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私は少しだけ首を傾げて、わざと困ったような顔を作って彼を見上げた。
「あ、あれぐらいいいじゃありませんか!魔界の市場なんて初めてだったから、つい遊び心が出てしまって…ディアヴィル様、許してくれませんか? ……ね?」
私は上目遣いで、少しだけ甘えるように彼の袖の裾をそっと掴んだ。
自分でも驚くほど大胆な行動。
けれど、彼ならきっと許してくれるという、温かな信頼が胸の中にあった。
ディアヴィル様は眉間にシワを寄せたまま、私をじっと見下ろしていた。
至近距離すぎて、彼の体温が伝わってくる。
沈黙が流れる中、数秒後。
彼は「はぁ……」と、今日一番の大きなため息をついた。
「……お前というやつは。……まあ、お前があんなに声を上げて笑うところは初めて見たからな。今回だけは、特別に許してやる」
突き出していた腕を引っ込め、彼はバツが悪そうに視線を逸らした。
夕陽のせいか、それとも照れ隠しか、彼の頬がほんのりと赤くなっている。
「ふふっ、よかった」
「っ、次に同じことをしたら容赦せんからな…」
「はいっ!」
「ったく……そんな元気よく返事をするな。お前、本当に恐ろしい聖女だな……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、彼はまた私の頭に大きな手を載せ、乱暴に
けれど壊れ物を扱うように優しく撫でてくれた。
その手の厚みと温もりが、今の私には世界中の何よりも愛おしい。
「さっさと部屋に入って休め。まだ髪がチカチカ光っているぞ」
「あ、そうでした!これ、いつ消えるんでしょう……」
「聖女の魔力なら一晩中輝いているかもしれんな」
ふいっと背を向けて立ち去ろうとする彼の背中に向かって、私はもう一度
「ディアヴィル様!ひとつ言い忘れてました」と大きく声をかけた。
彼は振り返ると「なんだ?」とだるそうに聞き返してくる。
「今日、市場に連れて行ってくれてありがとうございました! すごく、楽しかったです」
「……あ、ああ。……そうか。それだけか?」
「え、もしかして、なにかお礼の品とか渡さないとダメでしたか……?」
「いや、そうではない。……そんなこと、わざわざ口にするとは思わなかっただけだ」
「?してもらったことに、お礼を言うのは普通ではないでしょうか…?そ、それとも私に常識がないとでも…?!」
彼は一瞬、呆気に取られたような顔をした。
「ふっ、そうは言ってない。まあいい、じゃあな」
そして
改めてディアヴィル様と別れると
部屋に入り、鏡の中に映る自分を見る。
まだチカチカと魔法のワックスで発光している髪は、確かに滑稽かもしれない。
けれど、そこに映る私は、下界で泣いてばかりいた頃の私より、ずっと明るくて───
「奥様」らしい、満たされた顔をしていた。
「夜空の星を頭に載せているみたい、か……」
彼が不器用にかけてくれた言葉を反芻し
私は温かな幸福感に包まれながら、ふかふかのベッドに飛び込んだ。