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ただ、こんなに良くしてもらって私は何もできてないから、申し訳ない気持ちもいっぱいで。お金も払えないし。
「蒼さんに誘ってもらって嬉しかったです。今日は朝からすごく楽しくて。私は蒼さんや遥さんに何もお礼することができていないし、こんなに楽しんじゃって良いのかなって思って。あと、表情が固いのは……。緊張してる……ところもあって」
「なんで緊張するんだ?」
不思議そうに訊ねられ
「蒼さんが……。かっこ良くて!あぁぁぁ、いつもかっこ良いと思ってますよ?でも今日は特別で。変なこと言ってごめんなさい!」
「ちょっ……。そんなに大声出さないで。恥ずかしい」
顔を手で覆っている蒼さん。
私の声、隣の席まで聞こえてしまったみたい。
チラッと視線を感じる。
「ごめんなさい」
また迷惑かけちゃった。
「ありがとう。本音、聞けて良かった。安心した」
その表情、椿さんと被る。同じ人だから当然か。綺麗な顔だな。
パンケーキを完食。
「お腹いっぱいです!本当に美味しかったです。連れて来てくれてありがとうございます」
二人でお店を出る。
「いえいえ。あんなに美味しそうに食べてもらえると、あのお店選んで良かったって思えたから」
そんな会話をしていると、お店に並んでいた女の子が急に蒼さんにぶつかってきた。
「すみません!」
女の子は謝ってくれた。
「いえ」
平然と答えている蒼さんだが、身体は大丈夫なんだろうか。
「あの、女の子とぶつかりましたけど、大丈夫ですか?蕁麻疹……」
「あぁ。大丈夫。ああやって少しくらいなら。うーん。そうだな。わかりやすく例えると……」
蒼さんの手のひらが私の頬に触れる。
そして、唇の端を親指でツーと動かされた。
「んっ……!?」
「例えばこうやって意識して触れるとアウト。桜には大丈夫だから今触ったけど。逆に触れられてもダメ。抱き付かれたりするのも身体が反応する。ゾワゾワして……。嫌悪感が生まれて……。蕁麻疹が出る」
「ごめん。今唇触ったのは、さっきのパンケーキの生クリームが付いてたから?」
えっ……。
「ごごごめんなさい……!!」
慌てて自分のカバンからウエットティッシュを取り出し、蒼さんの指を拭いた。
「そんな、いいのに」
ハハっと蒼さんは笑ってくれた。
うぅ、私、全然良いところない。どうしよう……。
次は、映画を見に行くため映画館に向かった。蘭子ママさんに感謝だ。
「トイレとか大丈夫?」
「あっ、私、行ってきてもいいですか?」
まだ顔に生クリームとか付いていないか心配。
お化粧も崩れてないか心配だし。
トイレの鏡で化粧を直す。
ふぅ、どう見ても一緒に歩いてたら不釣り合いだ。
遥さんと蒼さんだったら違和感ないのに。兄弟だけど……。
トイレから戻り、蒼さんを探している時だった。
えっ――?
あれって……。
優人に似てる。
まさかっ?本人!?
遠くにいるため、本人だという確定は出来ない。でも近づきたくもない。
一気に心臓の鼓動が速くなる。嫌な汗が身体から流れる。
手が震えだしそうだ。
もし本人だったら――?
「桜?」
蒼さんに名前を呼ばれハッと我に返る。
「どうした?なんか顔色悪い気がする」
せっかく楽しい時間なのに、もしもの可能性を話して心配をかけたくない。
「なんでもないです。蒼さんを探してて」
嘘をついてしまった。
「ごめん。俺もトイレ行ってた」
気にしない、優人じゃない。別にいたってもう私は関係ない。
自分に言い聞かせる。
「桜、なに飲む?ポップコーンとか食べる?」
まだお腹いっぱいだ。
「お腹いっぱいです!」
「そっか、じゃあ飲み物だけ買って来る。混んでるから、ここでちょっと待ってて?」
「はい」
あっ、返事をしちゃったけど、今は一人になりたくない。
咄嗟に蒼さんの裾を掴んでしまった。
「私も一緒に行っていいですか?」
「いいよ」
蒼さんって頼りになるな。隣に居てくれると思っただけで、あの人が優人だとしても怖くない。
似ている人がいたところをチラッと見ると、それらしき人はいなかった。やっぱり、見間違えだよね。
「そろそろ行く?」
「はい」
上映時間間際になったため、席に座る。
映画が始まった――。
二時間半の映画はあっと言う間だった。
「グスッ……。うぅ……」
「おい、桜、大丈夫か?泣きすぎ」
エンドロールが終わっても感動して泣き続けている私を見て、蒼さんは爆笑している。
「思ってた以上に感動してしまって。最後なんて……。まさか死んじゃうとは思いませんでした」
見た映画はラブストーリーだった。
困難を乗り越えて結ばれたカップルが、最終的にはヒロインが病気で亡くなってしまうという結末。
「すみません。ちょっと、お手洗いに行ってきます」
泣きすぎて化粧が崩れてしまった。こんな顔で歩けない。
「落ち着いた?」
トイレから出ると、嫌な顔せず待っていてくれた。
「はい!すみませんでした」
「ん。じゃあ、行こうか?」
二人で映画館を出る。
あっ、もうこんなに暗いんだ。
外に出ると日は沈んでいた。
「この後どうする?外でご飯食べて行く?」
お昼は蒼さんに奢ってもらっちゃったし、家に帰れば何か作れる。
「あの、良かったら私が帰って作ります。ダメですか?」
「いや。我儘言うと、桜が作ったご飯が食べたい」
ドクンと鼓動が高鳴った。
はぁぁぁぁぁ。嬉しい。
「はいっ!何か食べたいモノ、ありますか?」
蒼さんが食べたいモノ作ってあげたいな。
「そうだな……」
蒼さんがそう呟いた時だった。蒼さんの視線が一点を見つめている。
どうしたんだろう?
「どうか……」
どうかしましたか?と声をかけようとした瞬間
「ごめん、桜。ちょっとこっち寄って?」
「へっ?」
蒼さんに引き寄せられた。
そしてーー。
抱きしめられる。前は何も見えない。
えぇぇぇぇぇ!!
こんな人通りの多いところで急にどうしたんだろう。
抱きしめられて、心臓が飛び出そう。