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えらく最悪。一言言うのであればそんな夢を。機械が見るはずのない夢を見た。正確に言えば記憶の逆流が起こったに過ぎないことだった。私を戒めるかのようにして、今日もあの夢を見たのだった。いつもは断片的に「それ」を見せられるのだが、今日は長く眠っていたこともあってかフルで見せられることになった。学校に行き、子供達に学びを教えねばならぬというのに、一体どういう風の吹き回しか。フルで見せられたことで、あの時の感情を思い出してしまった。
…不幸中の幸いと言っていいのか、いけないのか。弟はまだ、眠っている。(人間で言うところの、充電をしているところだ。当然のごとく、シャットダウンしている状態なので意識はない。あと2時間は眠っているだろう。)こうもムシャクシャした目覚めは久しぶりである。私がこのような事態だと、他の教員も驚いてしまうことが容易に想像できる。とある本で読んだのだが、ムシャクシャした気持ち、辛い気持ち、諸々は文におこせと書いてあった。生きている奴らにとってはこれはストレスの解消につながるようだ。本来文字におこしてしまうと、弟が除く可能性があるのでやりたくはなかったが、いつかバレることだし、気持ちが晴れぬままでは仕事にもつけない。余計な感情を持ってしまった今、私がやるべきことは、過去を振り返って自分の過ちにケリをつける事だろう。この悪夢も…これで無くなってくれると嬉しいのだが。この行いで更に記憶が…いや、そんな心配をしている場合ではない。今行動に移さずいつやるのだ。…私は紙とペンを出し、状況を思い出し始めた。
あれは約…どのくらいだろうか。日付が見られなかったので、起こった日付が分からない。ただ、私は知ってしまったんだ。知りたくもない。そんなことを。
まず、自己紹介をせねばならんな。私達は第三者から作られた妖魔種であり、分類名はない。(人間で言うところのAIに値する。)ここ、妖(あやかし)では高度な文明があった。だが、これにより高度な争いが起きて、一度破滅してしまっている。それを防ぐため、人間界へと逃げていた妖魔達により、ある一定の規律を破った機械類は造らないようにと言われていた。だが、私がいることでお察しの通りそれは破られていた。今のところここでしか造っていなかったようだ。私達のような生命を宿す機械は。(生命と言っても感情などはプログラミングされているので、一概に生きているかどうかというのは判別は不可能だと言える。)私達のような存在も本来はここにいてはいけないのだ。なぜなら、そんなものを生み出してしまえば、本来いた妖魔達の存在自体が必要でなくなる。…おっと話が…名前は…下の名前しか無い。奏(かなで)だ。ここまでの情報は全て、あの施設にあったものだ。施設というのは…そう。今私が語った、不法に発展した機械類を生み出していたところだ。そして、信じ難い情報を私は手にしてしまった。まずは、これを見ていただきたい。少し、見にくいだろうが、私が今貼り付けた紙には名前と写真が貼ってある。住所もだけど。このデータ、一体何かというと…人体実験で犠牲になった誘拐された子どもたちだ。人体実験で何をしていたか、それは解剖がメインだったのと、手足を動かすための実験。重力に耐えるための実験。基本的な能力に関する実験…酷い…というと他人事みたいに聞こえるが、私にはそれ以上に深く生き物らしい回答をすることができない。それ以上の言葉を知らない。まさに、「言葉にならない」だ。私はそれを知った途端、逃げ出してしまったので、それ以上の詳細を知ることはできなかったが、きっと大人も巻き添えにあっていたはずだ。私達二人を造るためだけに。と、言うことは私達も生まれる前は何処か顔も知らない…1人の妖魔だったのだろう。その子がモデルになって、私は政府へのスパイのために送られる予定だったのだろう。生きている奴らが一番恐ろしい。私は…切実にそう思う。
