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ローレン・イロアス
叶 ) 今回は登場しません。
葛葉 ) 今回は登場しません。
アクシア ) 登場あり 。
※ ご本人様には関係ありません。
俺は 、 理想を語る 。
受付で巻き髪でいい匂いがする綺麗なお姉さんが、こちらへどうぞ。と先導し待機所まで送ってくれるシステムだそう。普通ならパンフレットに書いていたりするので自分で部屋まで行くのが当たり前だが、ここは変わっている。
珍しいな、と少し不思議に思ったがもしかしたらライバーさんとかも彷徨いているかも知れないと考えると納得がいく。
だが、それにしても静かだ。そこら中に扉があるの道中スタッフを誰一人見掛けない。
静かだ…。と、つい声を漏らすと、そうですね。と会話のキャッチボールにもならないような素っ気ない返事を返された。その静けさと謎の緊張感。コツコツ、とハイヒールの音がリズム良く廊下に響き渡る。
待機所と書かれた紙が貼られた、少し古そうな扉の前で足を止める。ビルや廊下は真新しいのにここだけ趣があるようだ。
すると案内の女性は此方の方へと、くるりと、振り返り一度礼をしてから、
『 こちらの部屋で番号が呼ばれるまでお待ち下さい。 』
とだけをいい放ち、今きたばかりの道をそそくさと足早に戻っていく。そんな背中を見つめたあと、キィッっと、扉が音を立てる。しきんだ鉄のような重い扉だ。
防音だろうか、扉は分厚く、待機室の壁は音楽室のような木の板のようなものに、6✕6の穴が空いている板が、無数に張り巡らされている。そんな所まで細かくお金を掛けるとか、どんだけ儲かっているんだ。と少し腹立たしく思える。そして、
「 失礼しま ~~ す 」
と 、緊張のせいか、弱々しい震えた声で挨拶をする。その空間は、空気が冷たく、重くてドンヨリしていた。ガヤガヤと騒がしい待機所を想像してた俺は、部屋のドンヨリとした雰囲気に耐えられなかった。そして、ひよった俺は寸時に、すみませんと、数回頭を下げ、誰に向けしているのか分からない謝罪を繰り返す。
俺のそんな姿を見て、明らかに年下であろう別の応募者がクスクスと肩を震わす。
ンだてめぇ、とキレそうになったが、この場で自分がキレるとは違うと、胸に手を当てて、撫で下ろし直ぐに営業スマイルへと表情を変える。
すると、突然背中を叩かれ、「やっほー」と声をかけられた。
振り返ると、エデンの時の元相棒のアクシア・クローネが小さく手を振りながら立っていた。
アクシアとは、亡くなった相棒よりもっと前にペアを組んでいた幼馴染みのような存在だった。そんなアクシアとは任務で喧嘩をしてペアを解消したきり一度も言葉を交わしてはいない。正直どう対応していいか分からないままだ。何か話題を探す。
「 アクシア、何でこんなところに? 」
「 ローレンこそ、どうして 」
「 いや、お前エデンはどうしたんだよ 」
「 あれね、やめてきたよ。ローレンが辞めた後直ぐにね 」
「 俺が辞めてから…直ぐに? 」
あの喧嘩の事を引きずっているのは自分だけだろう。アクシアの言葉や表情からはそんな濁った感情が感じられない。それに加えて、久々の再会だからか、アクシアは以前と変わらない笑みを浮かべる。想像以上に会話が弾む。騒がしくしすぎたのか、他の応募者が此方の方をギロリと睨み付ける。この雰囲気はヤバい、とアクシアに静かにするように促す。
「 アクシア、アクシア 」
「 なに?ローレン 」
「 俺らうるさいかも、めっちゃ睨まれてる 」
「 ん~~ 、そうだね。 」
アクシアは物分かりがいい。俺の我が儘だっていつも聞いてくれていたし、何かあったらすぐ助けてくれる。だが、そんなアクシアとも任務で初めて喧嘩をした。
ペア解消の時も俺が原因で全てが始まった。それを分かっているからか、部屋が無音になると鼓動が止まらない。
呼ばれるまでこの部屋緊張感でいっぱいの部屋で待機をしていなければならない。早く時間進んでくれと、出来もしない事を祈る。
アクシアと話をしてから1時間が経とうとしていた。
