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臣桜
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#大人ロマンス
朝永ゆうり
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私は大夢くんが靴に履き替えている間に、首元にしゅっとひと噴き、あの香水をかけてみた。
ほのかに甘いバラの香り。
けど、それ以外に感じるものは特になかった。
本当にこんなものに、魔法の力なんてものがあるんだろうか。
「どうしたの? 行くよ」
「あ、うん。ちょっと待ってて」
私は急いで靴を履き替え、大夢くんのそばまで駆け寄った。
校門を抜けて、歩道を歩く。
言葉はない。
ただ、ふたり並んで歩くだけ。
こちらから話題を振らないと、大夢くんは自分から話すようなことはほとんどなかった。
それがより一層、私の気持ちを不安にさせる。
今のところ、かけた香水の効果は感じられない。
「ねぇ、大夢くん」
「……なに?」
「最近、なにかハマってるものとか、ある?」
「……俺、趣味とかあんまないから。たまにゲームするくらいだな」
「そうなんだ」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
話が、なんだか続かない。
香水をかけたというのに、大夢くんの態度はいつものそれと変わりなかった。
ただ、淡々と、黙って歩く私と大夢くん。
魔法なんて、信じた私がバカみたいだ。
「――ほんと、バカみたい」
思わず口にしてしまった私に、大夢くんは「えっ」と顔をこちらに向けた。
「なにが? 俺の趣味がないこと?」
私は慌てて、
「あ、ごめんね。違うの! そうじゃない!」
「じゃぁ、どういうこと?」
「え? それは――」
一瞬、魔法の香水のことを話しそうになって、私は言い淀んだ。
この香水を否定するということは、親友である茜のことを否定することでもある。
そんなことしたくなくて、私は、
「ううん、ごめん、気にしないで。なんか、趣味の話なんてくだらない話だったなって自己嫌悪しちゃっただけだから」
「本当に? 自己嫌悪するほどのことじゃないと思うけど。ただ俺がそういう人間だってだけの話で、ヒトミが気にするようなことじゃない。嫌な思いにさせたなら、ごめん」
大夢くんは表情を変えないままで、小さく頭を下げた。
「そ、そんな! 大夢くんが謝るようなことじゃないよ!」
「……そんなことはない。だから、ヒトミも気にするな」
「……うん、ありがとう」
私は、できる限りの笑顔で答えた。
大夢くんは間違いなく私のことを好きに違いない。
じゃないと、こんなふうに言ってくれないだろう。
……たぶん。
全ては私の杞憂でしかないのだと思う。
そう、きっと……
けど、やっぱり大夢くんの本心はわからないままだった。
大夢くんだって私に気を使ってくれるくらいにはとても優しい。
けど、私のことを好きだと言ってくれたことは、今の今まで一度もない。
私を好きだと何度も言ってくれるのは、上柳くんの方だった。
私はそんな大夢くんと上柳くんのことを思いながら、大夢くんに聞こえないように小さくため息を吐いた。
私は、上柳くんの告白を、いったいどうすればいいのだろうか、と。
コメント
1件
うわあ…ヒトミの不安がじわじわ伝わってくる回だったね。香水かけても大夢くんの態度が変わらなくて、「魔法なんて信じた私がバカみたい」って思うところ、すごく切なかった。でも大夢くんが「嫌な思いにさせたならごめん」って謝るところ、彼なりに気にしてるんだなって感じたよ。それと、上柳くんの告白をどうしようかって最後の悩み、めっちゃ気になる…!重すぎず、でも心に残るお話だね🥀