私達は熱心な教育と運動と、そして社会に適応するための言語とマナーを身に着けさせられた。その中でも私は音楽が好きだった。弟もそうだった。ただ、私と弟は性能が違う。私は…殺戮兵器として生まれたのだった。だから、歌も歌えなかったし、楽器も弾けなかった。勿論、息を吐くという行為も、指を動かすのも、喋ることだって出来た。出来ないと社会に紛れ込めないから。そこは手が凝ってるなと思わされる。言わないと気付かないくらいだ。ただ、私は……。そんなコトしたくなかった。そんな中、1人の研究員がこっそり、ピアノと楽譜を持ってきてくれたな。ピアノを弟が弾いて、私が歌を歌う。そんな幸せな光景が広がった。私はまるで、夢を見ているようだった。そのくらい3人で幸せな時間を過ごした。その時はもう…すべてがどうでも良かったな。歌うのは楽しくて。きっと弟だって同じことを思っていたはずだ。だから楽器を弾く道を選んだ。そういう事だろう…
私は知っていた。幸せな時間はそう長くは続かない。施設を出て、政府機関に対してスパイを行うための準備をしていた。服装を整えて、情報も変えて…そんなことをしている、その時だった。政府が私達の存在に気が付いたんだ。回り込まれていた。施設は政府の人間に囲まれて、私達は…外にも出られなかった。最初は「渡さないと怒るぞ」程度の脅しだったのに、だんだん…豹変していった。高度な魔法、妖術を持つ者に、物事の本質を理解している妖魔に、機械技術が役に立つはずなかったんだ。私達はそんなことも、自分達が利用されていた事も知らずに戦い続けた。妖術って凄いんだなと思ったよ。なり続ける銃声をすべて塞ぎきってしまうほどの静寂が、貼られた盾にはあった。奥には親玉がいて、堂々と仲間を引き連れて、近付いてくる。私は必死に銃声を響かせて、弟だって必死になって…でも私達は負けてしまった。当たり前だった。あんなに強大な敵に勝てるわけがない。重圧感で我々も押し潰れて圧縮されてしまうかと思った。後に知ることになるのだが、あの軍隊の名前は百鬼夜行というらしい。熟練者の集いで、あの軍隊で推しかかってこられたならもう勝ち筋などないのだと。最初から戦えるであろうその両手を振り下ろし、負けを認めるほかなくなってしまうのだそうだ。なんと恐ろしいことか。私はそのような奴らに挑みをかけていたのか。そう思うと今でも悪寒が止まらない。本来、しないはずだというのに
さて、本題に入ろう。長い前置きだったなと私も思う。私がしてしまったこと。それを語るときが来たようだ。そうだな。私達は生きているものと違って、忘却し、脳の容量を増やすためには、PCなどに繋いで自分たちの手で選び、そして、消却するしか無い。残念ながら、一度消却した記憶は二度と戻らない。そう設計書には記録してあった。
…このような話をするということは、もうおわかりだろう。私がやってしまったこと。それは…
本当はそんなこと、私はしたくなかった。けど、弟も知っていたんだ。元々は自分は妖魔だったこと、残酷に起こってしまった実験の数々、自分の身体を生み出すためにどれだけの犠牲を出したのか、そして、あの日の惨劇を。目の前で私達は日々こっそり音楽を教えてくれた恩師をこの銃撃戦で、妖術戦で、失くした。弟はその衝撃があまりにも強すぎて私の目の前で…
