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2日目
翌朝、若井は大森と共に館の地下室へ向かった。高野が「館の構造はゲームの鍵」と匂わせていたことを思い出し、綾華の手がかりを探すためだ。
高野の派手な態度と不気味な笑みが、若井の頭にちらついた。地下室への階段は古く、湿った空気が肌にまとわりつく。壁にはやはり鏡が並び、若井と大森の姿を歪に映し出した。鏡に映る大森の顔が、一瞬だけ別の誰かに見えた。若井は立ち止まり心臓が跳ねる。
「どうした?」
大森が振り返り、若井の腕に触れた。
「……何でもない」
若井は誤魔化す。
「鏡に映る大森さん、時々おかしくない?」
そんな綾華の言葉が頭を離れなかった。綾華の無邪気な笑顔と鋭い視線が、なぜか今になって不気味に感じられる。
地下室は埃っぽく、薄暗い電灯が頼りない光を投げかけていた。古い木箱や壊れた家具が散乱し、奥に錆びた鉄の扉を見つける。大森が扉を開けようとすると、鍵がかかっていた。
「これは…管理人の俺でも知らなかった」
大森の声には、初めて聞く動揺が混じっていた。
「知らなかった、って本当に?」
若井は疑いの目を向ける。藤澤の警告が、ますます現実味を帯びてきた。
大森は黙って鍵を調べ、近くの棚から古い鍵束を見つけ出した。
扉が軋みながら開くと、小ぶりな木箱を見つける。中には古い日記や写真が詰まった箱があった。日記は先に見つけたものとは別で、10年前の失踪事件の詳細が記されていた。
「彼らは鏡を見た。そして、消えた。 鏡は私たちを閉じ込める。助けて」
そう震える文字で書かれていた。写真には、若い男女5人の姿。そのうちの1人の顔に見覚えがある。若井の背筋が冷えた。
「これ、藤澤じゃないか?」
若井は写真を手に取り、大森に突きつける。
大森は写真を一瞥し、静かに言った。
「似てるだけかもしれない。10年前のことだよ、若井」
「似てるだけ?藤澤のあの傷、絶対何か関係がある」
若井は声を荒げて言う。藤澤の左手の傷痕が10年前の事件と繋がるのではないかという直感が強まっていた。
その夜、若井は再び眠れなかった。
地下室での発見と藤澤の警告が頭をぐるぐると巡り、胸が締め付けられるようだ。館の廊下を歩いていると、いつも通りと言うように大森がいた。
「また眠れないの?」
大森の声は優しく、若井の心を溶かすようだった。若井の疑いを一瞬で消すように。
「綾華のことが….それに、あの日記と写真」
若井は言葉を絞り出した。大森は黙って近づき、若井の手を握る。その温もりに若井は一瞬、疑念を忘れた。
「若井がそんな気分でも、俺はそばにいるよ」
大森は若井を引き寄せ抱きしめた。月光が廊下の鏡に反射し、二人の姿を無数に映し出す。大森の唇が若井の首筋に触れ、軽くキスをした。若井の心臓が速く打ち身体が熱くなった。
「元貴….. 俺、お前を…」
「言わなくていい」
大森は囁き、若井の唇にそっとキスをする。短いが深いキスに、若井は大森への愛を自覚した。だがその瞬間、鏡に映る大森の姿が再び一瞬だけ「別人」に見えた、見えてしまった。若井は息を呑み、身を引いた。
「どうした?」
心配が滲む声で大森は言う。
「鏡….元貴の姿が…」
若井は言葉を切る。疑心暗鬼が心を支配し、大森の優しさが本物なのか嘘なのか、わからなくなっていた。