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(えっ……)
一瞬脳内がフリーズした。
え、指名?
え、えぇぇぇぇぇっ!!??
「その、彼女は本日入店した新人でして……。大変失礼しました」
「そうなん? じゃあ俺が教えたるからさー。あ、今日あの子に指名入っとるん?」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
店員さんが困りながら言うものの、山梨さんはどこ吹く風だ。
駆け寄ってきた店長さんにも、山梨さんは確認する。
「なぁ、ええ?」
「も、もちろんです。しかし、よろしいのですか?」
「えーよ、えーよ。なんなら酒の作り方も教えとこーか?」
冗談を言いながら笑う山梨さんに、張り詰めていた空気がほどける。
(や、山梨さん)
私のことわかってないのに、ピンチを救ってくれるなんて……。
まさに本気の王子様っ、ますます惚れちゃいますよ―――。。。
「か、しこまりました。ただサキは新人なので、ほかのキャストもテーブルにつけます」
「ええって。俺、ただあの子と話してみたいだけやから」
「なにか、粗相があるかもしれないので……」
「大丈夫やってー。俺のことが信用できんー?」
「めっそうもありません」
「じゃあ、決まりや! ってことで、俺らの邪魔せんとってな」
ぽん、と店長さんの肩を叩き、山梨さんが笑いながら私を手招きする。
ちょいちょい、と小さく振る手や、細まった優しい目。
上がった口角を見て、山梨さんの後ろにキラキラと妄想のバラの花が、ぶわぁぁっと飛んだ。
(#$%&@¥###$%$―――!!!)
『俺らの邪魔せんとって』
『俺らの邪魔せんとって……』
あぁぁぁ、そのセリフは殺人級すぎますっ。
もう、どれだけ私の心を奪えばいいんですかぁぁぁ――――!!
店長さんは店長さんで、もうなにも言うまいと思ったらしく、空いているブースに山梨さんを案内した。
「サキさん、お願いします」
「は、はい!」
促され、山梨さんのテーブルに近づく。
だんだん近づくにつれ、私の心臓はドックドク!
(あぁぁぁ、山梨さんだ、山梨さんがいる……!!)
沙織、しっかりしなきゃ!
山梨さんに惚れ直してもらうんだ!!
「失礼しますっ」
「おー。名前はなにちゃんやっけ?」
「サキですっ!」
「サキちゃんかぁ、まぁ座りー」
ソファーの背もたれに体を預け、山梨さんは笑って私に言う。
あぁぁ、夢にまで見た、私への笑顔。
私だけの笑顔だ。
神様っ、山梨さんに会わせてくれてありがとうございます!!
そんでもって、ホンモノの山梨さんは、夢の一億万倍かっこいい~っ!!
山梨さんのとなりに座ると、心臓が一段とバックバク!
やばい、山梨さんがキラキラすぎてそっち見れない……けど目に焼き付けておきたい!!
「サキちゃんは、酒飲めるん?」
「はい! すこしなら」
「それならシャンパンでも飲もかー。サキちゃんの入店祝いも兼ねて、ボトル入れるわ」
「いいんですか! ありがとうございますっ」
ほんとはぜんぜん飲めないけど、オトナ女子はお酒だってたしなみですよね。
たった今この瞬間から、私はお酒が飲める女になりましたっ!
ほどなくシャンパンが運ばれてきて、まわりからも声があがる。
おぉっ、この反応は、高いお酒なのかも!
持ってきた店長さんもいつのまにか上機嫌になってるし、山梨さんパワーってすごい!
「じゃ、サキちゃんの入店を祝して、」
山梨さんがグラスを持ったのを見て、私もグラスに手を伸ばす。
目の前でパチパチと弾ける泡。
その向こうは、グラス片手にこちらを見ている山梨さん。
あぁぁ、なにこの夢世界。
雰囲気だけで酔っちゃいそう~!
「かんぱーい!」
「かんぱーいっ!!」
心のままにぐいっとシャンパンを飲んで―――。
(……うっ)
パチパチ感はコーラと似ていても、これ、ぜんぜん甘くないっ。
むしろちょっと苦い。
(これがオトナの炭酸……まさに恋の味ですね……っ)
「お、シャンパン苦手やった?」
「い、いえ。飲み慣れてないだけですっ」
「そうなんや、普段はなに飲んでるん?」
「えっと、コーラ……あっ、違う! コーラは卒業したんだった! 水! 今はお水ですっ!」
「水!? なにそれ、俺、酒のこと聞いてたんやけど!」
あはは、と声を立てて笑う山梨さんを見て、はっとする。
あっ、私、勘違い――!!
「す、すみませんっ」
「いや、えーよえーよ。サキちゃんおもろいなぁ」
本当におかしそうに笑う山梨さんを見て、勘違いしちゃったけど舞い上がっちゃう。
山梨さんが笑ってる。
笑顔、素敵すぎますっ……!
「はー。で、俺のこと知ってるみたいやけど、どこで知ったん?」
「あっ」
タバコを取り出す山梨さんを見て、私は慌ててグラスをテーブルに置いた。
(そうだ、ポーチの中の電子タバコ……!!)
私がポーチの中をごそごそしているのを見て、山梨さんは軽く頷く。
「そうそう、客がタバコ持ったらライター……」
「あのっ、これっ」
私が電子タバコを差し出すと、山梨さんはタバコを指に挟んだまま、目を丸くした。
「え……。これ、俺のやん!」
「2か月くらい前にこの近くでぶつかったの、覚えてませんか? その時落とされたものですっ。ずっと渡したいと思ってて」
「え?」
山梨さんは目を丸くしたまま電子タバコを見つめている。
その顔、ぜんぜん覚えてないって感じだ。
私も痩せたからわからないかも。
「覚えてへんけど、これは俺のやわ。どっかで失くしたとは思ってたんやけど、そうやったんやー」
山梨さんは驚きつつ、私の差し出した電子タバコを受け取った。
「はい、間違いなく山梨さんのです! よかったです、渡せて」
よかったー!
山梨さんの持ち物をずっと持っていたい気もしていたけど、やっぱり持ち主のもとに戻るのが一番だよね。
笑って頷くと、山梨さんも笑いながら電子タバコをしまった。
「ありがとーな」
「いえっ」
「今日は普通のタバコにするわ。火、もらえる?」
「あっ、はい!」
山梨さんの顔の近くでライターに火をつけると、山梨さんが近づき、一瞬の間が流れる。
あぁ、すぐそこに山梨さんの顔が……!
火がつくと白い煙がふわっと前に広がる。
(か、かっこいい~~!)
ほんとサマになってる、山梨さんイケメンすぎっ!!
ライターを握りしめたまま山梨さんのかっこよさに見惚れていると、山梨さんが「んー」と言って小さく首をかしげた。