空を舞い、風に乗って戦った男がいた。
その魂は、静寂の氷に沈み、今、地上へと堕ちてゆく。
誰にも見られず、誰にも気づかれず、
ただ、終わるだけ――
……そう思っていた。
霧が深く立ち込める森の中、空から雷のような閃光が落ち、激しい衝撃音。
その地点に、ひとり駆けつける影がある。
泥だらけのスニーカー、ボロボロの学ラン。肩で息をしながら、煙の中に突っ込む。
埼玉:「……何だ今の光!? 落雷じゃねぇ……!!」
木々をかき分けて進むと、そこには――大の字に倒れた沖縄の姿。
衣装は破れ、三線は砕け、その顔は血と灰で汚れている。
埼玉:「……お、おい……ッ生きてんのか……!? 聞こえるか!!」
沖縄の手が、わずかに動く。だが声は出ない。埼玉は迷いなく、沖縄を背負う。
埼玉 :「なんだよ……この状態で空から落ちてきたってのかよ……マジで、バケモンかよお前……――でも……」
歩きながら、ふっと笑う。
埼玉 : 「……バカなやつほど、放っとけねぇんだよ……」
霧の中、沖縄の意識が薄れては戻る。
夢うつつの中で、埼玉の背中の温度を感じてつぶやく。
沖縄 : 「……おれは……負けたんか……?風が……止まった……さぁ……」
埼玉は振り返らない。
埼玉:「風が止まった? アホ言え……ちゃんとオレの背中に届いてるわ。風は止まってねぇ。今はちょっと、迷子なだけだ。」
埼玉は、かつて千葉と使っていた旧拠点へ沖縄を運び込む。ボロ屋。電気も水道もない。
だが、火を焚き、包帯を巻き、埼玉は一人で手当てをする。
埼玉 : 「お前がどこで戦ってきたかなんざ、知らねぇ。けど――拾うしかねぇだろ。俺は、お前が一番カッケぇと思ってんだ。」
三線の破片が横に置かれる。
沖縄の目尻に、ひとすじ涙が流れる。
沖縄:「……なんくる……ないさ……」