テラーノベル
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その日を境に、少年の日常は静かに、けれど決定的に変わってしまった。
朝、登校して教室のドアを開けるとき、休み時間、何気なく流れる時間を過ごしているとき。少年の視線は、自然と窓際の一番後ろの席へと向かうようになった。
逢城は相変わらずだった。黒い髪を少し揺らしながら、誰とも交わることなく、ただ一人で本を読んでいる。
けれど時折、本当にたまにだけ。彼女が本から目を上げ、少年と視線が合うときがあった。そんなとき、彼女は誰にも気づかないくらい小さく、くしゃりと目を細めて微笑む。その微笑みを受け取るたび、
胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。
「路灯くん、今日から図書委員、一緒に頑張ろうね」
昼休み、校舎の中央にある図書室で図書委員の仕事をしていると、彼女がやって来た。 大きな窓からは、青く澄み渡った秋の空が見えていた。
「うん。…体調、あれからどう?」
逢城は本棚の背表紙を指先でなぞりながら、ふっと柔らかい息を吐いた。
「うん、あの日のお薬が効いてくれたから、今は落ち着いているよ。心配してくれてありがとう」
「無理だけはしないで。何かあったらすぐいってね」
「ふふ、路灯くんは本当に優しいね。でも ね。私、自分の体とはもう十三年付き合 っているから。限界くらいわかってるの」
その言葉には、静かな締めのようなものが含まれていた。彼女は棚から一冊の古い短編集を抜き取ると、丁寧にページをめくり、ある一行を指でなぞった。
「『明日もまた、同じ日が来るのだろう か』…って。私ね、毎晩寝る前に、いつもこの言葉を思い出すの。明日という日が来るのが当たり前じゃないって思うとね、 今日出会った言葉や、今日見かけた空の色が、 すごく愛おしく思えるの …。変かな?」
「変じゃないよ」
少年は即座に答えていた。
「変なんかじゃない。逢城は、すごくいろんなものを大切にしているんだと思う」
少年の言葉を聞いた逢城は、嬉しそうに頬を赤らめて微笑んだ。
コメント
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ページ2、読み終えました。図書室の空気感がとても美しくて、思わず息を潜めて読んでしまいました。逢城さんの「明日が来るのが当たり前じゃない」という感覚、彼女の体調と重なって、その言葉の一つひとつに重みがあるなと感じました。それに対して少年が「変じゃないよ」と即座に返したのが、彼の誠実さをよく表していて、この二人の距離感が少しずつ縮まっていく描写がとても好きです。