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「サーシャ―、お風呂行こー」
「アリア……。うん、行こうか、ただ……」
「私も一緒に入らせてもらうねー」
「へ?」
なぜかユリ姉さんも一緒に入るとか言い出した。相変わらず意味不明で唐突過ぎる。サーシャもなぜかへこんでるし、ホントに意味不明で訳が分からない。
……そもそも、よそ様のお風呂に気軽に入るのはどうなの? お風呂狭すぎない? というか、3人も入れるの?
今までのお泊り会でも3人が限度だったのに、子供二人、大人一人になったらかなり窮屈だと思う。大丈夫?
「えっと、なんで急に……」
「3人の友情を深めようと思ってね。ほら、行くよ」
「え、あ……」
ユリ姉さんにぐいぐい押されて脱衣所までやってきた。
リビングにいたお母さんもビックリしてたから、お風呂は急に決めたんだと思う。
通るときにユリ姉さんとお母さんがちょっと話してたみたいだけど、そのままスルーされた。スルーされたってことはお母さんもOKしたんだろうけど……ホントにいいの?
サーシャに目線を送ってもうなずくだけだし、なんだか不気味に感じる。
「ほらほら、私に気を遣わないで、遠慮しないで」
……それ、お客さんのセリフじゃない。
納得できないけど納得しよう。ユリ姉さんはこういう人だから。
「サーシャ、お願い」
「う、うん……」
いつもならぱぱっと脱がしてくれるサーシャの動きが悪い気がする。
……疲れてるのかな? だったら、わたしから脱がしてあげよう。
「わたしが先に脱がしてあげるね。いつも先に脱がしてもらってるから」
「う、うん……お願い……」
サーシャがぎこちない。
ユリ姉さんがいるから緊張してるのかな?
支部の温泉で一緒になった時は普通にしてたと思うけど……。
「ほらほら、脱がせ終わったなら入って入って」
……ホントにお客さんの態度じゃない。ユリ姉さんは遠慮って言葉をしらないらしい。
それからサーシャと髪を洗いあったけど、やっぱりお風呂場はかなり狭く感じた。何度かユリ姉さんとぶつかるし、「ごめんごめん」と「すいません」の応酬だった。
……お風呂はもっとのんびり入りたいんだけど。
せっかくのお風呂タイムを邪魔されてるみたいで、ちょっとヤな感じがする。次の泡洗浄で癒されよう。
「はい、泡まみれにするよーーー」
「うん……」
サーシャの元気がない。
サーシャもお風呂タイムを邪魔されて落ち込んでるのか?
とりあえずは全身を泡まみれにしてあげた。
……次は私の番―――。
「アリアちゃん、私も泡まみれにして欲しいなー」
「え?」
「ほら、早く」
「は、はい」
……ホントに意味不明過ぎる。頭でも打ったのかな?
「ありがとー。次は?」
「あ、サーシャがわたしを泡まみれに……」
「そっか。サっちゃん、お願いねー」
「はい……」
サーシャに泡まみれにされたけど、サーシャの気分は落ち込んだままに見える。
……ホントにどうしたのかな? 泡洗浄で元気になってくれればいいけど……。
「はい、次は?」
「えっと、サーシャの背中にくっついて泡洗浄を……」
「私も混ざっていい? 一緒にやってよ」
「……いいですけど」
「わたしはアリアちゃんの背中に抱きつくね。二人はいつも通りでいいよ」
「……はい」
わたしがサーシャの背中にくっつき、ユリ姉さんがわたしの背中にくっつく。
……うーん。サーシャ以外に抱きつかれるのは違和感が……。
サーシャと違って普通に胸があるし、すごい違和感が。おっきな胸をこんなに押し付けられたことなんてない。
……むぅー、なんか悔しい……。
「ほら、いいよ」
「あ、はい」
せかされたので、とりあえず魔術をイメージする。
サーシャだけじゃなくて、後ろのユリ姉さんの泡も一緒に……。
「泡洗浄」
「……」
「おおー、これが泡洗浄かー。なるほどねー」
相変わらずサーシャは一瞬だけビクッとしたけど、ユリ姉さんは楽しそうだ。
泡洗浄が発動してる間ずっと「おっ」とか「んんー」とか口うるさかった。あと5秒続いてたら叩いてたと思う。すぐに終わってホントによかった。
「流すよーーー」
「うん……」
サーシャの泡と自分の泡を流し、ユリ姉さんは放置する。勝手にやって欲しい。
「次は?」
「え、湯船でお湯マッサージですけど……」
