テラーノベル
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その後、アルバイトと言う名のゲーム時間は“ガンサバイブオンライン”の下準備に費やされた。
ひたすらにこのゲームでの戦い方を覚え、銃の扱い方のレクチャーを受けるという毎日。
とはいえ、結構リリースまでに時間が無かったらしく。
数多くの武器の知識を付けると言うより、私に合ったスタイルの物だけを選び、それを使ってひたすらに強くなる訓練……みたいな感じだったけど。
そして、このゲームがサービス開始された初日。
『いいか? 夢月、まずは普通にプレイしているだけだと思え。とはいえ、初日は基本的に戦闘行為禁止。他のユーザーと違って、お前はβテスト外部での実績……そのステータスをコンバートされてる。しかも、運営のサポート付きで。この時点で色々と他のプレイヤーとは違いが出てる、分かるな?』
「う、うん……とりあえず戦わない、私のステータスを見せない。初日は世界観に慣れる……って事だよね?」
まだキャラクターも作成していない、チュートリアルも始まっていない画面だけど。
私の耳には、兄の声が聞こえて来ていた。
ちなみに現状、会社の人も私の事をモニタリングしているらしい。
そう考えると、無駄に緊張してしまいそうになるけど……私が変な所でヘマをしない様、向こうのマイクは切ってくれたんだとか。
その為此方の感覚としては、兄から説明を受けつつゲームを始めた様な状態。
ステータスは、ちょっと他の方にはお見せ出来ない状態になっているのだが。
『とりあえず、お前のキャラクターを作っちゃってくれ。時間を掛けても大丈夫だぞ? こっちはこっちで、他にモニタリングする事もあるからな』
「わかった、とにかく作ってみるね?」
会話をしつつ、とりあえず目の前に浮かんだメニュー画面を弄り回す。
今時は平気なんだろうけど、オンラインゲームでガワも中身も女って、悪目立ちするって言うし……思い切って、男性キャラクターを作ってみようか。
身長とか身体つきとか、色々と感覚の誤差は出るだろうけど。
これもまぁ、慣れてしまえば問題は無いだろう。
他のゲームでも、操作キャラが男性だった事も多いし、わりと得意。
という事で、物凄く細かく設定できるメニューから色々と選択し……出来上がったのが。
『ぁ~その、なんだ。お前の趣味に口を出すつもりは無いが……こういうのが、好みなのか?』
「ち、違うよ!? 確かに格好良くなるように作ったけど……ゲーム的に、こっちの方が雰囲気も出るのかなって思っただけだよ!?」
私の目の前には、出来上がったばかりのキャラクタープレビュー。
その姿は何というか……まごう事無き、おじさん。
渋い、シュッとして格好良い、何か寡黙そうな見た目!
という点だけを押さえて、それこそ映画に出て来る“殺し屋”っぽくしてみたのだが。
駄目、だろうか?
だって街中で銃を使うゲームだし、物凄く厳つい人より、スーツとか着ていても普通に見える人の方が良さそうだと思って。
『まぁいいか、確かに見た目は良いし。運営から送られて来るエネミーって言われても、恥を晒す事もなさそうだ』
「なんか酷い言われ様だよ!? 私のセンスってそんなに酷いの!?」
『違う違う。こういうゲームでは、本当にふざけた見た目にするプレイヤーも多いって事だよ。むしろゲームのコンセプトとしては、お前の作ったキャラクターの方が正しい。“普通”に見せる事こそ、ガンサバイブオンラインでは生き残れる可能性が高くなるからな』
だ、そうです。
とりあえず兄からもOKを貰い、おじさんキャラで決定してから……服装は迷わずスーツを選択。
あんまり派手な格好にしても目立っちゃうから、それこそ暗い色にして~とか何とか。
色々と設定を終えて、決定ボタンをタップしてみれば。
「おぉぉ~」
ゲームが開始され、私の身体は“アバター”へと変更された。
その為一気に視線が高くなり、自らの身体を見下ろしてみれば……普段は見る事の出来ない、格好良いスーツ姿。
そして周りには、たくさんの人が歩いている状態の街中からスタートしたみたいだ。
未だ視界にはチュートリアルが表示されているが、こっちは兄が説明してくれるらしいので、まとめてスキップして良いとか何とか。
街を行き交う人々に紛れる様にしながら、適当に歩いていると。
『夢月、ニヤニヤし過ぎ。それじゃ一発でプレイヤーだってバレるぞ』
#このキャラでログインしたい
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「うっ!? そ、そっか。なるべく他のNPCに紛れながら、プレイヤー同士で戦うゲームだもんね……」
『うっわ、声渋いな!?』
「う、うるさいな!? お兄ちゃんこそ、オンライン中に本名呼ばないでよ!」
などと声を上げてしまえば、周囲の人達が不思議そうな表情を此方に向けて来た。
いけない、変な事をするとこういう場面でも目立ってしまう。
そうなれば対人戦の前に、そもそもNPCから警戒されたり、警察を呼ばれたりする事もある様で。
本当に良く出来てるなぁ……なんて、感心したのも束の間。
『俺の声はお前にしか聞こえない、大丈夫だ。とはいえ、こっちからも全部見えているって訳じゃないから、お前も注意すること。いきなりキルされるなよ?』
「りょ、了解……」
物凄く小声で呟いてから、一度人混みを離れてお店に入ってみた。
カフェ……というか、海外のファーストフード店みたいな所。
奥の席に座れば、あんまり声も聞えないかな?
