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「また見つけた。多分あの青いパーカー着てる人も、プレイヤーだと思う」
『お見事、本当に良い観察力してるよ』
ポツリポツリと兄と会話しつつ、街中を移動。
改めて思うけど……あえて“普通”を演じるのって、意外と難しい。
目的がある以上、どうしたって動きに出てしまう。
ストーリーやNPC戦もあるが、PVPがメインのこのゲーム。
だからこそ街中でも周囲を、というか周りの人間を観察しようとしてしまうのは仕方ない事。
けどこの行動を分かりやすく行えば、それこそ“目立つ”。
さっきから私が見つけているプレイヤー達も、こう言った行動を取ってしまっている人が多い。
逆に言うのなら、きっとそれ以外にも居たであろうプレイヤー達は、完全に周囲に溶け込んでいるという事なのだ。
このゲーム、本当にNPCとプレイヤーを見分けるのが難しい。
私もそうあろうと意識はしているのだけど、ちゃんと出来ているのかと言われると自信がない。
というのも。
『夢月、顔』
「うっ!? そんなに変な顔してる……?」
『というより怯えてる様な、警戒している様な……プレイヤー独特の表情をしているというか。むしろお前の場合は、癖にも近いのかもしれないけど』
こればかりは、本当にどうしようもなかった。
コミュ力ゼロなので、普段から結構オドオドしている自覚はある。
というかそうか、物凄く今更だけど……オンラインで、しかもフルダイブとなると。
あんまり変な顔をしていると、それがそのまま相手に伝わってしまうのか。
そうなってくると、本格的にこのゲーム私に向いてないんじゃ……。
「お兄ちゃん、表情の反映ってどこかオフに出来たっけ……? ほら、ボイスチェンジャーみたいに、フィルター掛ける感じにさ」
『あぁ~そっか、お前基本ソロプレイだもんな。機器の設定はそのまんまか……んじゃ先にそっちを教えてやるから、一旦どっかの建物に入って。メニュー操作している所を見られたら、コントロールパネル自体は他者から見えなくても、動きだけでプレイヤーだってバレる。ていうのと、NPCにも不審がられるからな』
そんな訳で、慌てて駆け込んだ先にあったのは……うーむ、工事中のビルか何か。
まぁ、良いか。
今は作業員も居ないみたいだし、ここなら人目にもつかない。
そのまま建物奥へと進んで行き、メニュー画面を開いて色々と操作していく。
ゲームの設定ならまだしも、関連機器の設定とか今やる事じゃないよねぇ……などと、自分でも呆れてしまうが。
『ん? 表情のトレース、ゼロで良いのか? 普通のプレイにも支障が出るぞ?』
「うん、顔に出したくないし。それにこのゲームなら、笑ったり泣いたりするメリットも無いでしょ?」
『ま、まぁなぁ……なんかそれはそれでズルいが、というか愛想笑いも出来なくなるけど……あぁでも、口の動きは連動させておけよ? 喋っても口が動かないとか、腹話術師じゃないんだから。それもプレイヤーだってバレる原因の一つになるぞ?』
「はーい」
『口調は夢月のままなのに、声がいちいち渋い……』
イヤホンの向こうからは、やや苦い声が聞えて来た気がするけど。
まぁ、今は良いとして。
兄に言われた通りに設定を終え、一旦システムメニューを閉じたところで。
『夢月、お客さんだ』
「うっ……もしかして、私みたいに設定弄ろうとしてる人? だとしたら、場所空けた方が良いよね……」
『馬鹿、違う。建物内に銃構えて入って来たのが三人。お前、後を付けられたぞ』
うげっ、つまり私がプレイヤーだとバレて、早速勝負を吹っ掛けられてしまったという事か。
だとすると不味い、私は今日戦闘禁止だと言われてるし……。
『あー、ちょっと待ってな? 上に申請してみて……っと。お? あっさり』
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん! こんな時に何をのんびりしてるの!? 相手来ちゃう! どうするのコレ!」
何やら一人でブツブツ言っている兄に対して、此方は慌てながらもボソボソと小さな声で喋り続けるが。
イヤホンの向こうから、次に聞えて来た言葉は。
『夢月、戦って良いぞ。動きのテストって事で、会社からも了承が出た。んで……だ、出来れば“殺さず”でやってみてくれ』
「……へ?」
なんか、とんでもない事言いだしたけど。
『キルログを残すと、お前の名前が残る。だからそこまでやらずに相手を制圧、いけるか?』
「む、無理だってば! 鉄砲使って、どうやって手加減するの!?」
『相手はチュートリアルを終えてる筈だから、回復アイテムも持ってる筈だ。使い切ってない限りはな? だから脚や腹を撃って離脱。前にも言った通り、このゲームはステータスによって、あまりにも人間離れした行動が出来るかと言われると……そうじゃない。つまり、相手から見たらすげぇ強いプレイヤーが居た。ってだけの“記憶”になる可能性が高いって事』
「つまり……出来ればその証拠すら残したくないから、キルまでは取らないで逃げるって事?」
『そゆこと。そっちの建物内は監視カメラ無いし、俺はサポート出来ないけどな。あとで映像データよろしく~』
ちょっ、とぉぉぉ!?