「3人も入れるかなー」
「え? 一緒に入るつもりですか?」
「もちろん。お湯マッサージも体験してみたいしね」
「むぅーーー……」
「アリア、みんなで入ろう。狭くても我慢すれば大丈夫だよ……ほら、来て」
サーシャが全部をあきらめた様な笑顔で湯船に入って誘ってくる。
……サーシャがいいならいいけど……。
わたしはサーシャに寄りかかってぎゅっとされるのを待つ。ユリ姉さんは待ちきれないらしく、すぐに向かい側に無理やり入った。少なめのお湯だったけど、半身浴から肩ぐらいまでの高さになる。
……かなり窮屈だけど、肩までお湯が来るなら3人でもありかな? あとはぎゅっとしてくれれば完璧なのに……。
サーシャはいつまで経ってもぎゅっとしてくれなっかった。わたしの肩に手を置いてる。わがままかもしれないけど、しっかり「ぎゅっ」としてほしい。
「……サーシャ。いつもみたいに「ぎゅっ」としてほしいんだけど、どうしたの?」
「アリア……」
「サっちゃん、私の事は気にしないでいつも通りにしててね。お風呂は楽しく、リラックスしようよ。アリアちゃんも、そっちの方がいいよね?」
「……はい」
いつものお風呂タイムをぶち壊してる張本人に言われるのは納得できないけど、その意見には大いに賛成する。お風呂は楽しく入りたい。
「サーシャ、ダメ?」
「……ううん、いいよ、ゴメンね。これでいい?」
「うん、ありがとう」
サーシャがぎゅっとしてくれて顔をちょっとスリスリしてくれた。
……うん、大満足! やっぱり、こうしてくれないと落ち着かない。
「うんうん、二人とも仲良くね。じゃあ、お湯マッサージをお願いね。あ、魔術は強めにしてね。最近、誰かさん達のおかげで疲れてるからさー」
「……」
ユリ姉さんの傍若無人な態度がすごい。よそ様のお風呂でここまで自由なのはすごいと思う。でも、最後の「誰かさん達」のせいでなにも言えない。絶対にわたし達のことを言ってる。ユリ姉さんにはいつも助けられてるし、お世話になってる自覚はある。
……いいよ。お湯マッサージ程度で満足してくれるなら、存分にやってあげるよ。
リクエスト通り、強めのお湯マッサージをイメージする。
「お湯マッサージ」
「アリアっ、ちょっ……」
「あ、ごめん、サーシャには苦しかったんだよね。ユリ姉さんの事は放っておいてちょっと出よう」
「あははは、アリアちゃん、大丈夫だよ。サっちゃんは苦しんでないから」
「え?」
「ふうー、なるほどねー、これが最大の原因かー」
「サーシャ、ホントに大丈夫? 苦しくない?」
「う、うん。でも、ちょっと……」
サーシャがかなり強めにぎゅっとしてくる。昨日と一緒だ。
「アリアちゃん、サっちゃんは気持ち良すぎてそうなってるんだよ。ふぅ、サっちゃん、さっきは強く言っちゃって御免ねー。これをやられて我慢してるサっちゃんは尊敬に値するよ。好きな人にコレをやられたら私だったらすぐに襲ってると思うな。あー、でも、本当に気持ちいいね、コレ。アリアちゃんは天才だよ」
「……気持ちいいならよかったです。サーシャ、平気?」
サーシャは無言でコクコクしてくる。
そして昨日と同じようにお湯から「愛の匂い」がしてきた。サーシャが苦しんでる証拠の愛の匂い。わたしの大好きな匂いだけど、サーシャが苦しんでる証拠なのでちょっと複雑だ。
今日はユリ姉さんも一緒に入ってるせいなのか、匂いがいつもとちょっと違う。いつもの愛の匂いはすごく落ち着く匂いで、例えるなら森林浴、森の匂いしかしない。今は森にちょっと花が咲いてるような匂いになってる。
……落ち着くんだけど、花が邪魔な気がするんだよね。
おまけに目の前にはユリ姉さんがいる。ハッキリ言って落ち着かない。
……スタイル抜群なんだもん。すごく悔しいよ。
ぶよぶよしてないし、胸は大きいし、足も長い。腰はくびれてるし腹筋も割れていて逞しい。わたしが見てきた中で2番目にモデルに相応しい体型だと思う。サーシャとは方向性が違う完全体って感じ。
「お、魔力が薄れてきたね。終わりかな?」
「たぶん、そろそろ止まると思いますけど……」
ぎゅっの痛みをそらす為にユリ姉さんの身体を睨んでると、突然そんなことを言われた。
……終わるタイミングとかわかるんだ……。
魔力が薄れてきたとか言ってたけど、そんなものがわかるユリ姉さんはやっぱりすごい人なのかな?
