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宗一郎には野心と夢があった、大学生時代から竜馬と二人で放牧地でフェンスを張る仕事をした時から、竜馬は宗一郎の良きビジネスパートナーだった、こんなに早いうちからアメリカに来て、自分で独り立ち出来るなんて思ってもみなかった
宗一郎は母子家庭で母の期待を一身に背負って、憧れのアメリカ留学をスタートさせた、しかし大学入学しょっぱなでいきなり躓いた、それは彼が世話になったホストファミリーが原因だった、毎晩夫婦喧嘩が絶えないホストファミリーに悩まされ、寝不足が続き、入学当初から成績もずいぶん落ちたことにショックもうけていた
そしてホームシックにかかり・・・アメリカでどう生きればいいか模索していた頃、同じ年でもうすでに大人びて、自立している竜馬に出会えたのは本当にラッキーだった
宗一郎は追い出される覚悟で竜馬の家に転がり込んだ、意外にも竜馬は宗一郎を受け入れてくれた、そんな竜馬の優しくて、親切な性格に、宗一郎は救われた
そこからは何をするにも竜馬と一緒にやった、しかしここへきて、竜馬とこの共同経営会社組織を、数人の従業員で運営するだけでは、宗一郎の野心は満足できなかった
少しでも自分達の会社を企業に近づけたい、ゼネラル・モーターズより大きな企業にしたい〈JBOY&サンズ〉とか〈JBOY・ホールディングス・カンパニー〉とかそんな感じの大企業を運営するのが夢だった、そもそもそれが夢ではるばるアメリカから渡ってきて財務を学んだのだ
しかし、竜馬にはいまいちそういった野心がなかった、何度も組織を拡大しようと宗一郎が持ちかけても、竜馬はどうして町のしがない食料品店のような経営をするのか、宗一郎には謎だった
今こそ事業拡大のために投資陣を募り、事業拡大にしてナスダックに乗り込んでいけるだけの会社を作る時だ、あとは資金を潤沢に投資してくれる企業なり、個人が2~3いれば、一大企業にしてみせる自信が宗一郎にはあった
そして母のいる故郷に錦の御旗を飾れるチャンスなのだ、宗一郎は若く、野心に溢れ、希望に満ちていた、自分たちはやれる! アメリカで一旗挙げられる!そのポテンシャルは十分ある、必要なのは資金だ
「あ~あ・・・誰か金くれね~かな~~~ 」
宗一郎は椅子の背にだらんと伸びて、誰に言うでもなく呟き、椅子ごとくるくる回った
「さぼらないで専務、早く今月分の食品チケット全部 出してください!経費を計算できません!」
事務員のジミーとトニーが宗一郎を見てクスクス笑った
「あっ!そうだ!今回パーティに招待されてる中で一番金持ちの投資家の名前をアイツに教えるの忘れた! 」
パラパラと雑誌(ナショナル・ジオグラフィック)をめくりながら見出しに写っている写真を見ながら言った
「社長に電話しますか?専務?」
「無理ですよ!あのお人好しの竜馬社長なんですから」
「そうですよ!あんまりいじめないでやって下さい」
「まぁ!いっか!ああは言ったけど、俺もそんなあてにしてないぜ、あいつがそんな投資家を捕まえられたら俺は逆立ちしてやるよ! 」
つっけんどんに言って宗一郎はその雑誌を放り投げた
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「ミスター・松下!それではこの外壁は グランド・ホワイトスニーカー議員の特別注文だったのですね!」
ヒューストン一の派手な国会議員「グランド・ホワイトスニーカー」の邸宅の外壁前で、その記者は竜馬と外壁がよく映えるような場所を何時間もかけて探し、ようやくシャッターをパシャパシャ切りだした
竜馬は兵隊のように緊張して、外壁にぴったり寄り添い「気をつけ」の姿勢で写真を撮られるままにした
「は・・・ハイ!大変なお仕事をされているホワイトスニーカー議員が、邸宅にお帰りにな・・なられた時に、少しでも故郷の癒しを・・・えっと・・・受けて頂けますように、社をあげて制作させていただきましたっ!」
竜馬は緊張してシャツの中が汗だくになりながら、インタビューに答えた
「この外壁のこだわりを教えてください!っっ」
「製作日数は何日間ですか?」
