ!
冴の手を思わず振り払い、凛は寝台から飛び降りた。
「凛⋯⋯!?」
さっきまでとは明らかに様子がおかしい凛に、 冴が立ち上がろうとするが、それを拒むように凛は後ずさる。
「ご、ごめんなさい⋯⋯やっぱり俺⋯⋯無理、です⋯⋯こういうの初めてじゃない⋯⋯からっ⋯⋯」
唇を噛み、背を向ける凛。
その声は震えていたが、確かな痛みが滲んでいた。
「昔、そういうこと、されたことがあって⋯⋯だから旦那様が優しくしてくれても、どうしても怖くて⋯⋯」
部屋に流れ込んだ沈黙の中、凛の肩だけが細かく震えている。
「旦那様なら⋯⋯大丈夫って、思ったんですけど俺⋯⋯」
冴はその場から動かなかった。
ただ、凛の苦しげな顔を見つめて、口を噤む。
「ごめんなさい⋯⋯俺、今日はもう、戻ります⋯⋯」
凛は背を向けて、静かに扉を開けた。
扉の向こうの冷たい廊下に身を投じるように、部屋を出ていく。
冴は追いかけることはせずただ凛の見せたあの表情だけが頭に残り、その場で唖然としていた。
3話目終了!
かなり急展開になってしまいすみません!
読みにくいとは思いますが次の4話も読んでくれると嬉しいです💭🫣
よかったら今回もコメントしてくれるとすごく喜びます
コメント
4件
最高です! 今回は、共依存が結構あって嬉しかったです!冴と凛の今後に期待です!
死ぬかと思いました……†┏┛墓┗┓†
3話目も最高でした!! まじでかんてんさん小説書くの上手すぎませんか、? 場面が絵で浮かび上がってきてめっちゃ読みやすいです!!! 冴さんが凛ちゃんを束縛したり、暴力を振るったりしてて、でもそこには凛ちゃんに側に居て欲しい思いとか愛があるのが伝わってきた所とか、凛ちゃんがトラウマで冴さんを拒絶しちゃう所が凄い好きだし尊すぎる…😇🫶🏻 続き絶対見ます!楽しみに待ってます!! 毎回長いし伝わりにくくてすみません、😔