このゲームでの初PVP、しかも一対多。
そんな状況な上に、此方は加減して戦うという“縛り”まで含める事になるのか?
いや、無理でしょ。
いくら何でも、プレイヤーを舐めすぎだって。
だって私のステータスだって、他の人に比べて馬鹿みたいに高いって訳でもないし。
そもそも装備なんて、他のプレイヤーと本当に一緒の初期装備。
むしろチュートリアルをやっていない分、ハンドガン以外持っていないんですけど!?
『大丈夫だ、いつも通りやれば良い。お前なら余裕で勝てる』
「何を根拠に!?」
『お前“のめり込む能力”は異常に高い、だからこそテストプレイヤーにも選ばれたんだよ。ま、そっちの話は後でな。ホラホラ、準備しろ』
あぁもう! 滅茶苦茶だよ!
という事で、脇に装備されたホルスターから拳銃を引き抜き、スライドを引く。
カショッと金属音を立てて、銃弾が装填されたのを確認してから。
物陰に身を潜めて、ジッと息を殺した。
あれ? なんだか練習していた時より銃がしっくり来るというか。
ちゃんと掌に収まっている気が……とか何とか思った所で、自らの掌に視線を落として気がついた。
そっか、今私は男性の身体で操作しているんだ。
身体はいつもより大きいし、当然力も強い。
その分身を潜める時とかは気を付けないといけないけど……でも、銃の反動とかそういう意味では、凄くメリットがある気がする。
これも色々と調べていかないと、これからも“ガンサバイブオンライン”をプレイする為には。
なんて、少しだけワクワクした気持ちが浮上して来たところで。
遠くから……パキッと、何かを踏みつけた音が聞えて来た。
相手が来たんだ、確か三人って言ってた。
フロア内には私と相手しか居ない。
だからこそ、敵が動くとよく音が響く。
コレを頼りに、身を潜めたまま相手の位置を探っていくと……大丈夫、分かる。
ゆっくりとこっちに向かって来るけど、あんまり音を殺そうとはしていないみたいだ。
まだゲームに慣れていないからなのか、それとも向こうの方が人数も多いからって舐められているのか。
まぁ、どちらにせよ。
「ふっ!」
身を潜めていた場所に、最初の一人が踏み込んだ瞬間。
視界に映った相手の武器を直接掴み、逸らす。
そのまま脚に此方の銃を押し付けて二発。
怯んだところに腹に一発。
普通ならこれだけでもかなりの重症だけど、コレはゲーム。
回復アイテムを使えば、即死はあり得ない。
後ろに居た二人が私に銃を向けて来るが、さっき攻撃した人を盾にしながら威嚇射撃。
銃身を掴んでいたハンドガンを毟り取る様にして奪い取ってから、残る二人の方へと目の前の人を蹴り飛ばした。
そして、すぐさま逃げる。
背後からは何度も発砲音が聞こえて来るけど、一目散に逃げる。
そんでもってまた身を隠してから、自分の武器をホルスターに戻して、さっき奪った銃をチェック。
よし、私でも使えるヤツだ。
という事で、今度はそっちを構えて相手の到着を待つ。
これが私の選んだ、一番生存率が高い戦闘スタイル。
大きな武器程扱いが難しいし、種類が多過ぎて使い方が分からない物がいっぱいあった。
だからこそ、基本的にハンドガン。
それから狭い所での戦闘に誘い込んで、可能な限り超近接戦。
ガンアクションのゲームなのに、コレはどうなの? とは自分でも思うけど。
けどコレで、テストプレイの時はずっと生き残って来たのだ。
『お見事、やるなぁ夢月。相手は今治療中っぽい、本社の皆がモニタリングしながら笑ってるぞ? 妹さん強ぇ~って。監視カメラが無いから、直接映像が見られないのが残念だ』
「お兄ちゃん、煩い。戦闘中」
『これは失礼。んじゃ、あと二人だ』
という事で、戦闘は継続。
出来ればこのまま逃げてくれたりするとありがたいんだけど……流石に、武器を奪っちゃったらそうもいかないよね。
完全に戦闘が終わって、一定時間が経てば相手の手元に戻るとはいえ、奪われたままなのは絶対悔しいし。
そもそも銃が返って来るまでの間は、武器が無い状態でゲームを続行しないといけなくなるのだ。
そして本日がサービス開始日だというのなら、相手だって懐が温かい筈もない。
だからこそ。
「武器を持ってるのは残り二人……って、思考を放棄するのは危ないよね。その辺にある物でも武器になるゲームなんだから……なら、三人で襲って来ると思って良い筈」
思い切り溜息を零してしまいたくなる状況ではあるものの……やばい、楽しい。
PVPって、負けちゃいけない戦闘って、こんなにドキドキするんだ。
これはちょっと、一人プレイでは味わえない緊張感だ。