テラーノベル
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Side:ころん
「……ウトウト」
ロゼくんは今にも閉じそうな目を必死にこすっている。
「みんなを紹介したいところだけど、まずは先に休もっか」
「は……い」
そんなロゼくんの様子を見て、連れてきてくれた莉犬くんが小さく笑った。
「それじゃあ、ころちゃん、よろしくね」
「はーい、お疲れ様」
莉犬くんたちが戻っていくのを見送る。
「リュック、預かるよ」
近くにいたあっとくんがそっと手を差し伸べると、ロゼくんは少し驚いたように身を引いたけれど、すぐに小さく頭を下げた。
「えっと……ありがとうご……ざいます」
きっと、張り詰めていた緊張が一気に切れて、立っているのもやっとなくらい疲れていたんだろう。
布団に入ると、彼はすぐにスヤスヤと規則正しい寝息を立てて深い眠りに落ちていった。
その寝顔を見つめながら、声を潜めて呟く。
「おやすみ」
それから、夜勤のメンバーで短いミーティングを開いた。
「じゃあ、一回なーくんから聞いたと思うけど、もう一度確認とこれからのことについてね」
資料をトントンと机で揃える。
「ロゼくん、17歳。警察に保護されて、当分はここで暮らしてもらうことになったよ。これまでもこういうケースはあったし大丈夫だと思うけど、何があるか分からないから、みんな警戒は怠らないようにね」
「了解」
あっとくんが頷く。
「あそこは結構トラブルが多くて、悪い噂とか色んな名前を聞くけど、ロゼって名前は一回も聞いたことないな。」
「そうだね。あと、明日はおさでいとにしきが休みになってるから、みんな把握しといて。じゃあ、よろしくね」
Side:ロゼ
ヴゥー、ヴゥー。
枕元でスマホのバイブ音が響いた。画面を見ると、ハルからの着信。
まだ重たい目をこすりながら、通話ボタンを押して耳に当てる。
「……もしもし」
『すまん、こんな時間に』
「全然いいよ、どうしたの?」
『なおが、戻ってこないんだ』
ハルの焦った声に、一気に眠気が吹き飛んだ。
「ゆうなと一緒じゃないの?」
『いや、ゆうなも探してる。警察に補導されたってわけでもないみたいなんだ』
カレンダーが頭をよぎる。なおは躁鬱の気質があった。定期的に、自分ではコントロールできない波を繰り返している。
「……そろそろ、鬱の時期だね」
『ああ。だから、少し嫌な感じがするんだよ……』
ハルの言葉の裏にある不穏な予感に、体が勝手に動いていた。
「俺も探す」
『ロゼはシェルターにいるんだろ、出られないんじゃないか?』
「うまくやるよ」
『無理して来なくていいからな。ゆうなも俺も探してくるから』
「はーい」
通話を切り、ベッドの上に立ち尽くす。
うまくやるとは言ったものの、ここは24時間開いているシェルターだ。人が常駐している場所から、黙って抜け出せるだろうか。
(でも、今は2時だ。もしかしたら、みんな寝静まっているかもしれない)
かすかな希望にかけて、慎重に部屋の扉を開ける。
すぐそばで誰かが寝ている。音を立てないように、一歩一歩、慎重に階段を降りていった。
しかし、1階に降りた瞬間、目の前の光景に足が止まる。
カウンターに、二人の人影が座っていた。
咄嗟に物の陰に隠れながら、なんとか入り口へ向かおうと足を動かす。
「ロゼくん? どうしたの?」
背後から、ころんさんの声が降ってきた。
やっぱり見つかるか。心臓が跳ね上がるのを抑えながら、あらかじめ用意していた言い訳を口にする。
「……目が覚めちゃって。少し、外に出たくて」
「今は結構遅いからねぇ、また明るくなってからにしよ」
「っ……」
どうしても今行かなきゃいけないのに。焦りで奥歯を噛み締めた、その時だった。
「良ければ、俺がついていきましょうか?」
後ろから、あっとさんがひょっこりと顔を出した。
ころんさんは少し意外そうに目を丸くしたあと、優しく微笑む。
「そうだね、あっちゃんが付いていってくれるならいいけど……どうする、ロゼくん?」
大人がついてくるのは正直邪魔だし、自分の仲間と合わせたくはなかった。だけど、ここで断れば外にすら出られない。
「……お願いします」
あんまり人と行動したくないけれど、今は背に腹は変えられない。
歩きながらスマホでハルたちに「大人が一人ついてきている」とメッセージを送り、なおが行きそうな場所の目星をつけた。
深夜の店、静まり返った公園、薄暗い裏通り。
あっとさんは、俺がどこへ向かおうとも、何も理由を聞かずにただ後ろを黙ってついてきてくれる。その無言の距離感が、少しだけありがたかった。
次に見に行くとしたら、ここから少し離れたあの川くらいだ。
スマホが震える。ゆうなからのメッセージだった。
『〇〇の近くの河川敷にいたよ』
その文字を見た瞬間、胸のつかえが取れたような気がした。急いで返信を打つ。
『俺も向かうね』
「友達、見つかった?」
隣を歩くあっとさんが、前を見据えたまま静かに言った。
「……なんで、分かったんですか」
「最初の電話、ちょっと聞こえちゃったんだよね」
どうやら、俺が部屋を出る前の段階で、すでに起きて気づいていたらしい。この人はどこまで見抜いているんだろう。