……いや、まあ、わかってるよ、ユリ姉さんはすごい人で間違いない。
Bランク組織のお偉いさんだし、サーシャよりも強いし、すごい魔術もつかえるし、色々しってるし、変な権力をいっぱい持ってそうだし……ただ、ね……。
「いやー、気持ちよかったよ。私もアリアちゃんと結婚したくなったなー。どう? 私とも結婚しない?」
「しません」
こういうふざけたところがあるから、いまいち信用できない。
ずっと真面目モードでいいのに……。
「これで振られたのは二人目かー。それじゃあ……」
ユリ姉さんの目線が、わたしのうしろで放心状態のサーシャに向けられる。
「サーシャもダメですよ。わたしだけのお嫁さんですから」
「そっかー、これで三人。誰か紹介してよ、寂しくてさー」
「わたしは学校の友達とサーシャしかしりません。ユリ姉さんの歳に近い人なんて……ん? 振られたことがあるんですか?」
さっき、わたしで「二人目」って言ったよね。一人目、いるんだ……誰だろう?
ユリ姉さんはふざけなければ素敵な美人さんだと思う。お金持ちで強いし、基本的には優しい。振るなんてもったいなさすぎる。色んな人達にモテモテだと思うけど……違うのかな?
「振られたねー、見事に。婚約までしてたのにさ。アリアちゃん達はその人に会ったことがあるよ。支部の温泉で会ったね」
「支部の、温泉……」
……誰かいたっけ?
あの時は貸し切り状態だった気がする。
清掃直後とかで、誰もいなかったような……。
「彼女の名前はシェスタ。覚えてない?」
「シェスタ、さん……。あー、あの、脱衣所で会った、人体実験の人!」
「あははは、そうそう。人体実験が大好きで、魔術具の研究と開発が生き甲斐の変わり者が元婚約者」
「へー……」
あの、人を獲物でも見る様な怪しい目で見てくる変人さん。わたしのことをつま先から頭のてっぺんまでジロジロ観察してた人。あの人が元婚約者……恋人かー……。
……あれ? でも、全然そんな感じはしなかったよね? すごく低姿勢でユリ姉さんのことも様付けで呼んでたし、恋人どころか友達でもないようなこと言ってなかったっけ?
「振られたのは3年くらい前かなー。アリアちゃん達に負けないぐらい、お互いに深く愛しあってたんだけどね。今みたいに他人行儀じゃなかったし、様付けなんてされてないよ。お互いに愛称で気軽に呼んでたね。深く愛しあって将来を誓い合ってたのに振られちゃった。魔術具に生涯を捧げる、ってね」
「……わたし達ぐらい愛しあってたのに、魔術具に愛で負けたんですか?」
わたし達ぐらい愛しあってたら無敵だと思うけどね……。
絶対に別れようなんて思わないし、サーシャがいない生活なんて想像がつかない。
わたしでもこう思うくらいなんだから、6年間もわたしを愛し続けてるサーシャはもっとその気持ちが強い。魔術具なんかには絶対に負けない。
「正確には、違う感情が愛情を上回った感じかな。まあ、振られたことには違いないよ。今は元の関係に戻れないか試行錯誤中。はい、お喋りはここまで、出ようか」
「あ、はい……」
「私とサっちゃんはもう一度身体を流してから出るから、アリアちゃんは先に出てていいよ」
「わかりました」
……サーシャだけじゃなくてユリ姉さんもこの匂いが気になるかな?
まあ、恋人もいないのに愛の匂いがしてたら寂しいもんね。ユリ姉さんだって、匂いがしたら愛が恋しくなるのかもしれない。シェスタさんと深く愛しあってたと言ってたし、その頃を思い出したら可哀そうな気がする。
「ふぅー……。ユリ姉さんの恋人、か……」
身体を拭きながら考える。
支部の脱衣所で会ったシェスタさん。
あの人も美人さんだったよね。スタイルもよかったし、ユリ姉さんと並んでも全然見劣りしないと思う。というか、すごくお似合いだ。ユリ姉さんが筋肉美人だとしたらシェスタさんは知的美人って感じ。
最初は危ない人かと思ったけど最後は優しくしてくれたし、あの状態なら美人さん同士でお似合いのカップルに思える。
……どうして別れちゃったのかな……?
