「···今、なんて言った?」
身体を起こしてソファに触り直しながら元貴は俺を見つめる。先ほどの眠そうな表情はすっかり消えている。
「ごめん!嫌な言い方した、怒んないで、本当はそんな風に思ってないから、ごめん、嫌いにならないで」
せっかくいい雰囲気だったじゃないか。元貴はくつろいでて泊まっていくって言ってくれたのにいらない一言で台無しにしてしまった。
「ごめん、ごめんなさい···」
泣いちゃダメなのに涙が込み上げて目の前の元貴が滲む。やっぱり涼ちゃん俺、上手く伝えられないよ。泣き顔を見られないように両手で顔を隠した。
その時、ぎゅっと優しく俺は届きに抱き締められていた。
なんで?怒ってるんじゃない?
「本当に思ってないの?寂しいって」
その声は静かでいつもより低いけれど怒りではなく悲しさを含んでいて、俺は状況が飲み込めず、なんて答えたらいいかもわからず静かに元貴に抱かれていた。
「若井の本当の気持ち聞かせてよ。今までそんなこと言わなかったでしょ」
怒ってない?本当の気持ちを言っても嫌われない?恐る恐る手を顔から離すと、そこには優しく微笑んで俺を見ている元貴がいた。
「本当は···寂しかった」
「うん」
「他の人と距離が近いのとかも嫌だったし」
「へぇ」
「···会えない時は電話とかして声聞きたかったし」
「ふはっ」
なぜか元貴はくふふっと笑っている。こちらは真剣そのものなのにどこにウケる要素があったのか教えて欲しい、もちろん嫌味だけど。
「俺ばっかり元貴を好き過ぎるのが寂しい、元貴が余裕そうなのも嫌だ、俺はこんなに好きなのに」
あぁ、なんて重たい鬱陶しいことを言っているかわかっていて嫌になる。仕事とわかっているのに他の人と仲良くするな、電話してほしい、あげく自分ばっかり好きだとか。
「なぁに、若井って俺のこと大好きじゃん」
「···もう、いい」
だから最初からそう言ってるじゃないいか。好きで好きでこんなにも心が苦しいのに、からかう様に言われてもやもやした俺は元貴から離れようとする。
「待って、行かないで!笑ってごめん···あんまり若井が可愛いこというから」
「どこが」
「全部可愛い。若井って束縛したり嫉妬したりしないのかと思ってた。いつも俺がすること受け入れてくれるし···」
「それは···」
「ごめんね、気づいてなくって。もっとそういう事言ってよ···その方が俺も嬉しいっていうか···好かれてるって実感する」
「元貴はあんまりそういうの好きじゃないと思ってたから···」
「んーまぁ、あんまり激しいのはさ、困るけど···。けど若井に言われたら嫌じゃない。寧ろ可愛くてやばい」
「なに、それ···」
「あー、つまり俺も若井のこと大好きだし、会えない時は声聞きたくなるし、いつも抱きしめたいとか思ってるってこと!」
こんな風に言葉するの恥ずかしいから!って次は元貴が手で顔を隠す仕草をしている。元貴がそんな風に思ってくれてるなんて想像もしてなくて俺は心臓がきゅっとなる。
「本当に?俺のこと好き?」
「好きに決まってるでしょ」
「大好き?」
「あーもうっ、大好き!俺には若井しかいないって」
ぐっと胸元を掴まれて久しぶりに元貴の唇が触れるのを感じる。
そのまま何度か、ちゅっと口づけて最後は濡れた唇をペロリ、と舐められた。
「うれしいよぉ···」
また涙が出そうになる。やっぱり俺のほうが元貴に惚れているのは間違いない。だってこんなにも元貴の言葉に一喜一憂してしまうんだから。
「たまには我儘言って、ね」
そう言って元貴は、俺の頭を撫でるとお風呂借りるね、と立ち上がった。
俺は寝室に行って布団を整えるとそのままベッドに寝転がる。最近元貴のことで睡眠不足気味だったせいか、安心したせいか、ウトウトしてしまい、気づけば眠ってしまっていた。