「それで、お兄ちゃん。私の武器は?」
『とりあえず、お前が練習で使ってたハンドガン。ソレを一丁コンバートする、あとマガジンな。普通はチュートリアルの際に店で買う所から始めるんだが、お前の場合はその辺は省略。装備させるけど、急に変な事するなよ?』
そんな声を聞きつつ、しばらく待ってみると。
身体に少々の違和感……というか、何かを装備している感覚が。
チラッとスーツの上着を少し捲ってみると、脇の下にホルスターが装備され、そこには黒い拳銃が差さっていた。
今回の私のお仕事、運営側としてプレイヤーの動向を観察する事……だけなら良いのだが。
まずはこのゲームの“オンライン”に慣れ、その後は問題となるプレイヤー達の相手。
管理側として直接手が出し辛い状況などで、私という“特別なエネミー”が登場するというシナリオみたいだ。
その為本来のプレイヤーなら許されないであろう、βテスト期間とは別にプレイしていた私の経験値をコンバート。
これだけで本日始めたプレイヤーどころか、テストプレイヤーよりも下手すると高いステータスになっている状態だという。
もう一つ言うのなら、プレイスタイルと尖らせる能力も既に決まっているのも大きい。
あとは運営側からの……つまり、兄の指示に従う事。
とはいえ、最初からあまりにチートキャラになってしまうと批判を買う恐れがある。
なので、サポートはあくまで最低限。
兄からの戦闘補助は、街中に設置された監視カメラの映像頼りらしいし、武器だって何でもポンポン出してくれる訳じゃない。
ちなみにカメラ映像のハッキングに関しては、キャラクターを育て方によって普通のプレイヤーでも可能なんだとか。
つまり今現状、他の人より早い段階で育っている私のプレイデータを、そのまま初日から使っている事が一番のズル。
あとは最初からサポートが入るという有利な点があるって事なのだが……逆に言うと、それだけ。
分かりやすいデータ改造や、エネミーだからこその有り得ない数字などには設定されていないという事だ。
『さて、それじゃまずは街中を散策して、プレイヤーとNPCを見極められる様にしないとな。このゲームは、基本的に名前の表示なんかもされない――』
兄が説明してくれている間、お店の外でズドンッ! と凄い音が響き渡った。
これと同時に店のガラスがビリビリと震え、周囲に居たNPC達が慌てて頭を下げたり、店の外へと逃げ出していく。
おぉ~、なんか反応が凄くリアルだ~とか感動を覚えていると。
「……うん、アレは間違いなくプレイヤーだね」
『……だな。まぁ、サービス開始日だからな。皆テンション上がってるんだろ』
窓の外へと視線を向けてみれば、派手に銃を撃ちまくっている人達が数名。
中には手榴弾を放り投げている人も居るみたいで、周りの被害はお構いなし。
さっきの音と衝撃は、どうやら彼等が爆弾を使ったのが原因だったらしい……。
いやうん、凄く分かりやすいんだけどさ。
これ、そういうゲームじゃないから……あくまでも、一般人に紛れてPVPするゲームだから。
アレでは完全に、ただの戦争ゲームにしかなっていない様な。
『ま、まぁ良いや。とにかく観察してみろ。多分、彼等を遠巻きに見ているプレイヤーだって居る筈だ。お前にとっても、良い練習になる』
「う、うん……分かった。出来る限り、見つけてみるね」
という事で、こちらも一般人のフリをしながら。
派手に戦っている彼等を、遠巻きに観察し始めるのであった。
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