突然コンコンと、扉をノックされた。すると先ほどのお姉さんが、
『 1から5番までの方こちらへご案内します 』
と、アクシアと俺を含む5人が面接室へと移動する。
お姉さんが面接室の扉を三回ほどノックしてから、扉を開くとそこには
眉間に皺を寄せた険しい顔をしている30代ほどの男性と、社長であろうビシッとした身なりの男性が真ん中に、そして女性。と、合計3人の面接官、その面接官の前に、五席の椅子が横一列に並ぶ。
順番は面接番号の順番で1から5で並ぶ。
そのなかで俺は面接番号が5番であるため一番右端っこに腰を落とす。そう、つまり俺は一番最後に面接を受ける事になる。
そして、座ってまもなく、面接室の部屋の扉が締まり、面接官の始まりの掛け声と同時に面接がはじまった 。
『 ( えぐい、緊張するぅぅ…。 ) 』
『 ( トイレ行きたいんだけど ) 』
1列に並んで順番に面接をするのは分かっていたが順番が近付いてくると思うと鼓動が早まってくるのが分かる。ひとりひとりの面接の時間は短く、とても淡泊に終わる、チュートリアルのような質問と、面接官からの個人的な質問。
それに、アクシアは、ツラツラと面接官の質疑応答に臨機応変に答えている。
そんなアクシアの横顔は、凄く自信に溢れて居るようで、、綺麗だ、今まで真っ暗闇に閉じ込められていて気付きもしなかった。
いや気付こうとしなかっただけかも知れないな、とあの頃の自分を憎く思える。あの頃の俺はアンドロイド同然だったし、感情なんて持ち合わせていなかったにも等しい。そんな時アクシアと出会った。
そんなアクシアを横目に、比べて俺は、、、。と自分とアクシアを無意識に比較する。
アクシアからみた俺は、どんなんだろう。今の俺はニートという現実に加えて独り身だ。輝く物なんて何も得ていないし、身に付けてもいない。そんな思考のせいで、また、気が沈んでいく。
面接官のこんな質問が耳に刺さる。
『 なぜ、弊社のライバーになりたいと思いましたか? 』
するとアクシアは少し考えた後すぐに、微笑んでから、こう答える。
『 ただ、なりたいなって思いました。 』
と、キラキラとした眼差しで答えて、面接官を見つめる。そんな面接官はアクシアを見つめ返し、うんうんと相槌をする。
俺の番が回ってきた。
今俺はどんな顔をしているだろう。不安な顔だろうか。それとも自信に溢れているのだろうか。
「 名前は? 」
緊張で他の奴の質問が聞こえていたなったが、面接はこんな初歩的なところから始まるのか。と今まで常識を非常識だと教えられてきたエデンとは全く違う事に驚きを隠せない。そんな事を考えながら口を開く、
「 ローレン・イロアスです。 」
「 ローレンさんですね 」
面接官の質問に答える度に、相槌とオウム返しを繰り返して、面接官は俺の面接用紙に青ペンでサラサラとメモを書く。何を、書かれているのか気になって仕方がない。
「 では、次に何故弊社を選んだのですか? 」
「 えっと…、やる事がなかったんです 」
「 やる事がなかった? 」
『やることがなかった』と答えた瞬間、アクシアも他の応募者も一斉に俺の方へと顔を並べる。
そんなにみなくても…。とも思ったがよくよく考えると、何を言っているんだろう。俺は。答えた自分でも意味が分からなかった。
もし、それが本音だったとして、今言いたいことはそんな事ではない筈なのに、せっかく練習した言葉も雰囲気も全て白紙に。水の泡になってしまう。と目を泳がせ、肩をすくめる。そんな空気を汲み取ったのか、面接官が空かさず質問を返す。
「 なぜ? 」
「 俺は、以前は警備部隊として活動していました。でも任務で相棒を失ってその喪失感で警備部隊を引退しました。」
見知らぬ相手に話すことではないだろう。でもこの前の居酒屋同様知らない人だからこそ話せるのかも知れない。もし、受け入れてもらえなくてもそれでいい。一度ため息をついてから、呼吸を整え俺は、理想を語る。
END )
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