わたし達ぐらい愛しあっていて婚約もしてるのに別れちゃうなんて、寂しすぎるし、ありえないと思う。
「仲直り、手伝えないかな……」
ユリ姉さんにはすごくお世話になってるし、シェスタさんも「いつでも相談して」って言ってくれた。二人ともいい人だし、少しはなにかしてあげたい。
……今度、支部に遊び行ったときにでもお話してみようかな?
ユリ姉さんがわたし達のことを応援してくれてるんだから、わたしがユリ姉さん達のことを応援してもいいよね。
ユリ姉さんもシェスタさんも、内心では今も結婚したいほど愛しあってると思う。わたし達ぐらい愛しあってたなら、本気で別れたり嫌いになったりなんかしない。愛の大ベテランのサーシャにも相談して、二人には幸せになってもらおう。
「うん、ユリ姉さんとシェスタさん。二人の愛のキューピットになろう!」
「ありがとー。アリアちゃんが協力してくれるなら百人力だね」
「あ、はい」
二人が出てきてるのに気づかなかった。
わたしの愛のキューピット作戦。バレないように進めようと思ったのにいきなりバレてしまった。失敗したらヤだからこっそりやろうと思ったのに……。
もういいや。こうなったら、正面から正々堂々といこう!
わたしに小細工は無理! 隠すのも無理! 全部直球勝負!
「ユリ姉さんは今もシェスタさんを愛していて結婚したいんですよね!」
「うん、そうだね。私の気持ちは昔から変わってないよ。シェスタが……周りが変わっただけ」
「変わってません、絶対に! シェスタさんもユリ姉さんと結婚したいと絶対に思ってます!」
「だといいんだけどね」
「わたし達ぐらい愛しあってたんですよね!」
「そうだね。まあ、今の二人よりは深く愛しあってたね、色々と」
そう言ったユリ姉さんはからかいの笑顔でサーシャを見る。サーシャは顔を赤くしてうつ向いてしまった。
……サーシャ! 今はからかいに負けないで! 二人をくっつけられるのはわたし達だけだよ!
「わたし達より深く愛しあってるのに結婚しないなんておかしいです! 結婚しましょう、すぐに!」
「うーん、前の日曜日に拒絶されたばかりなんだけど? 大丈夫?」
「大丈夫です! わたしが愛のキューピットになります!」
「そっかー。じゃあ今度、アリアちゃん達が支部に行く時には私も一緒にいい? もう一度、シェスタに素直な気持ちを伝えてみるよ。愛してる、結婚しようって」
「はい! 頑張って結婚しましょう!」
よし! ユリ姉さんの説得には成功したよ! あとはシェスタさんのみ!
「もしもシェスタと結婚出来たら、私達4人で合同結婚式でもする?」
「いいですね! そうしましょう! みんなで幸せになりましょう!」
「あははは、よろしくー」
ユリ姉さんとガッチリ握手して約束する。
これで契約はなったよ! わたし達4人で一緒に結婚式! 夢が広がるね!
綺麗な美女3人に可愛い系のわたし! すごく華やかで楽しい結婚式になるよ!
「サーシャ、楽しみになってきたね! 結婚式!」
「うん。でも、まずは服を着ようか。学校に行く時間も迫ってるから」
「がっ、こー……」
「うん、学校。今日は金曜日でもう7時過ぎてるよ。服を着て髪をとかして朝ご飯を食べて着替えて忘れ物の確認をして……やることはいっぱいあるよ」
「……」
がっこー……て、なに?
これから4人で結婚式を……。
「あははは、御免ねー、サっちゃん。嬉しくてついつい乗っちゃった。二人の現状は理解したし、もうしつこくは言わないよ。さて、私も他の用事を済ませに行こうかな」
「はい、色々とありがとうございました。領主様にもネックレスのお礼をお伝えください。ありがとうございます、一生大切にさせて頂きます、と。私は会えないと思いますで」
「うん、伝えておくよ。またね、二人とも」
「……」
ユリ姉さんが風っぽい魔術で身体と髪を乾かし、早着替をして去って行った。
……あれ? シェスタさんと、結婚しないの……? 結婚式、は……?
「アリア、愛してる」
「わたしもだよ!」
「ほら、着替えて準備するよ。間に合わなくなるから」
「え、あ、うん」
サーシャがわたしに服を着せ、自分も目にもとまらぬ速さで服を着た。
……速いねー。これがサーシャの早着替えの本気……。
それからは目まぐるしく状況が変わり、目の前の準備が夢の様に去っていく。