怒鳴るようにインタビュアーが竜馬に詰め寄り、マイクを突き付ける
#地雷系
尾津嘉寿夫 ーおづかずおー
1,294
クラリス
2,220
リリア💙🤍
207
#いじめ
名瀬口にぼし
279
「えっと・・・そうですね・・・こだわりですか? え~っと・・・」
その時、城ほどもある邸宅の車寄せに真っ白のリムジンが乗りつけられた、ワッと報道陣が有名な女優が現れたと言って、そっちへ雪崩のように移動した、そして竜馬だけがそこに取り残された
ふぅ~「まぁ・・・よかったかな? 」
少しホッとして呟いた、その女優が乗って来たリムジンはグランド邸の正面玄関に駐車され、三脚を立て待ち構えていた多くの報道陣に写真を撮られていた、おかげで外壁の周りにいても人が集まらないので、竜馬はいったん客と報道陣と一緒に、邸宅の中に向かった
とびきり豪華な邸宅は、大玄関に入った瞬間から異世界が展開していた、ブラックフォーマルを身にまとった男性軍にカラフルなイブニングドレスの女性達がきらびやかさに華を添え、彼女達のまとっている宝石類がキラキラ輝き、頭上のディオールのシャンデリアと反射して、竜馬はあまりのまぶしさに目を回した
そこへ「グランド・ホワイトスニーカー議員」がやってきて、またハイエナ報道陣に囲まれた、あれだけのフラッシュを浴びながら、終始落ち着いたグランドの気の利いたジョークに、報道陣が一気にドッと笑った
竜馬は感心した、あんなに攻め立てられるような報道陣の質問に、冗談でかわし、なおかつ彼らを笑わすなんて竜馬には到底できない芸当だ
―宗一郎・・・ごめん 僕には無理だよ・・・―
竜馬は首を振り、心の中で宗一郎にパトロンを見つけられないことを謝った、そして早くも今回のパーティーで収穫が何もなかった時の言い訳を考えだしていた、パーティ会場にいる間は、竜馬はしょっちゅうトイレに行きたく、まるで自分の膀胱にトラックが停まっているかのようだ
そして決まってトイレとは見当違いの方向に歩いて行って迷うのだった、トイレから帰り、気を取り直して集まっているゲストを見渡してみる
宗一郎なら絶対に羨ましがるに違いなと思い、ここに自分がいることに得意な気分になった、何しろ顔を動かすたびに、有名人や権力者が目に入るのだから ・・・多種多様なゲストに竜馬は圧倒された
若い俳優達・・・政治家の軍団、ひときわ背の高い軍団はヒューストンバスケットチームの面々だ、だが一方で竜馬は気が引けて惨めな思いもした、あまりにも場違いすぎる、ここには自分が親し気に話す人や、自分を誰かに紹介してくれる人もいなかった
しばらく壁の花になって、ひたすら飲み物を啜っていると、周りのおしゃべりが耳に入ってきた
「・・・・噂ではシークレット・ゲストで大統領が、お見えになるそうよ・・・」
「まぁ!大統領が? 」
「ヒューストン国際記念公園建設計画に大統領はサインをしたそうよ 」
「それじゃ!グランド議員が配下に加わるのね」
周りの貴婦人の大きな声の噂話が会場中に響き、人々は大統領を迎える興奮に包まれた
「うわぁ・・・・大統領がくるんだぁ・・ それじゃ・・・きっとあそこだな! 」
竜馬は眩い客の海を通り抜け、人々の流れに逆らって邸宅の見事なバルコニーに出た、そこからは夕闇が迫り、太陽が地平線に落ち着こうとする前で、竜馬達の手掛けた外壁の向こうにグランド邸専用の大きなヘリポートまでが見渡せた
今やそのヘリポートの周りには、報道陣が三脚を立てて集まり、黒いリムジンやシークレットサービスの真っ黒なスーツにワイヤレスイヤホンを付けた人たちが、忙しく行き来していた
アメリカ国旗が掲げられ、 鼓笛隊が一列に並んで大統領を迎える準備をしている、ヘリポートには、只ならぬ熱気が溢れていた
「すごい!きっともうすぐ来るんだぁ~」
竜馬はバルコニーのベランダにもたれ、その光景に見入っていた、ヘリポートの向こうに花火の設営をしている花火師の姿を見つけた
きっと大統領が到着したと同時に花火が上がるのだろう、これは宗一郎に良い土産話ができたと竜馬は思った、この目で直に大統領を見れるなんて一生に有るか無いかだ、考えれば考えるほど、今だにいくら外壁を作ったからといって、どうして自分の会社がここに呼ばれたのかが不思議で仕方がなかった
