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葉っぱ
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榎本くもり
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「私、「彼」君と付き合ったんだぁ」
そう告げられたのは、コンクールが無事に終わり、アンサンブルコンテストに向けて練習しだした九月の終わりだった。
「そう、なんだ。おめでとう」
声は震えていないだろうか。
動揺がばれていないだろうか。
「ありがとぉ!そういってくれるとおもったぁ!!」
どうやら、大丈夫のようだ。
「ほんとに感謝してるんだよぉ。私と『彼』君が出会うきっかけを作ってくれたからぁ」
『彼女』は心底幸せそうに笑っていた。
「そう、ならよかった。二人はお似合いだと思ってたんだ」
うまく動かない口を動かす。 今、黙るのだけは駄目だ。
『彼女』が笑っているんだ。幸せそうにしているんだ。
心の底から祝福しろ。
「本当におめでとう。二人が付き合ってくれて嬉しいよ」
そう言うと、彼女はまるで花が綻ぶように、綺麗に、笑ったのだった。
この恋は実らないものだと、そう気付いたのは『彼女』に出会った、その瞬間だった。
一目惚れだった。
こんなに愛らしい人には出会ったことがなかった。
低めの身長、胸あたりまで伸びた髪、ふにゃっとした笑顔、『彼女』を構成する、すべての要素を愛していた。
「初めまして。よろしくねぇ。どこ中出身なのぉ?」
初めて話しかけてきたのは『彼女』から。
トランペットパートとトロンボーンパートの練習場所が同じだったからだろう。
ただただ嬉しかった。
少し離れて眺めているだけで、話しかける勇気がなかったから、本当に、心の底から、嬉しかった。
「ここ分からないんだぁ。教えてくれない?」
そう『彼女』に言われたときは、天にも昇る心地だった。
愛嬌のある『彼女』なら先輩や先生に聞くことも可能だろうに、頼ってくれたのだ。
「いいよ。ここはね、、、」
できるだけ、平静を装いながら話を続ける。
『彼女』は「感情が表に出ることが少ない」と評価してくれたけど、かなりギリギリだった。
いつ、本音が出てしまうか気が気じゃなかった。
それからは夢のような日々だった。
『彼女』はことあるごとに頼ってくるようになったのだ。
「ここどうやって吹くのぉ~?」
「ここリズムむずすぎ!!」
隣で見る『彼女』は、遠目から見つめる『彼女』の何百倍も可愛かった。
とにかくリアクションの大きい『彼女』は、小柄な見た目も相まって小動物のように愛くるしかった。
いつからか、隣には『彼女』がいることが当たり前のようになっていた。
それが何よりも大切で、何よりも愛おしかったのだ。
永遠に続くわけはないと分かっていても、この楽園を手放すことができなかった。
そして、遂に、手放す時が来たのだ。
自分の気持ちから逃げて、『彼女』の優しさに甘えていた報いだ。
でも、この程度の罰なら甘んじて受け入れよう。
『彼女』が幸せなら、本当に、それ以上のことは望まない。
だから、どうか。
この醜い感情を持ち続けることを、暫くの間でいいから、許してほしい。
コメント
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読み終えました……静かに、でも確かに胸が締め付けられる回でしたね。 「彼女」が幸せそうに笑えば笑うほど、語り手の心の奥で何かが軋む音が聞こえるようでした。特に「心の底から祝福しろ」と自分に言い聞かせる場面、あの必死さが痛いくらい伝わってきます。冒頭の告白シーンから回想へ戻る構成も、失恋の余韻を一層深くしていて、とても巧いなと感じました。 この「醜い感情」を抱え続けることを許してほしい、というラストの一文――彼の人間らしさが全部詰まっていて、切なくて、でもどこか美しかったです。 葉っぱさん、繊細な心情描写に引き込まれました。続きも楽しみにしています。