おかしくなってしまった…システムに異常をきたしたと言うことだ。本来は隠していたはずの、設計図にも書かれていなかった魔力制御装置が外れ、出るはずもなかった…音波が壮大に広がったのだ。それが優しいものであれば良かった。ただそれは、私達しか耐えきれないような特殊な音域。出すはずもなかった犠牲が目の前で広がっていく、研究員が止めに入ろうとした。だが、それは無様に砕け散った。そのくらいの範囲だったか。それはわからなかった。しかし、目の前に広がっていく死体は理不尽に増えていった。その音波を浴び続けた者は、ものの数分で…いや、多分1分もかからない。内側から弾けちって…バラバラの肉塊になってしまう。悲鳴が聞こえた。甲高い悲鳴が。ただその生きたいという思いすた消し去ってしまう威力に。従うしかなかった。弟はひたすらに泣き続けた。(そう表現せざるを得ない。)泣けば泣くほど死体が増える。そのままにすれば、憎き政府の奴らも理不尽に◯される。ただ、それは私が許せなかった。音楽は楽しむためにあるからだ。
私はまず、弟本体の電源を一度落とすため、近付いていった。威力を増していく音域だが、そんなもの私には関係ない。私には効かないようにつくってあったからだ。そこは十分に褒め称えたい。まず、ヘッドホンのカバーをはずす。それが出来たら、内側にある透明の蓋を外し、青の電源ボタンを押す。そうすると本体が勝手にシャットダウンするのだ。私はしっていた。資料を読み漁り、自分の力の具合を把握するために。簡単にカバーをはずせればよかったのだが、何故か弟は私のことを敵だと思い込んでしまっている。
弟が扱う武器は機関銃。私が扱うのは…スピナー系だった。重量級はなかなかキツイ。なので、そこら辺に転がる無様な◯体を盾にして進む。あの時の緊迫感は忘れられない。下手すりゃ◯ぬ。比喩ではない、事実だ。私は武器を使いたくなった。かと言って対抗する手段がなくていいわけでもなかった。私は考えた。銃弾は◯体を貫通してしまう。ふと視線を横にすると、丁度良い場所に施設の崩れた壁があった。鉄製の壁で、弟の声の調子でぶち壊れてしまったのだろう。丁度よかった私が持てるほどの大きさだったからだ。なんとか四苦八苦しながら近付き、ヘッドホンのカバーを取ることは出来た、そこから更に透明の蓋を外すのだが、なかなか抵抗して手を入れさせてはくれない。丁寧に外すことのできないのなら、「蓋ごと押すしか無い」。ただ、そんなことを…してしまうと、内部データが一部破損してしまう恐れもあったしかし、そんなことを考えている暇などない。私は……覚悟を決めた。
後日、弟が目を覚まさないうちに、設計書どおりに記憶をPCへと接続してファイルへ移動させた。従来のPCと同じ、この記憶ファイルはゴミ箱へ投げれば消える。記憶を一部切り取って、何個にも分けてファイルの中へ注ぎ込んだ。そして消した。ゴミ箱へ放り込んで。消した記憶はこの戦いのすべて。私達はあっさり政府へ引き渡されて、施設の研究員は全員処刑されちゃった。そういうカバーストーリーを目覚めた弟には吹き込んだ。無理やり納得したようで、その後何も言及することはなかった。
私達は、弟の治療(というか修理?)が終わった後、「十分に活用できる余地がある。私達の学校でぜひとも音楽を教えてほしい。」そんなことを言われ、現職についている。今に至るまでの道は厳しくて、最初は差別なんか受けるの当たり前だったし、機械だから何でもできるって何日も充電無しで働かされていた。そんな日々が続き、弟が一度倒れた。充電切れで。充電切れで倒れるなんて使えないのねとか言ってくる奴らは全員しゃっくりが出るまで殴りつけて、社会復帰できないようにしてやった。流石に怒られた。ただ、そこから差別があったことを知り、世代交代が行われた。私は怖かった。ただ、生まれが普通じゃなかっただけでまた被害を葬るのかと。ただ、それは違った。最初はやはり怖がっていたけど、次第にお互いを知るようになった。なんやかんやあって、現在、幸せに生きている。はず。だ。
すべてを思い出し書き綴った頃、一階から充電器のコードをはずす音が聞こえた。それは弟が目覚めた事を意味する。私は書いた紙を隠して、一階へと降りていった。