そして、とてもじゃないが大統領には名刺は渡せないと、一人でおかしくなって笑った
「もし・・・そこのお方、よければこの展覧会に署名をしていただけませんか?」
細身のビジネススーツを着た、ブロンドの女性が竜馬に声をかけてきた
「ピカソは偉大な画家かもしれませんが、彼でもまだ画家の卵の時代がありました、ヒューストンにはピカソと匹敵するアートの才能溢れた若者が沢山います、よろしければそんな若者に少しでいいので、関心を持っていただけませんか? 」
バルコニーの一角のブースに、その若者たちの絵画の展覧会が設置されていた
「へぇ~・・・ 」
竜馬は興味を惹かれて、今は誰もいないその絵画が展覧されているブースに足を踏み入れた
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その展覧会は、とても現代的なアート作品ばかりで、それと同時にピカソの初期の作品の模倣作が展示されていた、さらに見て回ると「ウォーホールのポップアート」というタイトルがつけられていて、ポスターのような車の絵画が沢山あった
車の絵画は一見、雑誌の広告をコピーしたかのようで、さまざまな色の同形のスポーツカーが綺麗に並べられ展示されていた
「へぇ~・・すごいな・・・」
竜馬は感心して一つ、一つ鑑賞して行った、ジャスティンが乗っていた青のコンバーチブルの絵画の前でしばし足を止め、懐かしい思いで絵画を眺めた
そして会場を後にする時に、署名しようと長テーブルの署名場所に向かった
長テーブルには誰もいなかった、竜馬はかがみ込みんでペンを取り、署名用紙に名前を書き込もうとした、しかしそのペンのインクが出てこない
―ダメなペン・・・どうしよう僕はペンを持っていないな―
こういう時にはペンを持っていなくちゃ・・・また宗一郎に怒られそうだ、竜馬はもう一度ペンを振ってからトライした やっぱり駄目だった
「ほら・・・これ使えよ・・ 」
と隣にいた男性が竜馬の手の隣に銀の万年筆を置いた、手のひらを使って万年筆をこちらに転がしてきた
「ああ・・・ご丁寧にすいませ― 」
―ドクンッ ―
竜馬の全身の血液が逆流した、その手には見覚えがあった、竜馬は黙ってその手をじっと見つめた、長袖で今は見えないが、びっしり腕に生えている毛は金色で、クマみたいなのに金毛だから全く目立たないはずだ
その人差し指は、マフィアの血の契りをしたおかげで引き金を引く場所・・・
第一関節にはすっかり癒えた白い傷跡が残っている・・・
その手を知っていた
記憶よりももっと深い部分で
それが誰の手であるか竜馬は知っていた、でもまさか信じたくなかった
竜馬の産毛が全身逆立った
ゆっくり顔を上げた
それは何年間も竜馬に憑りついて離れなかった
ヘリポートには大統領が到着したのか、一斉に鼓笛隊のアメリカ国歌が演奏された、多くの歓声がここまで聞こえた、花火がドドーンと上がり、光に照らされて竜馬の顔がピンクになった
しかしあれほど見たいと思っていた大統領より、竜馬は目の前の人物から視線を離せなかった
ドドーンッ!!
もう一発花火が夜空に上がった、その人物も花火の光に照らされて赤紫になった、しかしいくら赤紫になっても、その人物の毛先が白の金髪で頭皮に行くほど、濃く色鮮やかで、今は綺麗な金髪が耳にかかり、裾はワイシャツの襟が隠れるぐらい長めだった
―髪を伸ばしている―
一番最初に竜馬が思ったのはそれだった
ほっそりした顎、ダークシルバーのスーツの下の筋肉質な体は・・・相変わらずナイフのように引き締まっている、 遠くからでもハッキリわかる、ロイヤルブルーの瞳を輝かせてじっと竜馬を見ている・・・
心臓が痛い
「ジャスティン・・・」
竜馬は小さく呟いた
コメント
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第195話、読み応えありました。宗一郎の野心と竜馬の温厚さの対比が際立って、二人の関係性がより深く見えた回ですね。特にラスト、あの万年筆の手と花火の演出でジャスティンが再登場する場面は鳥肌が立ちました。過去の因縁が一気に現在と繋がる感じがして、次が気になりすぎます。タグにある「初恋」がどう絡んでくるのか、今から楽しみです。