「そうですか。……はい、見つかりました」
淡々とそれだけを返し、俺は自然と早くなる足をそのままに、河川敷へと急いだ。
着くと、すでにハルとゆうなが到着していた。
なおはコンクリートの柱に背中を預け、虚ろな目で放心している。
「薬、忘れちゃったみたいで……」
ゆうなが青ざめた顔でなおを支えていた。ハルが俺の後ろにいる人物に気づき、不審そうに目を細める。
「後ろの人は、その……」
「うん」
俺が短く答えると、あっとさんは一歩前に出て、ハルたちに安心させるような笑みを向けた。
「あっとって言うよ。よろしくね。……それより、その子、ずいぶん顔色が悪いね」
ゆうなは、急に現れた大人の存在に、あからさまに警戒の視線を向けた。
「……しょうがないでしょ、いつもこうだし」
「低血糖かな」
あっとさんの口から出た単語に、ゆうなが短く息を呑む。
「えっ……」
「ちょっと待っててね」
あっとさんはそう言い残すと、どこかへ走っていってしまった。
「低血糖って、なんか危ないやつじゃないの……?」
ゆうなの不安そうな声に、ハルがスマホを操作しながら顔をこわばらせる。
「重度だと、最悪、死んじゃうこともあるみたい……」
その言葉に、現場の空気がピリついた。
数分もしないうちに、あっとさんが息を切らせて戻ってきた。その手にはコンビニの袋が下げられている。
「言いたくないなら無理にとは言わないけど、何か病気とかある? 糖尿病とか」
「いや、何も……」
ハルが首を振る。
「なら、無理な食事制限とかは?」
「元々少食ではあるけど……最近、あんまり食べてない時もあったかもしれないです」
「そっか。ごめんね、少し触るよ」
あっとさんはなおの前にしゃがみ込むと、手際よく目の裏を確認したり、手首で脈を測ったりし始めた。その手つきは、まるで本物の医者のようだ。
「貧血気味でもあるね。とりあえず、これ少しずつでいいから食べて」
袋からゼリー飲料やラムネを取り出してなおに持たせる。
「ただ、これは気休めくらいにしかならないから、本当はちゃんと病院に行っておきたいんだけど……親御さん、連絡つくかな」
「俺が代わりに付き添って行きます」
ハルが身を乗り出すが、あっとさんは静かに首を振った。
「そういうわけにはいかないんだよ。俺たちも一応病院に向かうから、連絡先が分かるなら親御さんに連絡してほしい」
ーーー
あっとさんの迅速な対応のおかげで、あの後なおは無事に病院に行き、親御さんに引き取られていった。
診断は軽い低血糖と貧血。大事には至らなかったと聞き、心底ホッとする。
ハルたちと別れ、今は二人でひなたびへの道を戻っている途中だ。深夜特有の静けさの中、俺はずっと気になっていた疑問を口にした。
「……どうして、あんなこと分かったの」
あっとさんは、夜風に髪を揺らしながら、少し照れくさそうに笑った。
「勉強してたからかな。大切な人を守りたいじゃん」
その言葉が、すとんと胸に落ちていく。大人はみんな自分の利益のために動くものだと思っていたけれど、この人は少し違うのかもしれない。
「疲れた?」
「あんまり」
「そっか。じゃあせっかくの夜更かしだし、すごいとこ連れていってあげる。おいで」
あっとさんは悪戯っぽく笑うと、歩く速度を少し上げた。まばらに並ぶ街灯の光を横目に、俺は後ろをついていく。
着いたのは、少し小高い丘の上だった。
「ここだよ」
あっとさんが立ち止まった場所から空を見上げて、息を呑んだ。
「すご……」
「きれいでしょ。俺、ここ気に入ってるんだよね」
そこは、都会の喧騒を感じさせないほど、無数の星が降るように輝いている場所だった。視線を少し下げれば、遠くに街の夜景の明かりが絨毯のように広がっている。
あまりの美しさに、思わず見惚れて言葉を失ってしまった。
「街の明かりから離れているから、よく見えるでしょ」
「……はい」
冷たい夜風が心地いい。しばらくの間、俺たちは並んで星空を眺め、それから静かにひなたびへと戻った。
内側の扉を開けると、ソファに座っていたころんさんが、眠そうな目をこすりながら振り返った。
「おかえり~。少しは涼めた?」
「はい」
「そっか、よかった。寝れなくてもいいから、今は布団で目、瞑ってなね」
ころんさんのその何気ない優しさに守られながら、俺は再び階段を上っていった。
東蘭(1週間執事化)
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コメント
5件
初めから、一気読みしてきました!! もう本当最高で、良かったです‼️ 続き楽しみにしてます!✨
最高❗️ あっとくんとロゼくん、、いいな‼️この辛み好き❗️ 心音くんが好きだけど、 これからも頑張ってね⁉️
ロゼくんの「うまくやるよ」って言葉、めっちゃ切ない…😢 自分のことより友達優先するところがもう尊すぎて泣ける。あっとさんが夜中に黙ってついてきてくれたり、低血糖見抜いてラムネ渡す手際の良さに「この人、ただ者じゃない…!」ってなったよ。最後の星空のシーン、街灯を横目に歩く二人の距離感がすごく好き…エモすぎて胸がぎゅってなった🌸💕